概要
ブラジルの奥地で先住民と暮らした人類学者が、婚姻の規則を、言語学の音韻論と同じ方法で分析した。婚姻は、女性を集団の間で交換する体系であり、その交換の規則が社会を作る。「未開」と「文明」に、思考の質の差はない。『野生の思考』『神話論理』。構造主義。サルトルの実存主義と論争になった。100歳を超えて生きた。
場所
48.86°N 2.35°E · フランス
関わった人(1)
クロード・レヴィ=ストロースAD1908年11月28日–AD2009年10月30日 · 書いた本文
1935年、クロード・レヴィ=ストロース26歳。パリの高校で哲学を教えていた。ある日曜の朝、電話。「人類学がしたいと言っていたね。サンパウロ大学の社会学の教授の口がある。郊外はインディアンだらけで、週末に通える」。
(実際には、サンパウロの郊外にインディアンはいなかった。)
1935〜39年、ブラジル。大学で教えながら、内陸へ。カデュヴェオ(顔に複雑な文様を描く)、ボロロ(村が同心円と直径で区切られ、その配置が社会の構造を写している)、そしてナンビクワラ(マト・グロッソの、ほとんど何も持たない人々。彼が最も長く一緒にいた)。
『悲しき熱帯』(1955年)の有名な一節。ナンビクワラの首長が、彼が字を書くのを見て、紙に波線を引いて、それを読むふりをして、部下に見せた。「書くこと」が最初にしたのは、知識を伝えることでなく、権威を作ることだった。「文字の第一の機能は、人間の隷属を容易にすることである」。
1939年、帰国。1940年、ユダヤ人であることで、ヴィシー政権下の教職から追われた。1941年、ロックフェラー財団の救済計画で、マルセイユから船でアメリカへ(同じ船に、アンドレ・ブルトンとヴィクトル・セルジュがいた)。
ニューヨーク。ニュー・スクールで教えた。図書館で、北米先住民の膨大な民族誌を読んだ。そして、亡命していた言語学者ロマーン・ヤコブソンに会った。
ヤコブソンの音韻論。言語の音は、それ自体に意味はない。他の音との差異(有声か無声か、鼻音か口音か)の体系の中でだけ、意味を担う。少数の対立の組み合わせで、無数の語ができる。
レヴィ=ストロースは、これを人類学に移した。婚姻の規則も、神話も、料理も、意味を持つのは、要素そのものでなく、要素の間の関係の体系である。
1948年、『親族の基本構造』(学位論文。1949年刊)。
問い。なぜ、あらゆる社会にインセスト・タブーがあるのか。
答え。それは「禁止」であると同時に「命令」である。自分の姉妹と結婚してはならない、ということは、姉妹を他の集団に与えなければならない、ということ。つまり、集団の間で女性を交換させる規則である。
交換は、社会を作る。モースの『贈与論』(贈り物は、返礼の義務を作り、それが集団を結ぶ)を、婚姻に適用した。
そして、交換の形式を分類した。「限定交換」(AとBが互いに交換する。双分組織)と「一般交換」(AがBに、BがCに、CがAに与える。円環)。後者のほうが、より多くの集団を結ぶが、信頼が要る。
オーストラリア先住民の複雑な婚姻の階級(4クラス、8クラス)を、代数の群論を使って分析した(数学者アンドレ・ヴェイユの協力)。
「自然から文化へ」。インセスト・タブーは、自然(生物としての性)と文化(規則)の境目にある、唯一の普遍的な規則である。
その後。1955年『悲しき熱帯』(旅行記であり、自伝であり、文明批判。文学として読まれ、ゴンクール賞に値するがジャンルが違うので出せない、と選考委員が声明を出した)。1958年『構造人類学』。1962年『今日のトーテミスム』と『野生の思考』。
『野生の思考』の主題。「未開」の思考は、「文明」の思考の未熟な段階ではない。それは、別の仕方で、同じくらい厳密に働く。彼はそれを「ブリコラージュ」(あり合わせの材料で組み立てる、器用仕事)と呼んだ。科学者が概念を設計するのに対して、神話的思考は、手元にある感覚的な素材(動物、植物、色、方角)を組み合わせて、世界を秩序づける。
この本の最終章で、サルトルの『弁証法的理性批判』を批判した。サルトルは、歴史を作る主体としての人間を中心に置いた。レヴィ=ストロースは、「歴史」もまた一つの神話であり、西洋の社会が自分を特権化するための装置だ、と論じた。実存主義と構造主義の交代を、この論争が象徴した。
1964〜71年、『神話論理』4巻(『生のものと火を通したもの』『蜜から灰へ』『食卓作法の起源』『裸の人』)。南北アメリカの神話813を集めて、その変換の規則を追った。
1959年、コレージュ・ド・フランス。1973年、アカデミー・フランセーズ。
2008年、100歳の誕生日に、フランス大統領が訪ねた。2009年10月30日、死んだ。100歳11か月。