出口調査
概要
開票を待たずに結果を知るには、投票を終えた人に、いま何を書いたかを聞けばよい。CBSのウォーレン・ミトフスキーが、投票所を無作為に選び、一定の間隔で出てくる人に用紙を渡す方法を組んだ。速い。そして、誰がなぜそう投票したかも分かる。当選確実の報道が、まだ投票時間の残る西部の投票率を下げるという批判が起き、各局が発表の時刻を遅らせた。2000年のフロリダでは、二度、誤って当確が出されている。
場所
40.71°N -74.01°E · アメリカ合衆国
本文
選挙の結果がはっきりするまでには、時間がかかる。報道機関は、少しでも早く結果を伝えたい。1960年代までのアメリカのテレビ局は、主に二つの方法を使っていた。一つは開票速報で、いま何票まで数えたかを刻々と伝える。だが、どの地区から先に開票されるかで途中の傾向は偏る。もう一つは、過去の選挙で全体の結果をよく映してきた地区を選んでおき、そこの開票結果をいち早く集めて全体を推し量る方法である。どちらも開票を待たなければならず、しかも、有権者がなぜその候補に入れたのかは分からない。
世論を少数の標本から推し量る技術は、1930年代に大きく進んでいた。1936年の大統領選挙では、何百万通もの葉書を集めた雑誌の予測が大外れし(リテラリー・ダイジェストの失敗)、はるかに少ない標本を科学的に選んだジョージ・ギャラップの調査が当てた(少ない標本で当てる)。数の多さではなく、選び方の偏りの無さが大事だということが、ここで示された。
この考え方を選挙の当日に持ち込んだのが、統計学者ウォーレン・ミトフスキー(1934〜2006年)である。国勢調査局で標本調査を担当していた彼は、1967年、テレビ局のCBSに招かれた。彼が組み立てた方法は次のようなものだった。まず、調査する投票所を、担当者の勘ではなく確率にもとづいて無作為に選ぶ。次に、その投票所から出てくる人のうち、十人目ごとというように一定の間隔で声をかける。誰に声をかけるかを調査員に選ばせないためである。そして用紙を渡し、その場で書いて箱に入れてもらう。口に出して言う必要が無いので、正直に答えやすい。用紙では、誰に入れたかだけでなく、年齢や性別、人種、収入、学歴、そして何を重視して投票先を決めたかも尋ねた。この方法は1967年のケンタッキー州知事選挙で初めて試され、翌年の大統領選挙から全国で使われるようになった。
出口調査は、二つのものを報道にもたらした。一つは速さである。投票が締め切られたその瞬間に、結果の見通しを伝えられる。もう一つが、「なぜ」である。若い有権者の何割がどちらに入れたか、経済を最も重視した人はどちらを選んだか。それまでは、地区ごとの集計結果から、この地区は労働者が多いからおそらく、と推測するしかなかった。出口調査は、投票した一人ひとりに直接尋ねる。選挙の分析のしかたが、根本から変わった。出口調査は不正を疑う手がかりにもなる。2004年のウクライナの大統領選挙では、出口調査と公式に発表された結果が大きく食い違い、抗議の運動が広がって再投票に至った(オレンジ革命)。もっとも、出口調査そのものにも誤差があり、それだけで不正の証拠にはならない。
速さは、新しい問題も生んだ。1980年の大統領選挙では、東部時間の午後8時過ぎにテレビ局がレーガンの勝利を伝え、カーター大統領は9時50分ごろに敗北を認めた。そのとき西海岸では、まだ投票の締め切りまで一時間以上残っていた。結果を知って投票に行くのをやめた人がいた、同じ日に行われた地方の選挙が影響を受けた、という批判が起き、議会でも取り上げられた。影響の大きさについては研究によって見方が割れているが、各局は以後、その州の投票が締め切られるまでは当選確実を出さないという取り決めを結んだ。
そして、出口調査は外れることがある。2000年の大統領選挙のフロリダ州では、テレビ各局がまず夜の8時前にゴアの勝利を伝え、のちに取り消した。翌日の未明には今度はブッシュの勝利を伝え、これもまた取り消した。標本の誤差に加え、不在者投票が見込みに入っていなかったことや、ある郡の集計での入力の誤りが重なった。フロリダの結果は五週間にわたる数え直しと裁判にもつれ込み、最後は連邦最高裁が数え直しを止めて決着した(数え直し)。この失敗の後、出口調査の体制は作り直され、ミトフスキー自身もその再設計に関わった。
いま、出口調査は別の壁にも突き当たっている。調査に答えない人の割合が増え、しかも答えない人の傾向が支持する政党と結びついているのではないかという指摘がある。2016年のアメリカ大統領選挙で多くの世論調査が結果を読み違えたときにも(調査が当たらない)、この偏りが議論された。さらに、期日前投票や郵便投票が広がった。2020年のアメリカでは、投票した人の大半が当日以外に投票しており、投票所の出口に立っていても、その人たちには会えない。そのため出口調査は、電話やインターネットの調査と組み合わせなければ成り立たなくなっている。投票所の出口で人をつかまえるという方法そのものが、前提を失いつつある。
日本でも、テレビ局が投票日に出口調査を行い、投票が締め切られる午後8時ちょうどに「当選確実」を伝えるのが見慣れた光景になった。開票率がまだゼロでも当確が出るのは、出口調査があるからである。
ミトフスキーは2006年に七十一歳で急死した。世論調査の専門家たちの協会は、彼の名を冠した賞を設けている。彼が強調し続けたのは、出口調査は予言ではなく測定だ、ということだった。そして測ったものには必ず誤差の幅がある。その幅を、伝える側も受け取る側も、しばしば忘れてしまう。