概要
対数は掛け算を足し算に変える。ガンターは対数の目盛を刻んだ物差しを作り、コンパスで長さを測って足した。オートレッドは、同じ目盛の尺を二本、滑らせて重ねればよいと考えた。掛け算が、目盛を合わせる動作になる。有効数字は三桁ほどしか読めない。しかし、桁を間違えなければ、それで足りる場面が多い。以後三百五十年、技師と航海士と学生がこれを腰に下げた。アポロ計画の技術者も使っている。電卓が現れて、数年で消えた。
場所
51.51°N -0.13°E · イギリス・イングランド
関わった人(1)
ウィリアム・オートレッドAD1574年3月5日–AD1660年6月30日 · 考案本文
**前提**。
**対数**。
(**1614年、**ジョン・ネイピア**。
**——**掛け算を、足し算に変える**。
**log(a×b) = log(a) + log(b)**。
**そして、**1617年、ヘンリー・ブリッグス**が、**常用対数(底が10)**の表を作り始めた**。
〈**——**手で、計算した**。
**14桁**。
**そして、**1から20,000、そして90,000から100,000まで**。
**〈間の70,000は、後にオランダのフラックが埋めた。〉**〉
**——**天文学者と航海士が、救われた**。
**ラプラスが、後に言った**(要旨)。
**「対数は、労力を減らすことで、**天文学者の寿命を二倍にした**」**。)
**ガンター**。
**1620年、**エドマンド・ガンター**(グレシャム・カレッジの天文学教授)。
(——**物差しに、**対数の目盛を刻んだ**。
**「ガンターの線」**(Gunter's line)。
**使い方**。
〈**コンパス(ディバイダー)で、**1からaまでの長さ**を取る**。
**そして、その長さを、**bのところから、先へ足す**。
**——**針が指したところが、a×b である**。〉
**——つまり、**対数表を引かずに、長さで足し算をしている**。〉)
**オートレッド**。
**1622年頃**。
(**ウィリアム・オートレッド**(1574〜1660年)——**英国国教会の、教区司祭**である**。
**彼が、考えた**。
**——**コンパスが、要らない**。
**同じ目盛の尺を、**二本、並べて、滑らせればよい**。
〈**b の目盛を、**もう一方の 1 に合わせる**。
**そして、**a の目盛のところを読む**。
**——**a×b が、そこにある**。〉
**そして、彼は、**円形のもの**も作った**。
〈**二枚の円盤を、重ねて回す**。
**——**「端がない」**という利点がある**。〉)
**争い**。
(——**オートレッドは、**すぐには、公表しなかった**。
**弟子の**リチャード・デラメイン**が、**1630年、円形の計算尺について、先に本を出した**。
**——**オートレッドは、**自分の発明だと主張した**。
**そして、**激しい論争になった**。
〈**デラメインは、**独立に発明した**と主張した**。
**——**決着していない**。
**そして、デラメインは、**貧困のうちに死んだ**。〉
**オートレッドが、自分の説明を出したのは、**1632年**である**。〉)
**構造**。
(**(1)**固定尺**(本体)。
**(2)**滑尺**(スライダー)。
**(3)**カーソル**(透明な窓に、細い線)。
〈**——カーソルは、**後の発明**である**(17世紀末、ニュートンが構想し、19世紀に一般化した)。
**離れた尺の目盛を、**同じ位置で読むため**。〉
**目盛**。
〈**C、D——**基本の対数目盛**(掛け算、割り算)。
**A、B——**平方の目盛**。
**K——**立方**。
**S、T——**正弦、正接**。
**L——**常用対数**。
**LL——**両対数(累乗)**。
**——**高級なものには、**20本以上の目盛**があった**。〉)
**限界**。
(——**有効数字が、**三桁**しか読めない**。
**〈長いものでも、四桁弱。〉**
**そして——**桁が、分からない**。
**「2.5」と出たとき、**それが 2.5 なのか 250 なのか 0.025 なのか**は、**尺は教えてくれない**。
〈**——**使う人が、頭の中で、概算しておく**。
**「だいたい、この程度のはずだ」**。
**——**これが、**技術者の感覚を鍛えた**、としばしば言われる**。
**〈計算尺を使っていた世代が、電卓の世代を評して、「桁を間違えても気づかない」と言う。〉**〉
**そして——**足し算と引き算が、できない**。
〈**——**対数は、掛け算のための道具である**。〉)
**それでも、足りた**。
(——**工学の計算は、**三桁で足りることが多い**。
**材料の強度に、**それ以上の精度が無い**。
**安全率を、**2とか3とか掛ける**。
**——**四桁目は、意味が無い**。〉)
**普及**。
(**19世紀、**アメデ・マンハイム**(フランスの砲兵将校、1859年)が、**標準的な配置**を定めた**。
**——**マンハイム型**。**カーソル付き**。
**そして、**世界中に広がった**。
**製造——**ケフェル・アンド・エッサー**(アメリカ)、**ファーバー・カステル**(ドイツ)、**ヘンミ**(日本)。
〈**ヘンミ計算尺**——**竹**を使った**。
**——**竹は、湿度と温度による伸縮が小さく、そして、滑りが良い**。
**〈日本製の計算尺が、世界市場で高い評価を得た理由の一つである。〉**〉)
**使われたもの**。
(——**橋。ダム。船。飛行機**。
**エンパイア・ステート・ビル**。
**フーヴァー・ダム**。
**そして——**アポロ計画**。
〈**NASAの技術者が、**ピケット社のN600-ES**を使っていた**。
**——**バズ・オルドリンが、**アポロ11号に、計算尺を持って行った**。
**〈2007年に競売にかけられ、約8万ドルで売れた。〉**
**そして、**アポロ13号の事故のとき**、地上の技術者が、**計算尺で、軌道の修正を確かめた**、と語られる**。
**——**この逸話の細部には、脚色がある**。**しかし、当時、計算尺が現場の道具だったことは確かである**。〉
**さらに——**マンハッタン計画**。
**そして、**ドイツのV2ロケット**。)
**終わり**。
(**1972年、**ヒューレット・パッカードHP-35**。
**——**ポケットに入る、科学計算用の電卓**。
**価格——**395ドル**。
〈**——高い**。**しかし、**四桁ではなく、十桁**が出る**。
**そして、**三角関数と対数が、ボタン一つ**。〉
**——**数年で、計算尺が、消えた**。
〈**1975年、ケフェル・アンド・エッサーが、**計算尺の生産を止めた**。
**——**そして、最後の一本を、スミソニアン博物館に寄贈した**。
**1976年、ヘンミも、事実上、撤退した**。〉
**——**三百五十年、使われた道具が、**四、五年で、消えた**。〉)
**いま**。
(——**航空機の**フライト・コンピュータ**(E6Bなど)は、**いまも、円形の計算尺である**。
〈**電池が要らない**。**壊れない**。
**——**そして、パイロットの試験に、いまも出る**。〉
**そして、**古い計算尺は、**収集の対象になっている**。)