重力波の初検出

概要
13億年前に二つのブラックホールが合体したときの時空のさざ波が、地球に届いた。アインシュタインが100年前に予言し、自分では検出できないと考えていたもの。
場所
30.56°N -90.77°E · アメリカ合衆国・ルイジアナ州
本文
2015年9月14日、アメリカのルイジアナ州リヴィングストンとワシントン州ハンフォードに置かれた二つの観測装置が、ほぼ同時に、ごくわずかな揺れを捉えた。13億年前、遠い宇宙で二つのブラックホールが合体したときに生じた時空のさざ波、重力波である。人類が重力波を直接捉えたのは、これが初めてだった。
重力波を予言したのは、アインシュタインである。1915年に完成させた一般相対性理論では、重力は、質量によって時空が曲がることだとされる。アインシュタインは翌1916年、重い物体が加速して動くと、その時空の曲がりが波となって、光の速さで広がっていくことを示した。池に石を投げると波紋が広がるように。

だが、その波はあまりにも弱い。アインシュタインは、地上で捉えることはできないだろうと考えた。一時は、重力波は理論の上の見かけにすぎず、実在しないのではないかと疑ったこともある。
最初の手がかりは、間接的な形で見つかった。1974年、アメリカの天文学者ハルスとテイラーは、互いの周りを回る二つの中性子星を見つけた。その後の観測で、二つの星の回る周期が少しずつ縮んでいることが分かった。重力波としてエネルギーを放出しているとすれば、その縮み方は理論の予言とぴったり合う。二人は1993年にノーベル賞を受けた。
直接捉えるための装置として計画されたのが、LIGO(ライゴ)と呼ばれる観測施設である。L字型に直角に交わる長さ4キロの二本の管の中で、レーザーの光を何度も往復させる。重力波が通り過ぎると、空間がわずかに伸び縮みし、二本の腕の長さにほんの少し差が生まれる。その差を、光の波の重なり方の変化として読み取る。
求められる精度は、途方もないものだった。重力波が通っても、4キロの腕の長さが変わるのは、原子核の大きさよりはるかに小さい。地面の揺れ、車の振動、温度の変化、どれもそれよりはるかに大きい。装置は、二か所に3000キロ離して置かれた。同じ信号が二か所でほぼ同時に捉えられて、はじめて本物と言える。2000年代の観測では何も見つからず、装置の感度を大きく上げる改良が行われた。
その改良がほぼ終わり、正式な観測を始める直前の試運転の期間に、信号が来た。まずルイジアナの装置が捉え、7ミリ秒ほど遅れてワシントン州の装置が同じ形の信号を捉えた。信号は0.2秒ほどで、揺れの速さと強さが急に増して、ぷつりと終わる形をしていた。二つの重い天体が互いの周りを回りながら近づき、最後に一つになるときに出る、理論が予言したとおりの形だった。
解析の結果、およそ13億光年の彼方で、太陽の36倍と29倍の質量を持つ二つのブラックホールが合体し、太陽の62倍ほどのブラックホールになったことが分かった。差し引き太陽3個分の質量が、ほんの一瞬で重力波のエネルギーになって放たれた。その一瞬に放たれたエネルギーの勢いは、観測できる宇宙のすべての星の光を合わせたより大きかった。それでも、光は出ていない。望遠鏡では見えない出来事だった。
研究チームは5か月かけて、信号が雑音や誤りではないことを確かめ、2016年2月に発表した。二つのブラックホールが合体する様子が観測されたのも、これが初めてだった。2017年、装置の計画と建設を率いたワイス、バリッシュ、ソーンの三人が、ノーベル物理学賞を受けた。
その後、観測は相次いだ。2017年8月には、二つの中性子星の合体による重力波が捉えられ、世界中の望遠鏡が同じ場所に向けられて、その光も観測された。この合体で、金やプラチナのような重い元素が大量に作られていることも確かめられた。イタリアの観測装置ヴァーゴも加わり、日本でも岐阜県の地下にKAGRA(かぐら)が作られた。いまでは、重力波の検出は珍しいことではなくなっている。
人類はそれまで、光や電波、X線など、電磁波で宇宙を見てきた。重力波は、それとは別の、時空そのものの揺れで宇宙を知る手段である。光を出さないブラックホールどうしの合体も、重力波でなら聞き取れる。2019年にはブラックホールの撮影も公開された。アインシュタインが捉えられないと考えた波は、予言から100年後、宇宙を見る新しい窓になった。