人物

フワーリズミー

al-Khwarizmi
AD780年頃 – AD850年頃(享年70・推定)
アッバース朝重要度 4

概要

バグダードの知恵の館で数学と天文を研究した。代数(アルジャブル)はその書名から、アルゴリズムはその名前から来ている。

関わったできごと(2)

フワーリズミーの代数AD820年頃 · 書いたバグダードの知恵の館AD830年頃 · 働いた

本文

正式にはムハンマド・イブン・ムーサー・アル=フワーリズミーという。最後の部分は「ホラズムの人」を意味し、出身地とされるのは、アラル海の南、いまのウズベキスタン西部にあたるホラズム地方である。生まれた年も死んだ年も正確には分からない。780年頃に生まれ、850年頃に亡くなったと推定されている。中世の歴史家タバリーの記述から、祖先はゾロアスター教徒だったとする見方もあるが、はっきりしない。

活動の場は、アッバース朝の都バグダードだった。762年に造られたこの円形の都は(バグダードの建設)、9世紀初めには世界でも指折りの大都市になっていた。カリフのマームーンは学問を厚く保護し、宮廷の学術機関であるバグダードの知恵の館で、ギリシア語、ペルシア語、サンスクリットの書物がアラビア語に訳された。フワーリズミーはここに加わった学者の一人である。

バグダードの知恵の館に関わる図版:Maqamat hariri
バグダードの知恵の館Wikimedia Commons Zereshk · Public domain

代表作は、820年代にマームーンに献じた『約分と消約の計算の書』である(フワーリズミーの代数)。題にある「アル=ジャブル」(欠けたものを補う、の意)が、のちに代数(アルジェブラ)という言葉になった。序文で、この本は遺産の分配、商売、土地の測量、運河の掘削などで人々が日々必要とする計算のために書いた、と述べている。記号は使わず、すべて言葉で書かれている。方程式を六つの型に分け、それぞれの解き方を手順として示し、その正しさを正方形や長方形の図で確かめた。負の数はまだ使っていない。

もう一つの重要な著作が、インドの記数法を紹介した本である。0を含む十個の数字と、位取り(同じ数字でも置く位置で値が変わる)による計算のやり方を説明した(ブラーマグプタのゼロ)。アラビア語の原本は失われ、12世紀のラテン語訳だけが残る。その訳は「アルゴリズミはこう言った」という言葉で始まる。著者の名が手順そのものを指す言葉になり、やがて「アルゴリズム」という語が生まれた。

1983年のソビエト連邦の記念切手
1983年のソビエト連邦の記念切手Wikimedia Commons Unknown author Unknown author · Public domain

天文学でも業績がある。インドの天文学をもとに、太陽・月・惑星の位置を計算する天文表を作った。これも12世紀にイングランドのアデラードがラテン語に訳し、ヨーロッパで使われた。暦の計算、日時計の作り方、星の高度を測る器具アストロラーベの扱い方についても書いている。

地理の書『大地の姿の書』では、2世紀のクラウディオス・プトレマイオスが残した都市や山や川の座標を整理し、直した。プトレマイオスは地中海の東西の長さを実際よりかなり長く見積もっていたが、フワーリズミーはそれを短く修正している。イスラーム世界の旅人や商人が集めた知識が、古代の地図を書き換えたことになる。

フワーリズミーの記念碑(マドリード・シウダー・ウニベルシタリア)
フワーリズミーの記念碑(マドリード・シウダー・ウニベルシタリア)Wikimedia Commons Zarateman · CC0

人柄を伝える逸話はほとんど残っていない。分かっているのは、書いたものの中身である。代数の書でも、数字の書でも、天文表でも、やっていることは似ている。どうすれば答えにたどり着けるかを、誰でもたどれる順序で書く。ひらめきや名人芸ではなく、手順を残すことに力を注いだ人だった。

その手順は、遠くまで届いた。1145年、チェスターのロバートが代数の書をラテン語に訳し、その後もクレモナのジェラルドらが訳を重ねた。1202年、ピサのレオナルド・フィボナッチが『算盤の書』でインド・アラビア数字の便利さをヨーロッパに説いたのも、こうした流れの上にある。ローマ数字で行っていた商人の計算は、数百年かけて筆算に置き換わっていった。

フワーリズミー『代数学』のアラビア語本文
フワーリズミー『代数学』のアラビア語本文Wikimedia Commons Muḥammad ibn Musa al-Khwarizmi · Public domain

代数の父と呼ばれることがあるが、異論もある。3世紀のアレクサンドリアのディオファントスは、より抽象的な記号に近い書き方で方程式を扱っていた。ただ、方程式を体系的に分類し、問題を解くための一般的な技法として示したのはフワーリズミーだ、とする見方が強い。

いまコンピューターが行う計算は、すべて手順の積み重ねである。その手順を指す言葉に、1200年前のバグダードの学者の名が残っている。

この項目は誰でも直せます。編集する編集履歴
AD780年の世界を地図で見る国境・できごと・生きている人が、その年のものに入れ替わります歴史データベースとは? →