五桁の郵便番号
概要
第二次世界大戦のあと、アメリカの郵便は二十年足らずで倍に増えた。手紙は宛先の州、町、通りを人の目で読まれ、平均して十数か所で仕分けられていた。郵便検査官ロバート・ムーンは、国を地域に分けて番号を振り、その番号で仕分ける案を戦時中から唱えていた。1963年7月1日、郵便局は五桁の番号を始めた。最初の数字が国の中の大きな地域、次の二桁が仕分けの拠点、最後の二桁が配達する局を表す。住所を読まなくても、数字を読めば行き先が決まる。のちに機械が読むようになり、郵便番号は、人ではなく機械のための住所になった。
場所
38.91°N -77.04°E · アメリカ合衆国
本文
第二次世界大戦の後、アメリカの郵便は増え続けた。手紙、請求書、雑誌、通信販売の広告。1943年には年に三百億通ほどだった郵便物は、二十年足らずのうちに倍の六百億通を超えた。郵便は、豊かになっていくアメリカの暮らしと商売の血管だった。
だが、その仕分けは、ほとんどすべて人の手で行われていた。局員が一通一通の宛名を読み、州と町の名を見て、壁一面に並んだ区分の棚に投げ入れる。手紙は途中の大きな局で何度も仕分け直され、届くまでに十か所ほどの手を経ることもあった。局員は、全国の町の名前と、それがどの路線、どの局に回されるかを頭に叩き込んでおかなければならなかった。郵便が増えるほど、人手が足りなくなり、配達は遅れた。
この問題に早くから取り組んでいたのが、フィラデルフィアの郵便局の検査官ロバート・ムーンだった。彼は1944年、国全体をいくつかの大きな地域に分けて番号を振り、その番号で手紙を仕分ける案を上司に提出した。地名を一つ一つ覚えなくても、番号を見れば手紙の行き先の方向が分かる。
その前の年、1943年には、すでに大都市の中で小さな番号が使われ始めていた。百を超える大都市の中を、いくつもの郵便区に分け、それぞれに二桁の番号を振る。「ニューヨーク 25」のように、町の名の後に区の番号を書くのである。戦争で慣れた局員が次々に兵に取られ、仕分けに不慣れな新しい局員でも手紙をさばけるように、という工夫だった。
ムーンの案が形になるまでには、二十年近くかかった。1963年7月1日、郵便局は全国を対象とする五桁の番号を始めた。最初の一桁は、国の中の大きな地域を表す。北東の端のニューイングランドの0から始まり、西へ進むにつれて大きくなって、西海岸やアラスカ、ハワイが9になる。次の二桁は、手紙が集まって仕分けられる拠点の局を表す。最後の二桁は、手紙を実際に配達する局、あるいは大都市の中の郵便区を表す。五つの数字を左から読んでいくと、手紙の行き先が、大きな地域から順に絞り込まれていく。
この仕組みには、「ZIP」という名前が付けられた。「地域の改善計画」を意味する英語の頭文字であり、同時に、英語で「さっと素早く動く」という意味の言葉でもある。郵便局は、手紙を抱えて走る漫画の配達人の人物を作り、ポスターや広告、テレビで盛んに宣伝した。番号の書き方を教える歌まで作られた。

当初、郵便番号を書くかどうかは、使う人の自由だった。人々はなかなか書こうとしなかった。住所の後ろに知らない数字を書くことに慣れていなかったし、自分の番号を調べるのも手間だった。郵便局は1967年、大量の郵便物を出す会社には、郵便番号を書くことを義務づけた。会社の出す請求書や広告の郵便に番号が付くようになると、一般の人々にも少しずつ広まっていった。
やがて、郵便番号を読むのは人ではなくなった。機械が宛名を読み取って仕分ける装置が開発されたのである。手書きの宛名の文字を読み分けるのは機械にとって難しいが、五つの数字を読み取るのは、はるかにやさしい。郵便番号は、人のための住所ではなく、機械のための住所になっていった。1983年には、配達する通りの区間や建物まで指定できるように、さらに四桁を付け足した番号が導入された。番号を読み取ると、機械は封筒に縞模様の符号を印刷し、そのあとの仕分けは、その符号を読んで自動で進められる。スーパーの会計で商品の縞模様を読み取る仕組み(バーコードの最初の会計)と同じ発想である。
郵便番号は、ほかの国でも次々に取り入れられた。日本でも1968年に三桁と五桁の郵便番号が始まり、1998年に七桁になった。番号の付け方は国ごとに違うが、地名を読まなくても数字で行き先が決まるという考え方は同じである。
郵便番号は、やがて郵便の外でも使われるようになった。会社は郵便番号ごとに客の数や売り上げを集計し、どの地域に広告を送るかを決めた。保険会社は、住む地域によって事故や盗難の起きやすさが違うとして、郵便番号で保険料を変えた。選挙の区割りを調べるのにも、病気の広がりを地図に描くのにも、郵便番号が使われた。五桁の数字を見れば、そこに住む人々の収入や暮らし向き、人種の構成まで、おおよそ見当がつく。どこに住んでいるかで寿命の長さまで違う、という研究もある。
便利な数字は、同時に、人を分ける数字にもなった。かつてアメリカの銀行が、黒人の多く住む地域を地図の上で赤く囲み、そこに住む人には金を貸さなかったように、住む場所の番号によって、受けられるサービスや値段が変わることへの懸念は、いまも消えていない。
十八世紀のオーストリアでは、兵を集めるために、国が村の家に番号を書いた(家に番号を振る)。日本では、家を探しやすくするために、町を区画に分けて番号を振り直した(住居表示)。アメリカの郵便番号は、手紙を速く届けるために作られた。数字はいつも、振った側の目的を越えて使われていく。