概要
ハーヴァード大学の新しい講堂が、極端に聞き取りにくい。若い物理学者ウォーレス・セイビンが原因の調査を任された。夜、彼はオルガンの音管を鳴らし、止め、消えるまでの時間を耳と時計で測った。座布団を運び込んでは測り、人を座らせては測る。数千回。そして残響時間が、部屋の容積に比例し、吸音の総量に反比例することを見出した。式が一本できたことで、建てる前に響きを計算できるようになる。1900年のボストン交響楽ホールが、その最初の適用である。
場所
42.36°N -71.06°E · アメリカ・マサチューセッツ州
関わった人(1)
ウォーレス・セイビンAD1868年6月13日–AD1919年1月10日 · 測った本文
**問題**。
(**1895年、ハーヴァード大学**。
〈**——**フォッグ美術館**の、**新しい講堂**。
**——**そして、**話が、聞き取れない**。
**〈——「一つの音節が、**次の音節が来るまで、消えない**」。**
**——そして、**重なって、**何を言っているか、分からない**。〉**
**——**建物は、**既に、建ってしまっている**。〉
**——**そして、**大学が、**若い物理学者に、**それを、押しつけた**。
〈**——**ウォーレス・セイビン**、**当時、二十七歳**。
**——**助教授**である**。
**——**そして、**音響学の予備知識は、**無い**。
**〈——「この分野には、**そもそも、**先行する研究が、ほとんど無かった**」。〉**
**——**引き受ける以外の、選択肢が、無かった**。〉)
**方法**。
(——**極めて、単純である**。
〈**(1)**オルガンの音管**を、鳴らす**。
**〈——512Hz(中央のハ音の、二オクターヴ上)。〉**
**(2)**止める**。
**(3)**そして、**聞こえなくなるまでの時間を、**測る**。
**〈——ストップウォッチ。**
**——そして、彼自身の耳。〉**
**(4)**それから、**部屋の中に、**吸音するものを、入れる**。
**〈——別の講堂(サンダース劇場)の、**座布団**である。**
**——夜中に、**運び込んだ**。**
**——そして、朝までに、**戻した**。**
**——授業が、始まるからである。〉**
**(5)**そして、**また、測る**。〉
**——**それを、**繰り返した**。
〈**——**数千回**。
**——**そして、**夜である**(昼は、雑音がある)。
**——**さらに、**助手と、学生に、**座らせては、測った**。
**〈——「人一人が、**どれだけ、吸音するか」**。**
**——そして、**女性の服のほうが、よく吸う**ことも、分かった。〉**
**——**三年**。〉)
**式**。
(——**そして、**関係が、見えた**。
〈**——**残響時間 T**(音が、60デシベル減衰するまでの時間)。
**T = 0.161 × V / A**
**〈——V は、**部屋の容積**(立方メートル)。**
**——A は、**吸音力の総和**(平方メートル・サビン)。**
**——係数は、単位系による。〉**
**——**つまり**。
**〈——**部屋が、大きいほど、**長く、響く**。**
**——吸音するものが、多いほど、**短くなる**。〉**
**——**そして、**これが、**極めて、単純である**。〉
**——**その意味**。
〈**——**建てる前に、**計算できる**。
**——**「この設計なら、**残響が、何秒になる」**。
**——**そして、**それを、**目標の値に、合わせられる**。
**〈——講演には、**短い残響**(1秒前後)。**
**——オーケストラには、**長め**(1.8〜2.2秒)。**
**——教会音楽には、**さらに長い**。〉**
**——**建築音響学**が、**そこで、始まった**。〉)
**ボストン交響楽ホール**。
(**1900年10月15日、開場**。
〈**——**設計、**マッキム・ミード・アンド・ホワイト**。
**——**そして、**セイビンが、**音響を、担当した**。
**——**世界で最初に、**音響を、計算して設計されたホール**である**。〉
**やったこと**。
〈**(1)**箱型**の形。
**〈——ウィーン楽友協会大ホールを、参考にした。**
**——ただし、そのままではない。〉**
**(2)**残響時間を、**約1.9秒**(満席時)に、狙った**。
**(3)**天井を、**低くした**。
**〈——当初の設計より。**
**——容積を、減らすためである。〉**
**(4)**そして、**壁と天井に、**彫刻の凹凸**。
**〈——音を、拡散させる。〉**
**(5)さらに、**舞台を、**傾斜させ、**側壁を、内側に傾けた**。〉
**——**評価**。
〈**——**「世界で最も響きの良いホールの、三本の指に入る」**と、しばしば言われる**。
**〈——ウィーン楽友協会、アムステルダムのコンセルトヘボウ、そしてボストン。〉**
**——**そして、**いまも、そこで、**演奏されている**。〉)
**単位**。
(——**吸音力の単位が、**「サビン」**である**。
〈**——**1平方メートルの、**完全な吸音面**(開いた窓と、等価)。
**——**メートル・サビン**、あるいは、**平方フィート・サビン**。〉
**——**そして、**彼の名が、**そこに、残っている**。〉)
**その後**。
(——**セイビンは、**さらに、いくつもの建物に、関わった**。
〈**——**そして、**第一次大戦**。
**——**彼は、**アメリカとフランスで、**軍の技術の仕事**に、就いた**。
**〈——航空機の、**音による探知**。**
**——そして、大砲の、**音による標定**(sound ranging)。**
**〈——複数の地点で、砲声を、記録する。**
**——そして、到達時間の差から、**敵の砲の位置を、計算する**。**
**——彼の音響学が、そこで、使われた。〉〉**
**——**そして、**過労で、**体を、壊した**。
**1919年1月10日、死去**。**五十歳**。
**〈——腎臓の疾患。〉**〉
**——**そして、**限界**。
〈**——**セイビンの式は、**吸音が、部屋の中で、**一様に、分布している**ことを、前提にしている**。
**——**そして、**音が、**あらゆる方向に、均等に、飛び回っている**ことも**。
**〈——「拡散音場」。〉**
**——**現実には、**そうではない**。
**〈——吸音材が、**片側の壁に、集中している**場合。**
**——そして、**極端に、吸音の多い部屋**。**
**——そこでは、**式が、合わない**。**
**——後に、**アイリングと、ミリントン**が、修正の式を、出した。〉**
**——**そして、**いま、**計算機による、波動の解析**が、使われている**。
**——**それでも、**セイビンの式が、**最初の見積もり**として、**いまも、教科書の最初にある**。〉)