東日本大震災と福島第一原発事故
概要
地震と津波で2万人近くが亡くなり、原子炉が制御を失った。各国のエネルギー政策が見直される。
場所
37.42°N 141.03°E · 日本・福島県
本文
2011年3月11日の午後2時46分、宮城県の牡鹿半島の東南東、およそ130キロの海底で、巨大な地震が起きた。日本の下に沈み込む太平洋プレートと陸のプレートの境が、南北500キロ、東西200キロにわたって一度に滑った。場所によっては50メートルを超えて動いたとされる。マグニチュードは9.0。日本で観測された地震としては最大で、世界でも観測史上有数の規模だった。
宮城県栗原市では、最も強い震度7を記録した。揺れは東北から関東の広い範囲で数分にわたって続き、東京でも高層ビルが大きく揺れ、交通が止まって多くの人が歩いて家に帰った。

最大の被害をもたらしたのは津波だった。地震から30分ほどで、高い津波が東北の太平洋岸に押し寄せた。岩手県では、津波が陸を駆け上がった高さが40メートルを超えた場所もある。三陸の入り組んだ湾では波が高く盛り上がり、仙台平野では海岸から数キロ内陸まで水が押し寄せた。防潮堤を越えた波が、町をまるごと押し流した。
亡くなった人は約1万5900人、行方が分からない人は約2500人に上る。遺体が確かめられた人のうち、9割以上が津波による溺死とされる。さらに、避難生活の中で体調を崩すなどして亡くなった「震災関連死」が3800人を超える。宮城県石巻市の大川小学校では、校庭で待機していた児童と教職員が津波に呑まれ、児童74人が犠牲になった。一方で、岩手県釜石市では、日頃から避難の訓練を重ねていた小中学生の多くが、自ら高台へ逃げて助かった。

この地方は、昔から津波に襲われてきた。平安時代の869年には、仙台平野の奥深くまで浸水した貞観地震の記録がある。2000年代には、その津波の堆積物の調査から、同じような規模の津波が再び来る恐れが指摘されていた。だが、その知見が防災の備えに生かされるまでには至っていなかった。
福島県の太平洋岸に立つ東京電力福島第一原子力発電所では、運転中だった1号機から3号機が地震を感じて自動的に止まった。だが、地震で送電の鉄塔が倒れるなどして外からの電気が途絶えた。非常用のディーゼル発電機が動き出したが、およそ50分後に高さ13メートルほどの津波が押し寄せ、発電機や配電盤が水に浸かって使えなくなった。原子炉を冷やすための電源がすべて失われた。

原子炉は止まっても、燃料は熱を出し続ける。冷却が止まった1号機から3号機では、燃料が溶け落ちる炉心溶融に至った。燃料を覆う金属と水が反応して発生した水素がたまり、3月12日に1号機、14日に3号機の建屋が爆発で吹き飛んだ。15日には、定期検査で止まっていた4号機の建屋も、3号機から流れ込んだ水素で爆発した。その映像は世界に流れた。事故は、国際的な尺度で最も深刻なレベル7とされ、1986年のチェルノブイリ原発事故と並ぶものになった。
東京電力は2008年、社内の試算で、福島第一に15メートルを超える津波が来る可能性があるという結果を得ていたが、対策には生かされなかった。国会が設けた事故調査委員会は、事故を想定外の天災ではなく、備えを怠った結果の「人災」だと結論づけた。

政府は原発から20キロ圏内の住民に避難を指示し、放射性物質が北西の方角に流れて降り積もったことが分かると、さらに外側の地域にも避難を求めた。福島県から避難した人は、最も多いときで16万人を超えた。何年も故郷に戻れない人が続き、家族が離ればなれになった例も多い。立ち入りが厳しく制限された帰還困難区域は、規模を縮めながらも今も残る。
原子炉の中に溶け落ちた燃料を取り出す作業は、事故から13年以上たった2024年に、ようやく初めてごく少量の試料を取り出す段階に入った。原子炉を冷やした後の汚染水を処理した水は、2023年から薄めて海に流されはじめ、漁業者や周辺の国々との間で議論を呼んだ。廃炉を終えるには、なお数十年かかるとされる。

事故は世界のエネルギー政策を揺さぶった。ドイツは事故の数か月後に、国内の原発をすべて止める方針を決め、2023年4月に最後の3基を止めた。日本でも、事故の後、国内の原発が一時すべて止まり、新しい安全基準のもとで審査に通ったものから再稼働が進められている。一方で、気候変動への対応から、二酸化炭素を出さない電源として原発を見直す動きも各国で出ている。どちらの側にとっても、この事故が判断の基準点になった。
被災した地域では、高い防潮堤が築かれ、住宅を高台に移す工事が進められた。だが、人口の流出は止まらず、元の町の姿に戻らないところも多い。1995年の阪神・淡路大震災が都市の地震への備えを問い直させたように、この震災は、巨大な津波と、科学技術の事故が重なる複合災害への備えを、日本と世界に問いかけ続けている。