概要
ニュルンベルクと東京の裁判は、勝者が敗者を裁く臨時の法廷だった。旧ユーゴとルワンダの法廷も、事件ごとに作られた。常設の裁判所を作る構想は1948年からあり、冷戦で止まり、1998年のローマ規程で実現した。集団殺害、人道に対する罪、戦争犯罪、そして侵略の罪。国家ではなく個人を裁く。国内の裁判が機能しないときにだけ動く(補完性)。アメリカ、ロシア、中国、インドは加盟していない。逮捕は加盟国の協力に頼るしかない。
場所
52.08°N 4.31°E · オランダ
本文
**問題**。
国家が、自国の指導者を裁くことは、ほとんどない。
そして、国際法は伝統的に、**国家**の間の法だった。個人は、国際法の主体ではない。ある国の指導者が自国民を虐殺しても、他国が介入する法的な根拠は薄かった。
**ニュルンベルクと東京**。
1945〜46年、この前提が破られた。個人が、国際法に基づいて裁かれた。
ニュルンベルク裁判の判決の一節。
「**国際法に対する犯罪は、抽象的な実体によってではなく、人間によって犯される。そして、そのような犯罪を犯した個人を処罰することによってのみ、国際法の規定は実現される**」。
しかし、批判があった。
(1)**事後法**。侵略戦争を犯罪とする法は、行為の時点で存在したか。 (2)**勝者の裁き**。連合国側の行為(ドレスデン、東京大空襲、広島、長崎、カティンの森)は、裁かれなかった。 (3)**臨時**。この法廷は、この事件のためだけに作られた。
**構想**。
1948年、国連総会が**ジェノサイド条約**を採択した。その第6条は、集団殺害を裁く「国際刑事裁判所」に言及している。
国連は国際法委員会に、常設の裁判所の規程の起草を求めた。
草案はできた。そして、**冷戦で凍結された**。
「侵略」の定義で合意できない。米ソが、自国の行動を裁かれる可能性のある機構を認めない。
40年、止まった。
**再開**。
1989年、トリニダード・トバゴが、国連総会で、麻薬取引を裁く国際裁判所を提案した(冷戦後の最初のきっかけである)。国際法委員会が作業を再開した。
そして、二つの事態が、議論を加速させた。
**旧ユーゴスラビア**(1991年〜)。民族浄化、強制収容所、スレブレニツァ(1995年、8000人以上のボシュニャク人男性の殺害)。1993年、国連安保理が**旧ユーゴ国際刑事裁判所(ICTY)**を設置。
**ルワンダ**(1994年)。100日で50万〜80万人が殺された。1994年11月、**ルワンダ国際刑事裁判所(ICTR)**。
いずれも臨時の法廷である。しかし、これらが、実際に機能することを示した。
(ICTYは161人を起訴し、90人に有罪判決を出した。ICTRは、1998年、ジャン=ポール・アカイェス事件で、**強姦をジェノサイドの手段として認定する**、画期的な判決を出した。)
**ローマ会議**。
1998年6月15日〜7月17日、ローマ。160か国、17のNGO連合(「ICCを求める連合」)。
争点。
- 検察官は、自らの判断で捜査を始められるか(**独立検察官**)。 - 安保理は、捜査を止められるか。 - 侵略の罪を含めるか。 - 国内の裁判との関係。
**1998年7月17日**、投票。
**賛成120、反対7、棄権21**。
反対を投じたのは(無記名投票だが、公言した国を含む)——アメリカ、中国、イスラエル、イラク、リビア、イエメン、カタール。
**ローマ規程**。
**管轄する犯罪**。
1. **集団殺害犯罪**(ジェノサイド) 2. **人道に対する犯罪**(広範または組織的な、文民に対する攻撃。殺人、奴隷化、強制移送、拷問、強姦、性奴隷、強制失踪、アパルトヘイト) 3. **戦争犯罪**(ジュネーヴ条約の重大な違反ほか) 4. **侵略犯罪**(2010年のカンパラ再検討会議で定義が合意され、2018年に管轄が発効)
**補完性の原則**(第17条)。
ICCは、**国内の裁判所が、真に捜査・訴追を行う意思または能力を欠く場合にのみ**、管轄を行使する。
第一義的な責任は、国家にある。ICCは、最後の手段である。
**管轄の及ぶ範囲**。
(a)犯罪が締約国の領域で行われた場合、(b)被疑者が締約国の国民である場合、(c)安保理が付託した場合(この場合は非締約国にも及ぶ)、(d)非締約国が受諾を宣言した場合。
**時効はない**(第29条)。
**公的資格は免責の理由にならない**(第27条)。元首も、首相も、議員も。
**2002年7月1日**、60か国の批准を得て、規程が発効した。ハーグに設置。
**現状**(2024年時点)。
締約国 **125か国**。
加盟していない主な国——**アメリカ、ロシア、中国、インド、パキスタン、インドネシア、トルコ、サウジアラビア、エジプト、イスラエル**。
つまり、世界人口の過半数が、管轄の外にいる。
**アメリカ**。クリントンが任期末に署名したが、批准を勧めなかった。ブッシュ政権が2002年に「署名の撤回」を通告。同年、**アメリカ軍人保護法**を制定した(ICCに拘束された米国人を救出するためにあらゆる手段を用いることを認める条項があり、「ハーグ侵攻法」と揶揄される)。
2020年、トランプ政権はICCの検察官らに制裁を課した。2021年、バイデン政権が解除した。2023年、ロシアのプーチンへの逮捕状にはアメリカが情報提供に協力し、態度は事案ごとに揺れている。
**成果と限界**。
有罪判決は、20年余りで**11件**(2024年時点。ほかに手続き中、無罪、取下げがある)。
最初の有罪判決は2012年、**トマ・ルバンガ**(コンゴ民主共和国。子ども兵の徴募)。
2016年、**アフマド・アル=ファキ・アル=マハディ**(マリ。**トンブクトゥの霊廟の破壊**)。文化財の破壊が戦争犯罪として裁かれた最初の例。
2023年3月、**ウラジーミル・プーチン**に対する逮捕状(ウクライナからの子どもの違法な移送)。
2024年、イスラエルのネタニヤフ首相とハマスの指導者に対する逮捕状の請求。
**構造的な問題**。
(1)**逮捕できない**。ICCに警察はない。締約国が逮捕して引き渡さなければ、被疑者は法廷に来ない。スーダンのバシールは、逮捕状が出た後も各国を訪問し、締約国の一部が逮捕しなかった。
(2)**アフリカへの偏り**。初期の捜査がアフリカに集中し、「アフリカを狙う裁判所」という批判が強まった。2017年、ブルンジが脱退した(唯一の脱退国。フィリピンも2019年に脱退した)。
(3)**大国が入っていない**。安保理の常任理事国5か国のうち、締約国はイギリスとフランスだけ。ロシアと中国が拒否権を持つ限り、安保理による付託も限られる。
(4)**時間と費用**。一件の審理に何年もかかる。
**それでも**。
1998年以前、国際社会には、指導者の犯罪を裁く常設の場が、一つもなかった。
いまは、ある。逮捕状は、被疑者の移動を制限する。国内の裁判所が、補完性の原則を意識して、自ら訴追することもある(「ICC効果」)。
そして、**時効がない**。