できごと

ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡

James Webb Space Telescope
AD2022年7月12日
重要度 3
ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡に関わる図版:JWST spacecraft model 3
JWST spacecraft model 3 Wikimedia Commons NASA · Public domain

概要

150万キロ先で広げた6.5メートルの鏡が、宇宙の最初の銀河を赤外線で写した。ビッグバンから3億年の光になる。

場所

ワシントンD.C.
38.91°N -77.04°E · アメリカ合衆国

本文

1990年に打ち上げられたハッブル宇宙望遠鏡は、宇宙の姿を一変させた。だが計画が軌道に乗るにつれ、天文学者たちはその先を考え始めていた。ハッブルが見ているのは主に目に見える光で、宇宙のいちばん遠く、いちばん古い銀河の光は、ハッブルでは捉えきれない。1996年、ハッブルの後を継ぐ次世代の宇宙望遠鏡の計画が動き出した。のちに、アポロ計画の時代にNASAを率いた長官の名をとって、ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡と名付けられる。

遠い銀河を見るには、赤外線で見る必要がある。宇宙は膨張していて(宇宙が膨張している)、遠い天体ほど速く遠ざかる。その光は旅の間に波長が引き伸ばされ、生まれたときは青や紫の光だったものが、地球に届くころには赤外線になっている。130億年以上前の光を捉えるには、赤外線に感度を合わせた望遠鏡が要る。

ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の模型
ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の模型Wikimedia Commons NASA · Public domain

赤外線は熱でもある。望遠鏡自体が温かいと、自分の熱で目がくらむ。そこでウェッブは、テニスコートほどもある5層の日よけを広げ、太陽と地球と月の光と熱を遮って、鏡と観測装置を零下230度ほどまで冷やす。置き場所も、地球から150万キロ離れ、太陽と反対の側にある、重力の釣り合う点が選ばれた。ここなら太陽と地球が常に同じ方向にあり、日よけ一枚で両方を背にできる。

鏡は直径6.5メートル。ハッブルの2.4メートルに比べて、光を集める面積は6倍を超える。だが、そのままではどのロケットにも入らない。そこで鏡を、軽い金属ベリリウムで作った18枚の六角形に分け、赤外線をよく反射する金の薄い膜で覆い、折り畳んでロケットに収めた。日よけも畳み、宇宙に出てから何週間もかけて広げる。広げる手順には、一つでもしくじれば全体が使えなくなる箇所が344あった。150万キロ先では、ハッブルのように宇宙飛行士が修理に行くことはできない。

JWSTのベリリウム製の主鏡
JWSTのベリリウム製の主鏡Wikimedia Commons NASA · Public domain

開発は難航した。当初は2007年ごろの打ち上げ、費用5億ドルほどと見込まれていたが、技術の壁にぶつかるたびに延期と予算の超過が繰り返された。2011年には議会で計画の中止が取り沙汰されたこともある。地上の試験で日よけが破れ、ねじが外れる騒ぎもあった。最終的な費用は100億ドルほどにふくらみ、ヨーロッパとカナダの宇宙機関も加わる国際計画になった。

2021年12月25日、ウェッブは南米のフランス領ギアナから、ヨーロッパのアリアン5ロケットで打ち上げられた。打ち上げはきわめて正確で、軌道を修正する燃料を大幅に節約できた。そのおかげで、当初10年ほどと見込まれた運用期間は、20年以上に延びる見通しになっている。そこから一か月、日よけと鏡を開く作業が一つずつ進み、344の難所はすべて無事に越えた。18枚の鏡は、髪の毛の太さの数千分の一の精度で一枚の鏡のように合わせられた。

ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の組立(2009年、上部)
ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の組立(2009年、上部)Wikimedia Commons NASA · Public domain

2022年7月12日、最初の画像が公開された(前日にアメリカの大統領が一枚を先に披露している)。ハッブルが長い時間をかけて撮った領域を、ウェッブはわずか半日ほどで撮り、はるかに多くの遠い銀河を写していた。カリーナ星雲の星の生まれる場、死にゆく星が吐き出したガスの環、互いに引き合う銀河の群れ。どれも、これまで見たことのない細かさだった。

本当の驚きは、その後の観測で来た。宇宙が始まってから数億年しかたっていない、きわめて遠い銀河が次々に見つかった。2024年には、ビッグバンからおよそ3億年後の光を放つ銀河が確認されている。予想より早く、大きく、明るい銀河が、宇宙の幼い時代にすでにあった。銀河がどれほどの速さで育ったのかを説明する理論は、見直しを迫られている。

ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の組立(2009年、下部)
ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の組立(2009年、下部)Wikimedia Commons NASA · Public domain

ウェッブはまた、ほかの恒星を回る惑星の大気も調べている。惑星が恒星の前を横切るとき、大気を通り抜けた光にわずかに刻まれる成分の印を読み取るもので、2022年には太陽系の外の惑星の大気に二酸化炭素がはっきり見つかった。

名前をめぐる議論もあった。ウェッブ長官が在任中、同性愛者を政府の職から締め出す動きに関わったのではないかとして、改名を求める声が上がった。NASAは調査の結果、関与を示す証拠は無いとして名前を変えなかったが、異論は今も残っている。スプートニク1号から65年、アポロ11号の月面着陸から半世紀あまり。宇宙を見る目は、私たちを宇宙の始まりのすぐそばまで連れていった。

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