概要
オハイオ州トロイのマーシュ・スーパーマーケットで、リグレーのチューインガム一箱が読み取られた。67セント。縞の太さで数字を表す仕組みは1949年に特許が取られていたが、読み取る光と計算機が追いつくのに二十五年かかった。業界が共通の規格を作れたことが決定的である。会計が速くなっただけではない。何が、いつ、どれだけ売れたかが、その場で記録される。在庫と、発注と、そして棚の配置が、数字で管理されるようになった。
場所
40.04°N -84.20°E · アメリカ・オハイオ州
本文
**日**。
**1974年6月26日、午前8時1分**。
(——**オハイオ州、トロイ**。
**マーシュ・スーパーマーケット**。
〈**——**読み取られたのは、**リグレーのジューシー・フルーツ・ガム、10枚入り**。
**——**67セント**。
**——**レジ係は、**シャロン・ビュカナン**。
**——**買ったのは、**クライド・ドーソン**(マーシュ社の、研究開発の責任者)である**。
**〈——つまり、**演出である**。〉**
**——**そして、**そのガムの箱は、**スミソニアン博物館**に、ある**。〉)
**前史**。
(**1948年**。
〈**——**フィラデルフィアの、**ドレクセル工科大学**。
**——**食料品店の経営者が、**学部長に、相談した**。
**——**「会計を、自動化できないか」**。
**——**学部長は、**断った**。
**——**それを、**大学院生**バーナード・シルヴァー**が、聞いていた**。〉
**1949年10月20日、特許出願**。
〈**——**シルヴァー**と、**ノーマン・ジョゼフ・ウッドランド**。
**——**そして、**ウッドランドが、**着想を得た場所**。
**——**フロリダの、**マイアミ・ビーチの砂浜**である**。
**〈——彼は、**モールス符号を、知っていた**(ボーイスカウトで)。**
**——「点と線を、**下へ、引き伸ばしたら、どうか**」。**
**——そして、砂に、**四本の指で、線を引いた**。**
**——太い線と、細い線。〉**
**——**そして、**最初の形は、**同心円**だった**。
**〈——「牛の目」(bull's eye)。**
**——どの方向から読んでも、よい。**
**——そして、**印刷が、難しい**。**
**——インクが、にじむと、輪が、潰れる。〉**
**1952年、特許取得**。
**——**そして、**二十年、実用にならなかった**。〉
**なぜか**。
〈**(1)**読み取る光**。
**——**当時、**十分に明るく、細く絞れる光源が、無い**。
**〈——ウッドランドの試作は、**500ワットの電球**を使った。**
**——熱で、紙が、焦げた。〉**
**——**レーザー**が、要る**。
**〈——1960年、初めて動いた。**
**——そして、安価な半導体レーザーは、1970年代である。〉**
**(2)**計算機**。
**——**読み取った数字から、**商品と価格を、引く**。
**——**そのための、**安い計算機**が、要る**。
**(3)そして、**規格**。
**——**これが、**最も、難しい**。〉)
**規格**。
(——**1970年代初頭**。
〈**——**食品業界の、**「統一食品雑貨コード委員会」**(後のUCC)。
**——**そして、**十四社の、競合する提案**。
**——**IBM、RCA、リットン、シンガー、そして……**〉
**1973年4月3日、**UPC**(Universal Product Code)**が、選ばれた**。
〈**——**IBMの案**。
**——**そして、**それを設計したのが、**ジョージ・ローラー**である**。
**〈——同じIBMに、**ウッドランド本人**が、いた。**
**——そして、彼の同心円の案が、**社内の候補だった**。**
**——ローラーが、それに反対して、**縦縞**の案を、出した。**
**——「印刷が、簡単で、**にじみに、強い**」。**
**——そして、それが、選ばれた。〉**
**——**十二桁**。
**〈——最初の一桁が、商品の種類。**
**——次の五桁が、メーカー。**
**——次の五桁が、商品。**
**——そして、最後の一桁が、**チェック・ディジット**。**
**〈——読み間違いを、検出する。〉〉**〉
**——**そして、**この、**業界が、共通の規格に合意したこと**が、**決定的である**。
〈**——**技術は、**既にあった**。
**——**合意が、**無かった**。〉)
**普及**。
(——**遅かった**。
〈**——**1976年、**アメリカで、スキャナを持つ店は、**百軒未満**。
**理由**。
**〈(1)**装置が、高い**(一店あたり、数万ドル)。**
**(2)**そして、**商品に、コードが、印刷されていない**。**
**——「店が、スキャナを買わないから、メーカーが、印刷しない」。**
**——「メーカーが印刷しないから、店が、買わない」。**
**——鶏と卵。〉**
**——**そして、**1980年代に、**一気に、進んだ**。
**〈——1980年、約8,000店。**
**——1985年、約17,000店。〉**〉
**そして、**抵抗**。
〈**——**消費者団体**が、反対した**。
**——**理由**。
**〈——それまで、**すべての商品に、**値札のシールが、貼ってあった**。**
**——バーコードになると、**棚に、表示があるだけ**になる。**
**——「客が、値段を、覚えていられない」。**
**——「そして、**こっそり、値上げされる**」。〉**
**——**いくつかの州が、**「個々の商品への価格表示」**を、義務づける法を、作った**。
**〈——いまも、残っている州がある。〉**〉)
**何が、変わったか**。
(**(1)**会計が、速い**。
〈**——**そして、**打ち間違いが、減った**。〉
**(2)**そして、**これが、本質である**。
〈**——**「何が、いつ、どれだけ、売れたか」**が、**その場で、記録される**。
**——**それまで、**棚卸しを、するまで、分からなかった**。
**——**いまや、**リアルタイムである**。〉
**(3)**在庫と、発注**。
〈**——**売れた分だけ、**自動で、発注する**。
**——**そして、**倉庫を、小さくできる**。
**〈——「ジャスト・イン・タイム」。〉**〉
**(4)**棚の配置**。
〈**——**「何と、何が、一緒に、買われるか」**。
**——**そして、**それを、隣に置く**。
**〈——「バスケット分析」。**
**——「おむつと、ビール」という、有名な逸話がある。**
**——そして、その逸話の出典は、**確認されていない**。〉〉**
**(5)そして、**ポイントカード**。
〈**——**「誰が、何を、買ったか」**。
**——**バーコードが、**それを、可能にした**。〉)
**その後**。
(——**そして、**バーコードは、**あらゆるところへ、行った**。
〈**——**郵便と、宅配**。
**——**病院**(患者の腕輪と、薬)。
**——**図書館**。
**——**そして、**工場と、物流**。〉
**——**さらに、**二次元コード**。
〈**——**1994年、**デンソーの**原昌宏**らが、**QRコード**を、開発した**。
**——**自動車部品の、生産管理のためである**。
**——**そして、**特許を、行使しないことを、決めた**。
**〈——だから、**誰でも、無料で、使える**。**
**——それが、世界に広まった、最大の理由である。〉**〉
**——**ウッドランド**。
〈**——**2012年、死去**。**九十一歳**。
**——**1992年、**アメリカ国家技術賞**。
**——**そして、**シルヴァー**は、**1963年、三十八歳で、死んだ**。
**——**最初のスキャンの、**十一年前**である**。〉)