概要
英語の綴りと発音は大きくずれていて、文字を見ても読み方が分からないことが多い。1886年、パリの英語教師ポール・パシーらは、外国語の発音を正しく教えるための会を作り、1888年、その機関誌で、世界のあらゆる言語の音を書き表すための記号を発表した。一つの音には一つの記号、一つの記号には一つの音。ローマ字をもとに、足りない音には新しい記号を加えた。国際音声記号は、その後も改訂を重ねながら、言語学、外国語の辞書や教科書、言語聴覚士の仕事などで、世界共通の発音の書き方として使われている。
場所
48.86°N 2.35°E · フランス
本文
19世紀の後半、ヨーロッパでは外国語の教え方が変わりつつあった。それまでの外国語の授業は、文法を覚え、古典を訳すことが中心で、話す練習はほとんどしなかった。新しい教え方は、話し言葉を重んじ、まず正しい発音から教えようとした。だが、英語やフランス語の綴りは、実際の発音と大きくずれている。英語では、同じ「ou」が、through、though、bough、cough でみな違う音になる。綴りに頼っていては、発音は教えられなかった。
1886年、パリの英語の教師ポール・パシーは、同じ考えを持つ教師たちと、音声学を教育に生かすための会を作った。会はやがて国際音声学協会と名を改めた。デンマークの言語学者オットー・イェスペルセンや、イギリスの音声学者ヘンリー・スウィートも加わった。
1888年、協会の機関誌は、すべての言語の音を書き表すための記号の表を発表した。原則ははっきりしていた。区別のある音には、それぞれ別の記号を当てる。同じ記号は、どの言語でも同じ音を表す。記号はなるべくローマ字をもとにし、足りない音には、字をひっくり返したり、形を変えたりした新しい記号を作る。英語の th の音を表す θ や ð、あいまいな母音を表す ə などが、こうして使われるようになった。
国際音声記号は、その後、新しい言語の研究が進むたびに改められ、アフリカの言語の吸着音のような、ヨーロッパの言語には無い音の記号も加えられた。20世紀のはじめ、ロンドン大学のダニエル・ジョーンズは、この記号で英語の発音辞典を作り、標準的な英語の発音の教え方を確立した。
いまでは、国際音声記号は、言語学者が世界の言語を記録するとき、外国語の辞書が発音を示すとき、歌手が外国語の歌詞を覚えるとき、言語聴覚士が話し方の障害を記録するときなどに、世界共通の発音の書き方として使われている。日本の英語の辞書の発音記号も、これをもとにしている。