概要
1963年4月7日、NHKは日曜の夜に、一年をかけて一人の歴史上の人物を描くドラマ『花の生涯』を始めた。主人公は、桜田門外で殺された大老井伊直弼である。映画の会社が専属の俳優をテレビに出さない取り決めを結んでいたなかで、NHKは映画や歌舞伎の大物を口説いて出演させた。翌年の『赤穂浪士』は、最高で53パーセントの視聴率を記録する。のちに「大河ドラマ」と呼ばれるこの枠は、主人公の出身地に観光客を呼び、日本人の歴史の見方にも影響を与え続けている。
場所
35.68°N 139.77°E · 日本・東京都
本文
1950年代、日本の映画の大手の会社は、専属の俳優を勝手にテレビに出させないという協定を結んでいた。テレビは映画の客を奪う相手だったからである。テレビのドラマに映画の人気俳優が出ることは、ほとんど無かった。
NHKの芸能局は、映画に負けない大作を作ろうと考えた。一年を通して、一人の歴史上の人物の生涯を描く。1963年4月7日に始まった『花の生涯』は、舟橋聖一の小説をもとに、開国を決め、桜田門外で殺された大老の井伊直弼を主人公にした。井伊を演じたのは歌舞伎の尾上松緑、その腹心の長野主膳を演じたのは、松竹の人気俳優の佐田啓二である。NHKの担当者が佐田の家に何度も通って口説き落とした。
翌1964年の『赤穂浪士』は、長谷川一夫が大石内蔵助を演じ、討ち入りの回の視聴率は53パーセントに達した。この枠は、のちに「大河ドラマ」と呼ばれるようになる。日曜の夜8時に、家族で歴史のドラマを見るという習わしが生まれた。
大河ドラマは、主人公の故郷に大勢の観光客を呼ぶ。作品が決まると、自治体が観光の計画を立てるほどである。一方で、ドラマで描かれた人物の姿が、そのまま史実として受け取られることも多い。坂本龍馬や織田信長の、いま多くの人が思い浮かべる姿には、大河ドラマが作ったところが少なくない。