概要
当時の冷媒はアンモニア、塩化メチル、二酸化硫黄である。漏れれば人が死ぬ。家庭用の冷蔵庫の事故が続き、代わりが求められた。ゼネラルモーターズのトマス・ミジリーが、三日でジクロロジフルオロメタンに行き着いた。無毒、不燃、無臭。彼は学会で吸い込んで蝋燭を吹き消してみせた。冷蔵庫が家庭に入り、エアコンが普及した。そして四十年後、この物質が成層圏でオゾンを壊すことが分かる。同じ人物が、有鉛ガソリンも世に出している。
場所
39.76°N -84.19°E · アメリカ・オハイオ州
関わった人(1)
トマス・ミジリーAD1889年5月18日–AD1944年11月2日 · 作った本文
**問題**。
**1920年代**。
(——**家庭用の冷蔵庫が、**普及し始めていた**。
**そして、**冷媒が、**毒である**。
〈**塩化メチル、二酸化硫黄、アンモニア**。
**——**配管から、漏れる**。
**そして、**気づかない**。
**〈塩化メチルは、ほとんど無臭である。〉**〉
**事故が、報じられた**。
〈**——**1929年、クリーヴランドのクリーヴランド・クリニックで、**火災が起き、123人が死んだ**。
**〈X線フィルムの、硝酸セルロースが燃えて、有毒ガスが出た。**
**——冷媒とは、別の事故である。**
**しかし、当時、この二つが結びつけて論じられ、**
**「毒ガスの危険」への関心が、高まった。〉**
**そして、**冷媒漏れによる家庭内の死亡が、複数、報じられた**。〉
**——**ゼネラルモーターズ**(子会社フリジデア)が、**代わりを、探した**。〉)
**注文**。
(——**要求**。
**(1)**適切な沸点**(——冷媒として、使える温度域)。
**(2)**無毒**。
**(3)**不燃**。
**(4)**安定**(分解しない)。
**(5)**安い**。〉)
**探索**。
**トマス・ミジリー**と、**アルバート・ヘン**、**ロバート・マクナリー**。
**1928年から1930年**。
(——**ミジリーは、**「三日で見つけた」**と、後に語っている**。
〈**——**これは、**誇張である**、と現在では考えられている**。
**実際には、**数か月から二年**、系統的に探索している**。
**——ただし、**探し方が、系統的だった**ことは、確かである**。〉
**方法**。
〈**——**周期表を、見た**。
**「沸点が適切で、安定で、無毒な化合物は、**周期表のどこにあるか**」**。
**——**フッ素**に、行き着いた**。
**〈当時、フッ素化合物は、**「猛毒」**と考えられていた。**
**——フッ化水素は、実際、極めて危険である。**
**しかし、**炭素にしっかり結合したフッ素は、違う**。〉**
**——**ジクロロジフルオロメタン**(CCl₂F₂)。
**〈後の、**R-12**、商品名**「フレオン」**。〉**〉)
**実演**。
**1930年4月、アメリカ化学会**。
(——**ミジリーが、**壇上で、やってみせた**。
**(1)**フロンを、大きく吸い込んだ**。
**(2)**そして、**ゆっくり吐き出して、**火のついた蝋燭を、吹き消した**。
〈**——**「無毒である」**(吸っても、平気)。
**——**「不燃である」**(むしろ、火を消す)。
**——**二つを、**一度に示した**。〉
**——**極めて、効果的な実演である**。
〈**そして、**彼は、この種の演出が、うまかった**。
**——**後述する。〉**〉)
**普及**。
(——**1931年から、**デュポンとGMの合弁**(キネティック・ケミカルズ)が、**生産を始めた**。
**そして、**冷蔵庫が、**家庭に入った**。
〈**1930年、アメリカの家庭の**約8%**が冷蔵庫を持っていた**。
**1950年には、**80%を超えた**。〉
**そして、**エアコン**。
〈**——**フロンによって、**安全で、小型のエアコン**が、可能になった**。
**——**そして、**アメリカ南部の人口が、増えた**。
**〈「サンベルト」。**
**——エアコンが無ければ、ヒューストンとフェニックスは、いまの規模にならなかった。〉**〉
**さらに——**スプレーの噴射剤**、**発泡剤**、**電子部品の洗浄剤**。
〈**——**「安定で、無毒で、何とも反応しない」**。
**——**だから、**あらゆる用途に使われた**。〉)
**そして、四十年後**。
**1974年**。
(**マリオ・モリーナ**と**F・シャーウッド・ローランド**(カリフォルニア大学アーヴァイン校)。
**『ネイチャー』誌に、論文**。
**要旨**。
〈**(1)**フロンは、**安定である**。
**——**だから、**対流圏では、分解しない**。
**——**そして、**成層圏まで、上がっていく**。
**(2)**成層圏には、**強い紫外線**がある**。
**——**そこで、**フロンが、分解する**。
**——**塩素原子が、**遊離する**。
**(3)**その塩素が、**オゾンを壊す**。
**——**そして、**触媒として働く**。
**〈——**塩素原子一個が、**数万個から十万個のオゾン分子を、壊す**。**
**——自分は、消費されない。〉**〉
**——**つまり**。
**「安定である」という、この物質の最大の長所**が、**そのまま、問題の原因である**。
〈**——**分解しないから、成層圏まで届く**。〉)
**そして、確認された**。
(**1985年、**ジョー・ファーマンら**(英国南極観測隊)。
**——**南極上空のオゾンが、**春に、劇的に減っている**。
〈**——**「オゾンホール」**。
**そして、**この観測は、**地上からの、地道な測定**による**。
**〈衛星のデータは、**値が低すぎるので、機械の異常として、自動的に除外していた**。
**——後で、データを見直したら、そこに写っていた。〉**〉
**——**予測より、**はるかに深刻だった**。
〈**理由——**極成層圏雲**の表面での、不均一反応**。
**——モリーナとローランドの理論には、入っていなかった機構である**。〉)
**対応**。
(**1987年9月16日、**モントリオール議定書**。
**——**採択から、**発効まで、二年**。
**そして、**すべての国連加盟国が、批准した**。
〈**——**国際環境条約として、**最も成功した例**とされる**。〉
**そして、**フロンは、段階的に、廃止された**。
〈**——**代替品**。
**HCFC**(塩素が少ない)→ **HFC**(塩素が無い)。
**——**そして、**HFCは、強力な温室効果ガスである**。
**〈CO₂の、数百倍から一万倍以上。〉**
**——**2016年、**キガリ改正**で、**HFCも、削減の対象になった**。〉
**そして——**オゾン層は、**回復しつつある**。
〈**——**2000年代から、**濃度が、下げ止まり、そして、上向いている**。
**予測——**21世紀半ばから後半に、1980年の水準に戻る**。
**——**そして、その回復は、**まだ、確実ではない**。
**〈2018年、**東アジアで、禁止されたCFC-11の、無許可の製造が検出された**。
**——その後、止まったとされる。〉**〉)
**モリーナとローランド**。
(——**1974年、論文を出したとき、**業界から、激しく攻撃された**。
〈**——**「根拠の無い、憶測である」**。
**そして、**ローランドは、しばらく、講演に呼ばれなくなった**。〉
**1995年、**ノーベル化学賞**(パウル・クルッツェンと共に)。
**——**そして、ローランドは、こう言った**。
**「予測が正しいと分かったとき、**それは、勝利ではない**。……
**……**予測を出すことの目的は、**それが外れるようにすることだ**」**という趣旨。)