概要
1948年7月5日、イギリスで国民保健サービス(NHS)が始まった。病院にかかるのも、医師に診てもらうのも、薬も、眼鏡も入れ歯も、すべての人が、使うときには払わずに受けられる。費用は税金でまかなう。戦時中のベヴァリッジ報告を受け、労働党の保健大臣アナイリン・ベヴァンが、反対する医師の団体を説き伏せて作った。初日から、何年も我慢していた人々が医師のもとへ押し寄せた。イギリスの人々にとって、NHSは戦後の福祉国家の象徴であり、いまも国民が最も誇る制度とされる。
場所
51.51°N -0.13°E · イギリス・イングランド
本文
戦前のイギリスで、医者にかかるのは費用のかかることだった。働く男性の多くは保険で開業医に診てもらえたが、その妻や子どもは入っていなかった。病院は、慈善の寄付で運営される病院と、救貧院に由来する自治体の病院が入り混じり、地域によって大きな差があった。
1942年、ベヴァリッジ報告は、戦後の社会が退治すべき「五つの巨人」の一つに病気を挙げ、国民すべてを対象とする保健の仕組みを求めた。1945年の選挙で勝った労働党の保健大臣アナイリン・ベヴァンは、ウェールズの炭鉱の町の出身で、炭鉱夫たちが出し合った金で医師を雇う共済の仕組みを見て育った。彼はそれを国じゅうに広げようとした。
最も強く反対したのは、医師の団体だった。国の雇われ人になることを嫌ったのである。ベヴァンは、病院の専門医には個人の患者を診ることを認め、「彼らの口を金で満たした」と後に語った。開業医たちも最後は加わる。1948年7月5日、NHSが始まった。病院も、開業医も、薬も、眼鏡も、入れ歯も、使うときには一銭も払わない。費用は税でまかなう。
最初の年、人々は何年も我慢していた治療を求めて押し寄せ、眼鏡と入れ歯の需要は見込みをはるかに超えた。費用は膨らみ、1951年には眼鏡と入れ歯に一部の料金を取ることが決まり、ベヴァンはこれに抗議して大臣を辞めた。NHSはその後も、予算と待ち時間の問題を抱え続けている。それでも、2012年のロンドン・オリンピックの開会式では、病院のベッドと看護師がイギリスの誇りとして演じられた。戦後の日本の国民皆保険も、皆が医療を受けられるという同じ目標を、保険の形で目指したものである。