物語

『収奪された大地』で読むラテンアメリカ

出てくるできごと AD1492 – AD1973
できごと 10人物 1国 2
この物語に出てくる図版:Conquista-de-México-por-Cortés-Tenochtitlan-Painting
この物語に出てくるテノチティトランの陥落から。Conquista-de-México-por-Cortés-Tenochtitlan-Painting Wikimedia Commons Unknown author Unknown author · Public domain

概要

500年の歴史を、何が持ち去られたかで書く。金、銀、砂糖、ゴム、コーヒー、銅、石油。

この物語について

豊かな土地は、なぜ貧しいのか。金も銀も、砂糖も銅も石油もある大地で、なぜ多くの人が貧しいままなのか。

『収奪された大地』(エドゥアルド・ガレアーノ、1971年、日本語版1986年)は、歴史書というより、告発の文章になる。原題は『ラテンアメリカの開いた血管』という。切り開かれた血管から血が流れ出ていくように、大地の富が外へ流れ出ていく。その比喩が、本全体を貫いている。著者のエドゥアルド・ガレアーノは1940年にウルグアイのモンテビデオで生まれた記者で、この本を書いたのは30歳前後のころだった。1971年の『収奪された大地』の刊行は、無名に近かった若い記者の名を大陸じゅうに知らせた。本は、ラテンアメリカの500年を、何が持ち去られたかで書き通している。

構成は品物ごとになる。どの品も、掘り出され、運び出され、あとに貧しい土地が残った、という筋で語られる。その最初の場面は、1492年のコロンブスの到達である。

征服は速かった。1521年、エルナン・コルテスの率いるわずかな兵と、アステカに反感を持つ先住民の同盟軍が、モクテスマ2世の都を攻め落とした。テノチティトランの陥落である。1532年にはフランシスコ・ピサロがアンデスのカハマルカでインカの王アタワルパを捕らえた。王は身代金として部屋を金と銀で満たすことを約束し、それが果たされたのちも、翌年に処刑された。インカ帝国の滅亡のあと、アンデスの富はスペインのものになる。征服者の暴力は、修道士バルトロメ・デ・ラス・カサスが告発の文書に書き残した。

本の中心は、ポトシの銀山である。アンデスの高地の山で銀の鉱脈が見つかったのは1545年で、その山は富の山と呼ばれた。ポトシ銀山の開発が進むと、標高4000メートルを超える高地に、17世紀の初めには十数万人が住む町ができ、新大陸で最大級の都市になったとされる。働かされたのは先住民だった。インカの時代の労働の割り当てを流用したミタ制で、村々から男たちが送り込まれ、坑道の崩落や、銀の精錬に使う水銀の毒で多くが命を落とした。スペイン語には、ポトシほどの値打ちがある、という言い回しが残っている。ガレアーノは、この銀がスペインを素通りし、借金の返済や輸入の代金としてヨーロッパの他の国々へ流れていったことを強調する。何世紀も掘られた山は、いまも採掘が続いているが、かつての富は残っていない。ポトシのあるボリビアは、南米で最も貧しい国の一つである。

ブラジルでは17世紀の終わりにミナスジェライスで金が見つかり、18世紀には大量の金が掘られた。その金も、ポルトガルを経て、毛織物の代金としてイギリスへ流れた、と本は書く。カリブとブラジル北東部ではカリブの砂糖プランテーションの農園が森を切り開き、土地を痩せさせた。働き手は大西洋奴隷貿易で運ばれたアフリカの人々だった。ガレアーノの筆は、富がどこで生まれ、どこで使われたかの落差に向けられる。

大西洋奴隷貿易に関わる図版:Slave Auction Ad
大西洋奴隷貿易Wikimedia Commons Unknown author Unknown author · Public domain

本の言い方はこうなる。ラテンアメリカが貧しいのは資源が無いからではない。豊かだったからだ。

19世紀の初め、ラテンアメリカの国々は次々と独立した。1810年に始まるメキシコの独立の戦い、南米でのシモン・ボリバルの遠征。だがガレアーノは、独立しても構造は変わらなかったと見る。スペインやポルトガルの代わりに、イギリスの商人と銀行が、のちにはアメリカの企業が入ってきた。1823年のモンロー宣言は、ヨーロッパの介入を退ける宣言であると同時に、この地域をアメリカの勢力圏とみなす考えの始まりにもなった。

メキシコの独立に関わる図版:Collage Independencia
メキシコの独立Wikimedia Commons Hpav7 · Public domain

独立したメキシコでは、19世紀の終わりの長い独裁のもとで鉄道や鉱山や油田に外国の資本が流れ込み、土地を失った農民の不満が1910年のメキシコ革命となって爆発した。1938年には、メキシコ政府が外国の石油会社の資産を国有化している。資源を誰の手に置くのかという争いは、本が書かれる前から何度も繰り返されていた。

品物は時代ごとに替わった。19世紀の末にはアマゾンのゴムが大ブームを起こし、密林の奥の町マナウスにオペラ劇場まで建った。だがゴムの種がイギリス人によって持ち出され、東南アジアの農園で作られるようになると、ブームは崩れた。中米ではバナナである。ユナイテッド・フルーツと「バナナ共和国」は広大な土地と鉄道と港を手に入れ、国の政治を左右するほどの力を持った。小国を「バナナ共和国」と呼ぶ言い方は、ここから生まれた。1954年、グアテマラの政権が土地改革で同社の使っていない土地を接収しようとすると、アメリカの情報機関が支援したクーデターで政権は倒された。5年後のキューバ革命は、こうした歴史への反発の上に起きた。

チリでは銅が国の命綱だった。1970年に大統領となったアジェンデは、翌年、アメリカ企業の持つ銅山を国有化した。1973年9月11日、軍がクーデターを起こし、アジェンデは大統領府で死んだ。チリのクーデターのあと、ピノチェトの軍事政権が1990年まで続き、多くの人が殺され、行方不明になった。

チリのクーデターに関わる図版:Atlas Van der Hagen-KW1049B13 089-CHILI
チリのクーデターWikimedia Commons Dirk Jansz van Santen · Public domain

刊行の2年後、チリでクーデターが起きた。この本はチリ、アルゼンチン、ウルグアイの軍事政権に発禁にされ、著者は投獄されたのち亡命した。ウルグアイでも1973年に軍が実権を握り、ガレアーノは捕らえられたのちアルゼンチンへ逃れ、1976年にアルゼンチンでもクーデターが起きると、スペインへ渡った。故国に戻ったのは、軍政が終わった1985年のことである。亡命中のガレアーノは、アメリカ大陸の歴史を短い挿話の積み重ねで描く『火の記憶』の三部作を書いた。歴史を論文としてではなく、物語と証言の断片で語るという書き方は、この最初の本から続いている。のちにはサッカーの歴史を同じ筆致で書いた本も広く読まれた。

本は、ラテンアメリカの左派の必読書として読まれ続けた。2009年、米州の首脳会議の場で、ベネズエラのチャベス大統領がアメリカのオバマ大統領にこの本を手渡す場面が報じられ、出版から40年近くたった本が、売れ行きの順位を一気に駆け上がった。チャベス政権は、資源の富を国の手に取り戻すことを掲げていた。

2014年、著者自身が「いま読み返すと文体が耐えられない」「経済学を知らずに経済の本を書いた」と述べた。撤回ではなく、若書きへの自己批判として語られている。経済史の研究者からは、貧しさの原因をすべて外からの収奪に帰していて、国内の制度や支配層の問題を軽く見ている、という批判が以前から出ていた。それでも本は読まれ続けている。正確な経済史としてではなく、奪われた側の怒りを言葉にした文章として。ガレアーノは翌2015年に亡くなった。

21世紀のいまも、資源の話は終わっていない。アンデスの塩湖のリチウム、南米の大豆、チリとペルーの銅。何をどれだけ掘り、その富を誰が受け取るのかという問いは、この本が書かれたときと同じ形で、ラテンアメリカの政治の真ん中にある。

この物語は、本が追った品物を並べ直したものになる。本文は写していない。

動画(1)

Eduardo Galeano, Chronicler of Latin America's "Open Veins"Democracy Now!著者本人が、なぜ被害を受けた側の言葉で書いたのかを語る

この物語が起きた場所

ソビエト連邦カナダアメリカ合衆国アメリカ合衆国ブラジルアルゼンチンアルジェリアスーダンザイールポルトガル帝国サウジアラビアメキシコイランリビア南アフリカペルーチャドマリアンゴラニジェールコロンビアエチオピア帝国ボリビアエジプトモーリタニアトルコタンザニアベネズエラナイジェリアナミビアチリモザンビークフランスザンビアスペインソマリア中央アフリカ共和国ボツワナマダガスカルケニアイラクモロッコカメルーンパラグアイジンバブエイタリアイエメンテノチティトラン(2件) テノチティトランの陥落 メキシコの独立2サン・サルバドル島(1件) コロンブスの到達ベニンシティ(1件) 大西洋奴隷貿易クスコ(1件) インカ帝国の滅亡ポトシ(1件) ポトシ銀山の開発バルバドス(1件) カリブの砂糖プランテーショングアテマラシティ(1件) ユナイテッド・フルーツと「バナナ共和国」ブエノスアイレス(1件) 『収奪された大地』の刊行サンティアゴ(1件) チリのクーデター

できごと10件が起きた9か所。 同じ場所で何度も起きていれば、その数だけ大きくなります。国境はAD1973の版図(この枠に大きく入る47勢力)。 物語は何百年にもまたがるので、最後のできごとの年で描いています。人物・国と、場所の分かっていないできごと3件は出ていません。押すと、この物語だけに絞った地図が開きます。

筋(13)

年代順に並べてあります。役どころが書いてあるものは、なぜこの物語に含まれるかを添えました。

  1. インカ帝国国AD1438年(パチャクテク即位) – AD1533年(アタワルパの処刑)文字を持たないまま、南北4000kmを道と結縄(キープ)で束ねた。95年で最大になり、内戦の直後に180人足らずのスペイン人に倒される。
  2. コロンブスの到達できごとAD1492年10月12日二つの大陸が結ばれた。人・作物・家畜・病原体が行き来し、両側の世界が作り替えられる。サン・サルバドル島(位置は特定されていない)
  3. スペイン帝国国AD1492年(グラナダ陥落とコロンブスの航海) – AD1898年(米西戦争で最後の海外領土を失う)アメリカ大陸の銀を運び、太平洋を横断する定期航路を持った最初の帝国。その銀は中国まで流れ、世界の物価を動かした。19世紀に大陸の領土をほぼ失う。
  4. テノチティトランの陥落できごとAD1521年アステカが滅びた。決め手は武器よりも、持ち込まれた疫病だった。テノチティトラン
  5. 大西洋奴隷貿易できごと1526年1200万人以上がアフリカから大西洋を越えて運ばれた。三つの大陸の人口と社会が、この一つの流れで作り替えられる。ベニンシティ
  6. インカ帝国の滅亡できごとAD1533年内戦で弱っていたところを、200人足らずのスペイン人に崩された。クスコ
  7. ポトシ銀山の開発できごとAD1545年本の中心。山ひとつが人を呑んだ南米の銀がヨーロッパを経て中国へ流れた。世界で最初の、地球を回るお金の流れ。ポトシ
  8. カリブの砂糖プランテーションできごと1640年小さな島が、世界で最も利益の出る土地になった。砂糖のために数百万人が大西洋を運ばれ、ヨーロッパの食卓に甘さが日常として入る。工場に似た労働の管理も、ここで先に生まれた。バルバドス(位置は特定されていない)
  9. メキシコの独立できごと1810年独立しても構造は変わらなかった村の司祭イダルゴが鐘を鳴らして始まり、11年続いた。先住民と混血の人びとの蜂起として始まったが、独立したのは保守派の主導する帝国だった。メキシコシティ
  10. ユナイテッド・フルーツと「バナナ共和国」できごと1899年バナナと、それを守るための介入一つの会社が、中米数か国の鉄道と港と土地を握った。1954年、農地改革を進めたグアテマラ政権が、この会社の働きかけを受けたアメリカの介入で倒される。グアテマラシティ
  11. エドゥアルド・ガレアーノ人物AD1940年9月3日 – AD2015年4月13日著者ジャーナリストとして書いた一冊が、南米の軍事政権に発禁にされ、亡命を強いられた。500年の収奪を、被害を受けた側の言葉で書き直した。
  12. 『収奪された大地』の刊行できごとAD1971年本そのもの。刊行の2年後に南米で発禁になるラテンアメリカ500年の歴史を、金と銀とゴムと砂糖とコーヒーが持ち去られた記録として書いた。チリ、アルゼンチン、ウルグアイの軍事政権が発禁にし、著者は亡命した。ブエノスアイレス
  13. チリのクーデターできごとAD1973年9月11日本が発禁になった政権選挙で選ばれた社会主義政権が軍に倒された。冷戦下で外国の関与もあった。サンティアゴ

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