概要
西アフリカの川沿いの村々では、ブユに刺されて体に入る寄生虫が、皮膚のかゆみと、やがて失明を引き起こしていた。「河川盲目症」である。日本の化学者大村智は、静岡のゴルフ場の近くの土から新しい菌を見つけ、アメリカの製薬会社メルクと、そこから寄生虫に効くイベルメクチンを作った。1987年、メルクは、この薬を必要とする人々に、必要なだけ、いつまでも無償で提供すると宣言した。年に一度、錠剤を飲むだけでよい。村々に薬が配られ、河川盲目症は多くの地域で消えつつある。大村とウィリアム・キャンベルは2015年、ノーベル賞を受けた。
場所
12.37°N -1.52°E · ブルキナファソ
本文
アフリカの川沿いの村では、流れの速い水で育つブユが、人を刺すときに小さな寄生虫の幼虫を体に入れる。虫は皮膚の下で育ち、何百万もの子を産む。子の虫が死ぬと、激しいかゆみが起き、目に入ると視力を奪う。村によっては、年寄りの多くが盲目で、子どもが杖の端を引いて歩いていた。人々は肥えた川沿いの土地を捨てて逃げた。「河川盲目症」である。
北里研究所の大村智は、土の中の菌が作る物質から薬の種を探していた。1974年、静岡県の伊東市川奈のゴルフ場の近くで採った土から、新しい放線菌を見つけ、アメリカの製薬会社メルクに送った。メルクのウィリアム・キャンベルらは、この菌の作る物質が、寄生虫に強く効くことを見つける。改良されたイベルメクチンは、1981年、牛や犬の寄生虫の薬として売り出され、大きな売上を上げた。
人の河川盲目症にも効くことが分かったが、病気の人々は、薬を買うお金を持っていなかった。メルクは各国の政府や援助の機関に買ってもらおうとしたが、誰も手を挙げなかった。1987年10月、社長のロイ・ヴァジェロスは、必要な人に、必要なだけ、必要な限り、無償で提供すると発表した。年に一度、錠剤を飲むだけで、子の虫を殺せる。村の人々の中から選ばれた配り手が、薬を届ける仕組みも作られた。
西アフリカでは、1974年からワガドゥグーに本部を置く国際的な計画が、ブユの幼虫を殺す薬を川にまいて病を抑えてきた。イベルメクチンの無償提供がこれに加わり、無償の提供は30年以上続いて、延べで数十億回分が配られた。コロンビアやエクアドルなど、病が消えたと認められた国も出ている。大村とキャンベルは2015年、ノーベル医学生理学賞を受けた。同じ年の賞は、古い処方から新しい薬の屠呦呦にも贈られている。