概要
灯台の光を遠くへ届けるには、レンズで束ねればよい。しかし必要な大きさのレンズは、厚く、重く、自重で歪み、そして光を吸ってしまう。オーギュスタン・ジャン・フレネルは、レンズを同心円の帯に分け、曲面だけを残して厚みを削った。板のように薄く、光を通す。さらに外側には全反射するプリズムの環を置き、上下へ逃げる光まで拾った。ジロンド川口のコルドゥアン灯台に据えられ、光の届く距離が倍以上になった。彼は三十九歳で結核により死んだ。
場所
44.84°N -0.58°E · フランス
関わった人(1)
オーギュスタン・ジャン・フレネルAD1788年5月10日–AD1827年7月14日 · 設計本文
**問題**。
(——**灯台の光を、**遠くへ、届けたい**。
**方法**。
〈**(1)**反射鏡**(catoptric)。
**——**放物面の鏡を、**光源の後ろに、置く**。
**——**そして、**それを、複数、並べる**。
**〈——18世紀後半から、使われた。**
**——問題。**
**——鏡が、**光を、吸う**(当時の銀メッキで、反射率は、**六割程度**)。**
**——そして、**放物面から外れた光は、**逃げる**。〉**
**(2)**レンズ**(dioptric)。
**——**凸レンズで、**束ねる**。
**——**問題**。
**〈——**必要な口径のレンズは、**極端に、厚く、重くなる**。**
**——直径1メートルのレンズなら、**中心の厚さが、数十センチ**。**
**——重さ、**数百キロ**。**
**——そして、**厚いガラスは、光を、吸う**。**
**——さらに、**自重で、歪む**。**
**——そして、**冷やすときに、割れる**。〉〉**)
**着想**。
(——**「レンズの、どこが、光を曲げているか」**。
〈**——**表面の、**曲面**である**。
**——**内部の、厚い部分は、**光を、通しているだけ**である**。
**——**そして、**吸っている**。〉
**——**では、**その厚みを、削ればよい**。
**方法**。
〈**(1)**レンズを、**同心円の、輪**に、分ける**。
**(2)**それぞれの輪の、**曲面だけを、残す**。
**(3)**そして、**残りを、削って、**平らな板の上に、並べ直す**。
**——**「階段状の」レンズ**。
**〈——厚さが、**数センチ**で済む。**
**——そして、**光学的な性能は、**元の厚いレンズと、ほぼ同じ**。〉〉**
**先行**。
〈**——**ビュフォン**(1748年)が、**同じ発想を、述べている**。
**〈——一枚のガラスから、**階段状に、削り出す**、という案。**
**——実際に作るのは、極めて、難しい。〉**
**——**コンドルセ**(1773年)も**。
**——**そして、**ブリュースター**(イギリス)が、**同じ頃、独立に、考えていた**。
**——**フレネルが、やったのは、**輪を、別々に作って、組み合わせる**ことである**。
**〈——「作れる」形にした。〉**〉)
**そして、もう一段**。
(——**フレネルは、**さらに、外側に、**プリズムの環**を、置いた**。
〈**——**中央のレンズから、大きく外れた角度へ行く光**は、**レンズでは、拾えない**。
**——**そこに、**断面が三角形の、ガラスの環**を、置く**。
**——**光が、**そこで、屈折し、**内部で全反射し、**そして、水平方向へ、出る**。
**〈「カタディオプトリック」。**
**——屈折と、反射の、両方を使う。〉**
**——**これで、**光源から出る光の、**極めて大きな割合**を、水平方向へ、集められる**。
**〈——反射鏡だけの方式で、**約17%**。**
**——フレネル・レンズで、**約80%以上**、と、当時、計算された。〉**〉)
**等級**。
(——**フレネルが、**大きさの規格**を、定めた**。
〈**——**第一等**——**焦点距離920ミリ、直径約1.8メートル、高さ約2.6メートル**。
**——**そして、**第六等**まで**。
**——**大きいほど、遠くへ届く**。
**〈——第一等は、**主要な岬と、大洋に面した灯台**。**
**——小さいものは、**港と、河口。〉**
**——**この規格が、**世界標準になった**。〉)
**コルドゥアン**。
(**1823年7月25日**。
**——**ジロンド川の河口**(ボルドーの、下流)。
〈**——**コルドゥアン灯台**。
**——**16世紀末に建てられた、**極めて古い灯台**である**。
**〈——「灯台のヴェルサイユ」と呼ばれる、装飾的な塔。**
**——そして、**フランスの現役の灯台で、最も古い**。**
**——2021年、世界遺産。〉**
**——**そこに、**フレネルの第一等レンズ**が、据えられた**。〉
**結果**。
〈**——**光の届く距離が、**倍以上になった**、とされる**。
**——**そして、**燃料の消費が、減った**。
**〈——同じ明るさを、**少ない油**で、得られる。〉**〉
**——**そして、**十年で、**フランス中の灯台が、これに切り替わった**。〉)
**普及と、抵抗**。
(——**イギリスは、**遅れた**。
〈**——**トリニティ・ハウス**(灯台を管理する組織)が、**反射鏡の方式に、固執した**。
**——**理由**。
**〈——**「フランスのものである」**。**
**——そして、**既存の設備への投資**。〉**
**——**1830年代から、**次第に、導入された**。〉
**アメリカ**。
〈**——**さらに、遅れた**。
**——**灯台の管理者**スティーヴン・プレザントン**(財務省の役人)が、**費用を理由に、拒み続けた**。
**〈——彼は、灯台の予算を、**極端に切り詰めることで、評価されていた**。**
**——そして、アメリカの灯台は、**「世界で最も、質の悪いもの」**として、船乗りに、悪名高かった。〉**
**——**1852年、**灯台局が、設置され、**方針が、変わった**。
**——**そして、**南北戦争で、**南軍が、レンズを、外して隠した**。
**〈——北軍の船が、使えないように。**
**——戦後、多くが、見つかった。**
**——そして、いくつかは、失われた。〉**〉)
**フレネル**。
(——**彼は、**土木技師**である**。
〈**——**灯台の仕事は、**「灯台委員会」の委員**としての、公務である**。〉
**そして、**彼の本業は、**光の理論**である**。
〈**——**光は、**波である**。
**——**そして、**横波である**(進行方向に、垂直に振動する)。
**——**それを、**数学で示した**。
**〈——当時、**ニュートン以来の粒子説**が、主流である。**
**——そして、フランス学士院の懸賞論文(1819年)で、**
**——審査員のポアソンが、**フレネルの理論に、反例を、突きつけた**。**
**「この理論によれば、**円盤の影の中心に、明るい点ができる**はずである。**
**……**そんな馬鹿なことは、ありえない」**。**
**——そして、アラゴが、**実験した**。**
**——点が、あった**。**
**〈「ポアソンの明点」、あるいは「アラゴの明点」。**
**——反証しようとした人の名が、付いている。〉**
**——フレネルが、賞を得た。〉**〉
**1827年7月14日、死去**。**三十九歳**。
〈**——**結核**である**。
**——**死の直前、**ロンドン王立協会が、**ラムフォード・メダル**を、贈った**。
**そして、彼は、こう言ったと伝えられる**。
**「わたしが、最も高く評価する賞賛は、……**もはや、わたしには、意味がない」**(要旨)。〉
**——**エッフェル塔に刻まれた、七十二人の名の一つ**である**。〉)
**そして、いま**。
(——**灯台のレンズとしての役目は、**終わりつつある**。
〈**——**回転する巨大なレンズ**の代わりに、**LEDの点滅**。
**——**そして、**GPS**。
**——**多くの灯台が、**自動化され、あるいは、廃止された**。
**——**外されたレンズが、**博物館と、収集家の手に、渡っている**。〉
**——**しかし、**原理は、あらゆるところにある**。
〈**——**プロジェクターと、映写機の集光**。
**——**自動車のヘッドライトと、テールランプ**。
**——**カメラのフォーカシング・スクリーン**。
**——**そして、**薄いプラスチックの、拡大レンズ**。
**〈——本の栞のような、平たい虫眼鏡。**
**——あれが、フレネル・レンズである。〉**
**——**さらに、**太陽光を集める装置**。〉
**——**「厚みを、削る」**という一つの考えが、**二百年、使われている**。)