ドワイト・アイゼンハワー
概要
連合国遠征軍の最高司令官としてノルマンディー上陸を指揮し、のちに第34代アメリカ大統領となった軍人。
所属
アメリカ合衆国本文
ドワイト・デイヴィッド・アイゼンハワーは、1890年10月14日にテキサス州デニソンで生まれ、カンザス州の小さな町アビリーンで育った。家は貧しく、7人兄弟の三男だった。両親は信仰のあつい人々で、のちに軍人になる息子を複雑な思いで見送ったといわれる。愛称は「アイク」である。1911年に陸軍士官学校(ウェストポイント)へ入り、1915年に卒業した。この学年からはのちに多くの将官が出たため、「星の降った学年」と呼ばれる。
第一次世界大戦では、戦車部隊の訓練を任されて本国にとどまり、ヨーロッパの戦場へは出なかった。戦後は長く昇進の遅い時期が続いたが、パナマで仕えたフォックス・コナー将軍に軍事史と戦略を学び、1926年には指揮幕僚学校を首席で終えた。1930年代にはマッカーサーの副官として働き、フィリピンにも赴いた。参謀としての腕は評価されていたが、実戦の指揮をとったことはまだ一度もなかった。
転機は第二次世界大戦だった。1941年の大演習での働きが認められ、真珠湾攻撃の直後、陸軍参謀総長のジョージ・マーシャルに呼ばれて作戦計画を担当した。1942年11月には北アフリカ上陸作戦(トーチ作戦)の連合軍総司令官となり、続いてシチリアとイタリア本土への上陸を指揮した。気の強い将軍たち、たとえばイギリスのモントゴメリーやアメリカのパットンをまとめ、チャーチルやフランクリン・ローズヴェルトとも渡り合える調整の力が、彼を司令官の座に押し上げた。

1943年末、アイゼンハワーは連合国遠征軍の最高司令官に任じられ、北フランスへの上陸作戦を指揮することになった。1944年6月6日、天候の悪さで一度延ばした上陸を、短い晴れ間の予報に賭けて決行した。これがノルマンディー上陸作戦である。決行の前、彼は作戦が失敗した場合に発表する短い声明を書き、責任はすべて自分にあると記していた。このメモは使われずに残り、彼の指導者としての姿勢を伝えるものとして知られている。上陸は成功し、8月にはパリが解放された。12月にバルジの戦いでドイツ軍の反撃を受けたが持ちこたえ、1945年5月、ドイツは降伏した。この間に元帥(五つ星の大将)に昇進している。
戦後は陸軍参謀総長、コロンビア大学の学長を経て、1951年には、NATOの結成(1949年)で生まれた同盟の軍の初代最高司令官となった。民主・共和の両党から大統領候補にと誘われ、1952年に共和党から立って当選した。副大統領はリチャード・ニクソンである。1953年1月に第34代大統領となり、同年7月には朝鮮戦争の休戦を実現させた。
大統領としてのアイゼンハワーは、表立って争うよりも裏で調整する型の指導者だった。物語「冷戦」のなかでソ連との核の均衡を保ちつつ、軍事費を抑えようとした。1953年の国連演説「平和のための原子力」は、原子力の平和利用を呼びかけたものである。国内では州間高速道路の建設を始め、1957年にはリトルロックの九人の入学を守るために陸軍の空挺部隊を送った。一方で、マッカーシズムには公の場で正面から対決しなかったことを批判されてもいる。1956年のスエズ危機ではイギリス・フランスの出兵に反対して撤退させたが、同じ年のハンガリー動乱には手を出さなかった。1957年のスプートニク1号の打ち上げは国民に衝撃を与え、宇宙開発や教育への投資が急がれた。
2期目の終わりは苦いものになった。1960年5月のU2撃墜事件で米ソの首脳会談は流れ、6月に予定していた日本訪問も安保闘争の混乱で取りやめになった。1961年1月17日の退任演説では、巨大な軍と軍需産業が結びついた「軍産複合体」が不当な影響力を持つことへの警戒を国民に呼びかけた。軍人出身の大統領が残したこの言葉は、いまもよく引かれる。後を継いだのはジョン・F・ケネディである。
私生活では、1916年にメイミー・ダウドと結婚した。長男は幼くして病で亡くし、彼は生涯それを悔やんだといわれる。退任後はペンシルヴェニア州ゲティスバーグの農場で暮らし、油絵やゴルフを楽しんだ。料理も好きで、自分で牛肉の煮込み(ビーフシチュー)を作り、その作り方が広く出回ったことでも知られる。在任中の1955年に心臓発作を起こしており、その後も心臓の病に悩まされ、1969年3月28日にワシントンの陸軍病院で78歳で亡くなった。故郷アビリーンに葬られている。
評価は時代とともに変わった。在任中は「ゴルフばかりしている凡庸な大統領」と見られることもあったが、のちに公文書が公開されると、表に出ずに周到に物事を動かしていた姿が明らかになり、評価は大きく上がった。戦争の英雄でありながら戦争を広げなかった大統領として、いまは歴代でも高く評価される一人である。