概要
ナイルは毎年氾濫し、肥沃な泥を運んできた。エジプトの農業は五千年、それに依存していた。ナセルは、洪水を止め、通年の灌漑と発電を得るために、巨大なダムを構想した。英米が融資を降り、スエズ運河の国有化と戦争に至る。ソ連が引き受けた。湛水でヌビアの村々が沈み、十万人以上が移住させられ、アブ・シンベル神殿は切断して移された。泥が来なくなり、農地は化学肥料に、三角州は侵食に、そして住血吸虫は蔓延に向かった。
場所
24.09°N 32.90°E · エジプト
関わった人(1)
ガマール・アブドゥル=ナセルAD1918年1月15日–AD1970年9月28日 · 進めた本文
**ナイル**。
(——**毎年、**氾濫した**。
〈**——**夏、**エチオピア高原**に、雨が降る**。
**——**青ナイルが、**増水する**。
**——**そして、**七月から九月、エジプトが、水に浸かる**。
**——**引くと、**肥沃な泥**が、残る**。〉
**——**五千年**。
〈**——**エジプトの農業は、**それに、依存していた**。
**——**そして、**その周期が、**暦と、税と、そして宗教を、作った**。
**〈——ナイロメーター(水位計)。**
**——水位で、**その年の税を、決めた**。〉**〉
**——**そして、**問題**。
〈**(1)**多すぎれば、**流される**。
**(2)**少なすぎれば、**飢饉**。
**(3)そして、**一年に、一度しか、使えない**。
**〈——通年の灌漑ができれば、**年に二度、三度、収穫できる**。〉**〉)
**前史**。
(——**1902年、**旧アスワン・ダム**(イギリスによる)。
〈**——**そして、**二度、嵩上げされた**(1912年、1933年)。
**——**それでも、**足りなかった**。〉
**そして、**1952年、**エジプト革命**。
〈**——**自由将校団**。**そして、**ナセル**。
**——**「新しいエジプト」の、象徴が、要った**。〉)
**融資**。
(**1955年から56年**。
〈**——**アメリカとイギリス、そして世界銀行**が、**融資を、約束した**。
**——**そして、**1956年7月19日、**アメリカが、それを、撤回した**。
**理由**。
**〈(1)**ナセルが、**チェコスロヴァキア(実質、ソ連)から、武器を買った**。**
**(2)**そして、**中華人民共和国を、承認した**。**
**(3)さらに、**議会内の反対**。**
**——南部の綿花の生産者が、**エジプトの綿花との競合を、嫌った**。〉**〉
**——**一週間後**。
〈**1956年7月26日**。
**——**ナセルが、**スエズ運河の国有化**を、宣言した**。
**——**「ダムの費用は、運河の通行料で、賄う」**。
**〈——演説の中で、**「ド・レセップス」**という語を、**合図として使った**。**
**——それを聞いた部隊が、運河庁を、占拠した。〉**〉
**——**そして、**スエズ危機**(第二次中東戦争)。
〈**——**イギリス、フランス、イスラエル**が、**侵攻した**。
**——**そして、**アメリカとソ連が、**両方とも、それに反対した**。
**——**撤退**。
**〈——イギリスとフランスの、**帝国としての時代が、終わった**、とされる出来事である。**
**——そして、ナセルは、**アラブ世界の英雄になった**。〉**〉
**1958年、**ソ連が、**融資と、技術者を、提供した**。〉)
**建設**。
(**1960年着工、1970年完成**。
〈**——**高さ、**111メートル**。
**——**長さ、**3,830メートル**。
**——**そして、**アースフィル・ダム**(岩と土を、積み上げる)である**。
**——**体積は、**大ピラミッドの、十七倍**、と、当時、宣伝された**。〉
**貯水池**——**ナセル湖**。
〈**——**長さ、**約550キロ**。**〈うち、約150キロがスーダン領。〉**
**——**貯水量、**約1,320億立方メートル**。
**——**世界最大級の、人造湖である**。〉
**発電**——**2,100メガワット**。
〈**——**完成当時、**エジプトの電力の、約半分**。
**——**そして、**それが、**村々への電化**を、可能にした**。〉)
**沈んだもの**。
(**(1)**ヌビア**。
〈**——**エジプト南部と、スーダン北部の、**ヌビア人の村々**。
**——**推定、**10万人から12万人**が、移住させられた**。
**〈——エジプト側は、**コム・オンボ**近郊へ。**
**——スーダン側は、**カシュム・エル・ギルバ**へ。**
**——数百キロ、離れた場所である。〉**
**——**そして、**彼らの土地と、墓と、村が、**水の底に、消えた**。
**〈——ヌビア語と、その文化が、**急速に、失われつつある**。〉**〉
**(2)**遺跡**。
〈**——**ユネスコが、**国際的な救済の運動**を、組織した**(1960年から1980年)。
**——**アブ・シンベル神殿**。
**〈——ラムセス2世の、岩窟神殿。**
**——**1,036の塊に、切断した**。**
**——そして、**六十メートル上、二百メートル奥**に、**組み立て直した**。**
**——四年。**
**——そして、**年に二度、朝日が、奥の至聖所に差し込む**という、**
**——元の設計の効果は、**一日、ずれた**。〉**
**——**フィラエ神殿**、そして**カラブシャ神殿**。
**——**合計、**二十二の記念物**が、移された**。
**〈——そして、この事業が、**世界遺産条約(1972年)**の、**
**——直接の、きっかけになった。〉**
**——**それでも、**移せなかったものが、大量にある**。
**〈——調査もされずに、沈んだ遺跡が、多数。〉**〉)
**得たもの**。
(**(1)**洪水を、止めた**。
〈**——**1964年と1975年の大洪水**を、**受け止めた**。
**——**そして、**1972年から73年、そして1980年代の旱魃**のとき、
**——**貯めた水で、**しのいだ**。
**〈——エチオピアとスーダンが、**飢饉に見舞われた**その年に、**
**——エジプトは、**しのいだ**。〉**〉
**(2)**通年の灌漑**。
〈**——**耕地が、**約三割、増えた**。
**——**そして、**二毛作、三毛作**。〉
**(3)**電力**。
**(4)**そして、**航行**。〉)
**失ったもの**。
(**(1)**泥**。
〈**——**年に、**約1億トン**の泥が、**ダムに、溜まる**。
**——**下流に、**来なくなった**。
**——**そして、**農地が、**化学肥料に、依存するようになった**。
**〈——皮肉である。**
**——肥料工場が、**ダムの電力で、動いている**。〉**〉
**(2)**三角州の、侵食**。
〈**——**泥が、来ない**。
**——**そして、**地中海が、**海岸を、削っている**。
**——**年に、**数メートル**、後退している場所がある**。
**そして、**海水が、**地下水に、侵入している**。〉
**(3)**塩害**。
〈**——**通年の灌漑**。
**——**そして、**排水が、追いつかない**。
**——**土に、**塩が、溜まる**。〉
**(4)**住血吸虫症**(ビルハルツ住血吸虫)。
〈**——**媒介するのは、**巻貝**である**。
**——**そして、**流れの緩い、通年の用水路**が、**その繁殖に、適している**。
**——**感染率が、**大幅に、上がった**。
**〈——地域によっては、**住民の大部分**が、感染した。**
**——後に、大規模な投薬で、**大きく下がった**。〉**〉
**(5)そして、**蒸発**。
〈**——**ナセル湖から、**年間、100億立方メートル以上**が、蒸発する、と推定されている**。
**——**貯めた水の、**相当部分が、空へ、消えている**。〉)
**そして、いま**。
(——**上流**。
〈**——**2011年、**エチオピアが、**大エチオピア・ルネサンス・ダム**の建設を、始めた**。
**——**青ナイルに**。
**——**そして、**エジプトが、強く、反対している**。
**〈——「ナイルの水は、**エジプトの生存そのものである**」。**
**——そして、エチオピアは、**「我々の川であり、我々にも、電気が要る」**。**
**——交渉が、続いている。**
**——そして、決着していない。〉**
**——**アスワン・ハイ・ダムが、**上流に対して、無力である**ことが、
**——**いま、**明らかになっている**。〉)