概要
ナポレオンに支配されたドイツで、ヤーコプとヴィルヘルムのグリム兄弟は、ドイツの人々が語り継いできた昔話を、民族の宝として集めた。1812年の暮れに出た『子どもと家庭のための昔話集』の第1巻には、「赤ずきん」「ヘンゼルとグレーテル」「シンデレラ」など86の話が収められた。話を語ったのは、素朴な農民というより、町の教養ある家の若い女性たちが多かった。版を重ねるうちに、兄弟は性的な場面を削り、教訓を加えて、子どもに読ませる本へと書き直していった。最後の版では210話になり、聖書に次いで多くの言葉に訳されたドイツの本の一つになった。
場所
51.31°N 9.48°E · ドイツ・ヘッセン州
本文
ヤーコプ・グリムとヴィルヘルム・グリムは、1785年と1786年に、ドイツのヘッセンで生まれた。マールブルクの大学で法学を学ぶうちに、古いドイツの文学と言葉に魅せられた。当時のドイツは多くの小さな国に分かれ、1806年にはナポレオンに神聖ローマ帝国を解体され、フランスの支配のもとにあった。兄弟は、人々が語り継いできた昔話や伝説の中に、ドイツの民族の心と言葉の古い姿が残っていると考え、それが消えてしまう前に書き留めようとした。
兄弟は、カッセルの町で、知り合いの家々を回り、話を聞き集めた。昔話を語ってくれたのは、素朴な農民のおばあさんというより、町の薬屋や役人の家の若い娘たちが多かった。彼女たちの中には、フランスから逃れてきたユグノーの家の出の人もいて、フランスのペローの昔話とよく似た話も入り込んだ。兄弟がとくに大事にした語り手の一人、ドロテーア・フィーマンは、カッセルの近くの村の仕立て屋の妻で、たくさんの話を正確に語った。
1812年12月20日、『子どもと家庭のための昔話集』の第1巻が出た。「赤ずきん」「ヘンゼルとグレーテル」「白雪姫」「ラプンツェル」「灰かぶり(シンデレラ)」など、86の話が収められた。1815年には第2巻が出た。はじめの版は、学者向けの注釈がつき、子どもには読みにくいと批判された。
兄弟、とくにヴィルヘルムは、版を重ねるたびに話を書き直した。言葉を滑らかにし、物語らしく整え、子どもに読ませるのにふさわしくないとされた性的な場面を削り、キリスト教の教えや、勤勉と従順の教訓を加えた。白雪姫やヘンゼルとグレーテルの「実の母」は「継母」に変えられた。一方で、悪人への残酷な罰の場面は、かえって増えたところもある。1857年の最後の版では、210の話になっていた。
グリム童話は、ドイツの家庭で読まれ、やがて世界の百を超える言葉に訳された。20世紀には、ディズニーのアニメーション映画が、白雪姫やシンデレラを世界中の子どもに広めた。兄弟は、昔話の収集のほかにも、ドイツ語の文法の研究や、大きなドイツ語の辞典(グリム兄弟のドイツ語辞典)に取り組み、ドイツの言語学と民俗学の基礎を築いた。