概要
遺伝子を組み換えた菌が研究室から漏れ出たら、どうなるのか。1974年、遺伝子を扱う研究者たち自身が、危険が分かるまで一部の実験を止めようと呼びかけた。1975年2月、カリフォルニアの海辺の会議場アシロマに、世界の研究者や法律家やジャーナリストが集まり、四日間議論する。危険の度合いに応じて封じ込めの設備を分ける、という指針がまとめられ、実験は再開された。新しい技術の危うさを、法律に縛られる前に科学者が自分たちで話し合って決めた例として、のちのゲノム編集や人工知能の議論でも繰り返し引かれる。
場所
36.62°N -121.94°E · アメリカ・カリフォルニア州
本文
遺伝子組み換え技術の誕生の技術が生まれると、研究者たち自身が不安を口にしはじめた。大腸菌は人の腸に住む菌である。がんを起こすウイルスの遺伝子や、毒素を作る遺伝子を組み込んだ菌が研究室から漏れ出たら、人の体の中で何が起きるか分からない。
1974年、スタンフォード大学のポール・バーグらは、科学の雑誌に公開の手紙を載せた。危険の程度が分かるまで、ある種の実験を世界中で自ら控えよう、という呼びかけである。研究者が、自分たちの研究を自分たちで止めるのは、例の無いことだった。
1975年2月24日から4日間、カリフォルニアのモントレー半島の海辺にある会議場アシロマに、十数か国から百四十人ほどが集まった。多くは分子生物学者だったが、弁護士や記者も招かれた。議論は激しかった。自由な研究を縛るなと訴える人がいれば、危険は分かっていないと言う人もいる。法律家は、事故が起きたら研究者と大学が責めを負うと警告した。
会議は、実験の危険の度合いに応じて、閉じ込めの設備を段階に分けるという考えをまとめた。外に出ても生き延びられないよう弱らせた菌を使うことも求めた。翌年、アメリカの国立衛生研究所はこれをもとに指針を定め、実験は再開される。のちに、想定したほどの危険は無かったと分かり、指針は緩められた。アシロマは、社会に大きな影響を与える技術について、法律や世論が動く前に研究者が自ら立ち止まった例として語り継がれている。2017年には同じ場所で、人工知能の研究のあり方をめぐる会議が開かれた。