概要
家庭の中で親が子どもを殴り、食事を与えず、心を傷つけることは、長いあいだ家の中のしつけの問題として外から口を出しにくかった。1990年代、児童相談所に寄せられる虐待の相談は年々増え、子どもが命を落とす事件が相次いだ。2000年5月24日に公布された児童虐待防止法は、身体への暴力、性的な虐待、育児の放棄、心への暴力を虐待と定め、虐待を見つけた人に通告を求め、児童相談所が家に立ち入って子どもを保護できるようにした。2019年の改正では、しつけのために親が子どもに体罰を加えることも禁じられた。
場所
35.68°N 139.77°E · 日本・東京都
本文
子どもを守る法は、戦前にもあった。1933年の児童虐待防止法は、子どもを曲芸や物乞いに使ったり、酷く働かせたりすることを禁じた。だが、家庭の中での親の暴力やしつけの行き過ぎは、家の中のことで、外から口を出すべきではないとされてきた。民法は、親が子を懲戒できると定めていた。
1990年代、児童相談所に寄せられる虐待の相談は、年々増えていった。1990年度に千件あまりだった相談は、1999年度には一万件を超えた。医療や福祉の現場では、骨折や火傷の跡のある子ども、栄養が足りずに痩せ細った子どもの姿から、家庭の中で起きていることに気づく人が増えていた。親に殴られ、食事を与えられずに子どもが死ぬ事件も、繰り返し報じられた。
2000年5月24日、議員の提案による児童虐待の防止等に関する法律が公布され、11月に施行された。法は、保護者が子どもに対して行う四つの行為を虐待と定めた。体に傷を負わせる暴力、性的な虐待、食事を与えず放置するなどの育児の放棄、そして暴言や無視などで心を傷つけること。学校の先生や医師、保健師など、子どもに関わる仕事の人は虐待を早く見つけるよう努め、虐待を受けたと思われる子どもを見つけた人は、児童相談所などに通告しなければならないとされた。児童相談所の職員は、家に立ち入って調べ、子どもを一時的に保護できるようになった。
法ができたあとも、虐待の相談の件数は増え続け、2020年代には年に二十万件を超えた。虐待が増えたというより、それまで見えていなかったものが見えるようになったとも言われる。2004年の改正では、子どもの目の前で親が配偶者に暴力を振るうことも、心への虐待に含められた。
2018年と2019年、東京都目黒区と千葉県野田市で、親から「しつけ」と称する暴力を受けた女の子が死亡する事件が続いた。2019年の法の改正で、親がしつけとして子どもに体罰を加えることが禁じられ、2022年には民法の親の懲戒権の規定も削られた。体罰を法で禁じた国は、1979年のスウェーデンを先がけに、いまでは六十を超える。