できごと

ブラックホールの撮影

First image of a black hole
AD2019年4月10日
重要度 3
ブラックホールの撮影に関わる図版:Event Horizon Telescope Collaboration (testing-general-relativity-with-the-event-horizon)
Event Horizon Telescope Collaboration (testing-general-relativity-with-the-event-horizon) Wikimedia Commons D. Marrone/UofA · CC BY 4.0

概要

地球の大きさの電波望遠鏡の網で、5500万光年先の影を写した。見えないはずのものの輪郭が、オレンジ色の輪として公開される。

場所

ワシントンD.C.
38.91°N -77.04°E · アメリカ合衆国

本文

ブラックホールは、重力が強すぎて光さえ抜け出せない天体である。存在は一般相対性理論から導かれ、20世紀の後半には、星の動きやX線の観測から、銀河の中心に太陽の何百万倍、何十億倍もの重さのブラックホールがあることが確実視されていた。ただ、それはまわりの様子から推し量ったもので、誰も姿を見たことは無かった。そもそも光を出さないのだから、写真に写るはずがない。

写せるのは影である。ブラックホールのまわりには、吸い込まれつつあるガスが渦を巻いて高温になり、強い電波を出している。その光は重力で曲げられ、中心の黒い部分を縁取るように輪になって見えるはずだ、と理論家たちは予測していた。黒い穴の大きさは、ブラックホールの重さで決まる。輪の形と大きさを測れば、アインシュタインの理論を、重力が最も強い場所で試すことができる。

いて座A*(中央)と最近起きた爆発現象の光エコーの軟X線画像
いて座A*(中央)と最近起きた爆発現象の光エコーの軟X線画像Wikimedia Commons NASA · Public domain

問題は小ささだった。狙いはおとめ座の巨大楕円銀河M87の中心で、地球から約5500万光年離れている。ブラックホールの重さは太陽のおよそ65億倍と見積もられ、輪の直径は太陽系がすっぽり収まるほど大きいが、地球から見た角度にすると40マイクロ秒角ほどしかない。これを見分けるには、人間の視力にたとえて300万ほどの解像度が要ると説明された。そんな望遠鏡は一つでは作れない。

そこで、世界各地の電波望遠鏡を同時に同じ天体に向け、それぞれの記録を後で合成する方法をとった。望遠鏡どうしの距離が離れているほど細かいものが見えるので、地球の端と端に置けば、地球の大きさの一つの望遠鏡と同じ分解能が得られる。ハワイ、アリゾナ、メキシコ、チリのアタカマ高地、スペイン、そして南極点の8台の望遠鏡が参加し、この計画は「イベント・ホライズン・テレスコープ」と名づけられた。日本の国立天文台など、世界の200人を超える研究者が加わった。

EHTが世界で初めて撮影に成功したブラックホールシャドウ(光子球の影)
EHTが世界で初めて撮影に成功したブラックホールシャドウ(光子球の影)Wikimedia Commons Event Horizon Telescope , uploader cropped and converted TIF to JPG · CC BY 4.0

観測は2017年4月の数日間に行われた。波長1.3ミリの電波を、原子時計で時刻を合わせながら記録した。データは各地合わせて数ペタバイトに達し、インターネットで送るには多すぎたため、ハードディスクに詰めて飛行機でアメリカとドイツの解析拠点に運んだ。南極のデータは冬のあいだ飛行機が飛べず、半年ほど待たなければならなかった。

解析には2年近くかかった。望遠鏡が地球上にまばらにしか無いため、データには大きな隙間がある。その隙間を埋めて画像を組み立てる方法によっては、思い込みが画像に入り込むおそれがあった。そこで研究者を四つのチームに分け、互いに結果を知らせずに別々に画像を作らせ、どれも同じ輪になることを確かめてから公表に進んだ。

EHTとグローバルミリ波VLBIアレイ
EHTとグローバルミリ波VLBIアレイWikimedia Commons ESO/O. Furtak · CC BY 4.0

2019年4月10日、ワシントン、ブリュッセル、東京など世界6か所で同時に記者会見が開かれ、最初の画像が公開された。暗い中心をオレンジ色の光の輪が囲み、輪の下側が明るい。下側が明るいのは、ガスがこちらへ向かって回っているためと説明された。輪の大きさから求めた重さは、星の動きから見積もられていた値とよく合い、影の形も一般相対性理論の予測どおりだった。画像の色は実際の色ではなく、電波の強さを分かりやすく塗り分けたものである。

この日、画像は世界中の新聞の一面を飾り、画像化の手法づくりに関わった若い研究者が、画面を見て喜ぶ写真もあわせて広く出回った。M87の中心のブラックホールには、ハワイ語で「果てしない創造の、飾られた暗い源」といった意味の「ポウェヒ」という愛称も贈られた。2022年には同じ方法で、私たちの天の川銀河の中心にあるブラックホールの姿も公開されている。その4年前には、ブラックホールどうしがぶつかって出した時空のさざ波も捉えられていた(重力波の初検出)。見えないものを、それを取り巻く光で見るという発想が、地球規模の協力で形になった。

同じ時代のできごと

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