ツバルと海面上昇
概要
国土の最高地点が5メートルもない。国連の場で、島が消えるかもしれないと訴え続けている。2021年11月、外相が海に膝まで浸かって演説する映像をCOP26に送った。
場所
-8.52°N 179.20°E · ツバル
本文
ツバルは、南太平洋の赤道の少し南に散らばる九つの島からなる国だ。六つは環礁、三つは珊瑚でできた低い島で、陸地を全部合わせても26平方キロほどしかない。人口はおよそ1万1千人。いちばん高い地点でも海抜5メートルに届かず、国土の多くは海面から2〜3メートルの高さにある。かつてイギリスの植民地としてギルバート諸島(いまのキリバス)と一つにされていたが、1978年に独立した。
環礁は、沈んでいく火山島の周りに育った珊瑚礁が、島が沈んだあとも輪の形で海面近くに残ったものだ。珊瑚のかけらと砂が積もってできた陸地は細長く、首都のあるフナフティ環礁では、いちばん広いところでも幅は数百メートルしかない。道の片側に礁湖の穏やかな水、反対側に外洋の荒い波が見える。

海面が上がることだけが問題なのではない。大潮と強い風が重なる時期、とくに毎年2月ごろの「キング・タイド」と呼ばれる高い潮のときには、地面のあちこちから海水が湧き出してくる。珊瑚でできた地盤は細かい穴だらけで、海水がその中をしみ通ってくるからだ。海岸に堤防を築いても、水は足元から上がってくる。
塩水は暮らしを直撃する。ツバルの人々が大切にしてきた作物に、プラカと呼ばれる大型の芋がある。地下の真水の層まで穴を掘って育てるものだが、その水に塩が混じり、畑が使えなくなってきた。島の地下にたまった真水も塩気を帯び、飲み水の多くを屋根から集めた雨水に頼るようになった。雨が少ない年には、海水を真水にする装置や外からの援助に頼らざるを得ない。

世界の平均の海面は、20世紀の初めからおよそ20センチ上がり、上がる速さは近年増している。ツバル周辺では、それより速く上がってきたという観測もある。地球の気温がこのまま上がれば、今世紀の末にはさらに数十センチから1メートル近く上がると見込まれている(IPCCの設立)。海面がわずかに上がっただけでも、高潮や嵐の波が届く範囲は大きく広がる。
その一方で、ツバルの陸地は単純に縮んでいるわけではない。航空写真を比べた研究では、この数十年でツバルの島々の多くは面積を保つか、かえって広がっていたという結果も出ている。波が運ぶ珊瑚の砂が積もり、島の形が変わっていくためだ。ただし、それで住み続けられるとは限らない。島の形が変わり、水が塩に侵されれば、人の暮らしは成り立たなくなる。
ツバルは小さな国として、国際会議の場で声を上げてきた。1997年に京都議定書がまとめられたころから、温室効果ガスの削減を強く求める側に立ち、2000年に国連に加盟してからは、総会の演説でたびたび危機を訴えた。2015年のパリ協定では、気温上昇を1.5度に抑える努力という目標が盛り込まれたが、そこには低い島の国々の粘り強い働きかけがあった。

2021年11月、気候変動の国際会議に向けて、外相のサイモン・コフェは膝まで海に浸かった姿で演説する映像を送った。かつては陸だった場所に演台を置き、背広のまま話すその姿は、世界中に広まった。
2022年には、同じコフェ外相が、国土が水に沈んでも国家として残るための構想を発表した。島々の景色や文化、記録をデジタル空間に写し取り、仮想の国として保存するという。翌2023年には憲法を改め、海面上昇で陸地が失われても、国家と、海の境界線や海の権利は変わらず続くと定めた。

同じ2023年、ツバルはオーストラリアと条約を結んだ。毎年最大280人のツバル人がオーストラリアに移り住めるようにする代わりに、ツバルの安全保障についてオーストラリアが深く関わるという内容で、2024年に発効した。人口1万あまりの国にとって、年に280人は小さな数ではない。移住の道は、国を守るための備えであると同時に、国が少しずつ空になっていく道にもなりうる。
国家とは何かを、ツバルは問いかけている。国際法はふつう、国家の条件の一つに、定まった領土を挙げてきた。その領土が海の下に沈んだとき、国家は残るのか、海の権利はどうなるのか。いまの法の枠組みは、この事態を想定していない。国の存続をかけた問いが、最も海に近い国から投げかけられている。