概要
熱があるかどうかは、額に手を当てて決めていた。ライプツィヒの内科医カール・ヴンダーリヒは、入院患者の体温を来る日も来る日も測り、紙に点を打って線で結んだ。一尺ほどある温度計を脇に二十分挟む作業を、二万五千人分積み上げたという。そこから、健康な人の体温はおよそ三十七度に収まること、そして病気ごとに熱の上がり下がりの形が違うことを示した。熱は病気そのものではなく、体が出している合図である。手のひらの感じが、紙の上の線に置き換わった。
場所
51.34°N 12.37°E · ドイツ
本文
**手のひら**。
(——**熱があるか、どうか**。
〈**——**額に、**手を、当てる**。
**——**あるいは、**自分の額と、**比べる**。〉
**——**これで、**分かること**は、**少ない**。
〈**(1)**高いか、**低いか**しか、**言えない**。
**(2)**そして、**測る人によって、**違う**。
**(3)さらに、**昨日と、**比べられない**。〉
**——**温度計は、**十七世紀から、**あった**。
〈**——**ガリレオの周りの人々**が、**作っている**。
**——**[[celsius-scale]]**で、**目盛りも、**そろってきた**。
**——**それでも、**医者は、**使っていなかった**。〉
**——**なぜか**。
〈**——**長い**。
**——**一尺**ほど、ある**。
**——**そして、**遅い**。
**——**脇に挟んで、**二十分**。〉)
**ヴンダーリヒ**。
(——**カール・ラインホルト・アウグスト・ヴンダーリヒ**(1815〜1877年)。
〈**——**テュービンゲンで学び、**教えた**。
**——**1850年、**ライプツィヒ大学**の、**病院長**になった**。〉
**——**やったことは、**単純である**。
〈**(1)**入院している患者の体温を、**測る**。
**(2)**そして、**一日に、**一度か二度**。
**(3)さらに、**入院から、**退院か、**死ぬまで**。
**(4)そして、**紙に、**点を打ち、**線で、結ぶ**。〉
**——**量**。
〈**——**二万五千人**。
**——**測った回数は、**百万を、**大きく超える**と、言われる**。〉
**——**1868年、**『病気における体温の挙動』**を、出した**。〉
**三十七度**。
(——**分かったこと、**その一**。
〈**——**健康な人の体温は、**狭い範囲**に、**収まる**。
**——**彼が、**真ん中に、置いたのが、**摂氏三十七度**である**。
**——**そして、**朝は低く、**夕方は高い**、という一日の波**も、示した**。〉
**——**その二**。
〈**——**熱は、**病気ごとに、**形が違う**。
**(1)**腸チフスは、**階段を上るように、**上がっていく**。
**(2)**そして、**マラリアは、**規則正しく、**上下する**。
**(3)さらに、**肺炎は、**急に上がり、**ある日、**急に、下がる**。〉
**——**その三**。
〈**——**熱そのものは、**病気ではない**。
**——**体が、**出している合図**である**。
**——**だから、**下げればよい**というものでもない**。〉
**——**紙の上の線**が、**診断の道具**に、なった**。
〈**——**病室の寝台の足元**に、**表を、掛ける**。
**——**引き継いだ医者が、**線を見れば、**これまでの経過が、**分かる**。〉)
**短くする**。
(——**測るのに、**二十分**では、**広まらない**。
〈**——**1866年、**イギリスの医師**トマス・オールバット**が、
**——**六インチほど**の、**短い体温計**を、**作らせた**。
**——**五分ほどで、**読める**。
**——**持ち歩ける**。〉
**——**ここから、**体温計は、**医者の道具**になり、
〈**——**やがて、**家庭の引き出し**に、**入る**。〉)
**その後**。
(——**三十七度**は、**長く、**「平熱」**として、**通ってきた**。
〈**——**日本では、**「三十七度は微熱」**という感覚が、**いまも、残っている**。〉
**——**その後の調べでは**。
〈**(1)**平均は、**三十七度より、**やや低い**という報告が、**重ねられている**。
**(2)**そして、**人によって、**時刻によって、**測る場所によって、**違う**。
**〈——脇と、**口の中と、**耳では、**数字が、変わる**。〉
**(3)さらに、**百五十年のあいだに、**人の平均体温そのものが、**下がってきた**という研究もある**。
**〈——感染症が、**減ったこと**などが、**理由に、挙げられている**。〉〉
**——**それでも、**三十七度という数**は、**残った**。
〈**——**一人の医者が、**測り続けた結果**が、**世界の基準**に、なった**。〉)
**残ること**。
(——**測るとは、**比べられるようにする**ことである**。
〈**(1)**昨日の自分**と。
**(2)**そして、**隣の寝台の人**と。
**(3)さらに、**別の病院の、**別の患者**と。〉
**——**そのためには、**目盛りが、**同じでなければならない**。
〈**——**そして、**測り方も、**同じでなければならない**。〉
**——**体温計が、**医者の手に入ったとき**、
〈**——**患者の訴えではなく、**数字**が、**記録に、残るようになった**。
**——**それは、**得たものであり、**失ったものでもある**。〉)