概要
1971年10月1日、ロンドンの病院で、脳に腫瘍が疑われる女性の頭が、新しい機械で撮影された。X線を頭の周りの多くの方向から当て、その通り具合を計算機で組み立て直して、頭の輪切りの像を描く。作ったのは、レコード会社EMIの技術者ゴッドフリー・ハウンズフィールドである。それまでのX線の写真では、脳の中は影が重なってほとんど見えなかった。像には、はっきりと腫瘍が写っていた。体を切らずに体の中を見る技術は、MRIとともに、診断のあり方を大きく変えた。ハウンズフィールドは1979年、ノーベル賞を受けた。
場所
51.51°N -0.13°E · イギリス・イングランド
本文
1895年にX線の発見が見つかって以来、医師はX線で体の中を写してきた。しかし一枚のX線の写真では、体の前から後ろまでの影がすべて重なる。骨はよく写るが、頭蓋骨の中の脳は、ほとんど何も見えなかった。脳の腫瘍や出血を調べるには、脳の周りの液を抜いて空気を入れるといった、苦痛で危険な検査をするしかなかった。
ゴッドフリー・ハウンズフィールドは、イギリスのレコードと電機の会社EMIの技術者で、大学を出ておらず、戦時中にレーダーを学び、イギリス初期のトランジスタの計算機を作った人だった。1967年ごろ、彼は、箱の中の物体に多くの方向からX線を当て、通り抜けた量を測れば、計算で中の様子を組み立て直せるのではないかと考えた。同じ数学を、南アフリカ出身の物理学者アラン・コーマックが、それより前に別に考えていたことは、のちに知られる。
EMIは、ビートルズのレコードで稼いでおり、研究にその資金が回ったと語られることが多い。実際には国の保健省も費用を出している。はじめの試作機は、一枚の像を作るのに9日かかった。改良を重ね、1971年10月1日、ロンドンのアトキンソン・モーリー病院で、脳に腫瘍が疑われる女性が、最初の患者として撮影された。像には、丸い腫瘍がはっきり写っていた。外科医は、その位置どおりに腫瘍を取り出した。
CTはたちまち世界に広まった。脳から始まり、全身が撮れるようになった。のちには、磁気と電波で体の中を写すMRIも加わる。体を開かずに中を見られるようになって、診断は大きく変わった。一方で、CTの検査は、ふつうのX線の写真の何十倍、何百倍もの放射線を浴びる。日本は、人口あたりのCTの台数が世界で最も多い国である。ハウンズフィールドとコーマックは、1979年にノーベル医学生理学賞を受けた。