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Event / できごと

ロンドンの塵芥山

The dust yards of London
AD1850年頃
重要度 4
デンマークスウェーデン=ノルウェーオーストリア帝国エジプトスペインフランスモロッコAlgiersグレートブリテン及びアイルランド連合王国プロイセン両シチリア王国バイエルンTunisサルデーニャ王国TripolitaniaハノーファーCyrenaicaAD1850年頃ロンドン
このできごとには、まだ自由に使える図版が見つかっていません。 代わりに、このデータベースが持っているAD1850年頃の版図を描いています(17勢力)

概要

家庭から出る灰と燃え殻を、業者が集めて山に積む。そこで、女たちがふるいにかけて選り分けた。細かい灰は煉瓦の材料と肥料に、燃え残りの石炭はまた燃やし、骨は膠と肥料に、ぼろ布は製紙に、金属は鋳直す。塵芥業者は、この選別で財を成した。ディケンズが『我らが共通の友』で、塵芥の山を相続する話を書いている。石炭から都市ガスへ、そして灰が出なくなると、この経済は消えた。回収する動機が、消えたからである。

場所

ロンドン
51.51°N -0.13°E · イギリス・イングランド

本文

**ダスト**。

19世紀のロンドンで、家庭から出る廃棄物の主要なものは、**石炭の灰と燃え殻**だった。

(**すべての家が、石炭を焚いていた**。暖房も、調理も。

一世帯が、年に**1トン前後**の石炭を燃やす。その灰が出る。)

英語で **dust**。

(現代の英語で「ごみ」を指す **dustbin**〈ごみ箱〉、**dustman**〈ごみ収集人〉という語は、ここに由来する。

**もともと、ごみとは、灰のことだった**。)

**ダスト・ヤード**。

業者が、市中を回って、灰を集める。

(多くは、**無料で集めた**。あるいは、家から金をもらった。)

そして、都市の縁に積む。

**灰の山**——**ダスト・ヒープ**。

(高さ十数メートルに達するものがあった。当時の版画に、その姿が描かれている。

有名なのが、**キングズ・クロス**の近くにあったバタリッジ夫人の山〈グレイズ・イン・ロードの北〉。1820年代、この地域に巨大な灰の山があった。

**この山が、モスクワへ売られた**、という話が伝わっている。1812年の大火の後の再建のため、煉瓦の材料として。

〈史料的な裏づけは弱い。ただし、当時から語られていた。〉)

**選別**。

山の上で、**女たち**が働いた。

**ヒル・ウーマン**、あるいは**シフター**(ふるいにかける者)。

(男は運搬と積み上げ、女は選別、という分業だった。子どもも働いた。)

道具は、**ふるい**。

そして、彼女たちが選り分けたもの。

**(1)ソイル**(細かい灰)。

- **煉瓦の材料**。粘土に混ぜて焼く。(当時、ロンドンは急速に拡大しており、煉瓦が大量に必要だった。) - **肥料**。

**(2)ブリーズ**(燃え残りの石炭と、粗い燃え殻)。

- **また、燃やす**。煉瓦を焼く窯の燃料に。

**(3)骨**。

- **膠**(にかわ)。 - **肥料**(骨粉)。 - **ボタン**と、**ナイフの柄**。 - そして——**砂糖の精製**に使う骨炭。

**(4)ぼろ布**。

- **製紙の原料**。(当時、紙は木材ではなく、**布**から作られた。木材パルプが普及するのは19世紀後半である。

——だから、**ぼろ布に値段が付いた**。「ラグ・アンド・ボーン・マン」〈ぼろ布と骨の商人〉という行商が、20世紀半ばまで存在した。)

**(5)金属**。

- 鉄、銅、鉛、真鍮。鋳直す。

**(6)ガラスと陶器の破片**。

- 道の舗装と、建材に。

**(7)そして、死んだ猫と犬**。

- **毛皮**を剥ぐ。

(当時の記録に、「ダスト・ヤードで最も価値のあるものの一つは、死んだ猫である」という記述がある。

一匹、数ペンス。毛皮が売れた。)

**(8)食べ残し**。

- **豚**の餌に。

**規模**。

ロンドンの塵芥業者の数は、19世紀半ばで、数十社。

そこで働く人——**数千人**。

**ヘンリー・メイヒュー**が、『**ロンドンの労働と貧民**』(1851年)で、彼らを詳細に記録した。

(彼は、街の職業を、一つずつ聞き取って書いた。ごみ拾い、下水掃除人、犬の糞を集める者〈**ピュア・フィンダー**——皮なめしに使う。「ピュア」と呼ばれた〉、川の泥をさらう子ども〈**マッドラーク**〉。

その記録が、当時の都市の下層の生活を知る、最も重要な史料になっている。)

**ディケンズ**。

**『我らが共通の友』**(1864〜65年)。

彼の最後の完成した長篇である。

**主題**——**塵芥の山**。

老いた塵芥業者**ハーモン**が死に、その**灰の山を含む遺産**が、物語を動かす。

(作中で、山を掘り返して探す場面がある。何かが、埋まっている。)

そして、**金**と、**汚物**と、**価値**の関係が、繰り返し問われる。

(「**Dust**」という語が、作中で、灰と、金と、そして**塵に返る人間**の三つの意味で、重ねて使われている。)

(マルクスが、ほぼ同時期に『資本論』を書いている。

彼も、**廃棄物の再利用**について、一節を割いている。「生産の排泄物と消費の排泄物」。

——資本主義が、廃棄物を原料に戻すことで、原料費を下げる、という分析である。)

**終わり**。

**この経済は、19世紀後半に、消えた**。

理由——

**(1)灰が、出なくなった**。

**都市ガス**が普及した。(照明、そして調理と暖房へ。)

石炭を家庭で焚かなくなれば、灰が出ない。

**(2)紙の原料が、変わった**。

**木材パルプ**(1840年代のドイツで実用化、19世紀後半に普及)。

**ぼろ布の値段が、暴落した**。

**(3)そして——回収の動機が、消えた**。

**残るのは、価値のないごみだけになった**。

すると、**業者が、金を払って集める理由がなくなる**。

**逆に、家から金を取らなければ、集めない**。

**さらに、集めても、処分に金がかかる**。

**(4)公衆衛生法**。

**1875年、公衆衛生法**(Public Health Act)。

**自治体に、廃棄物の収集を義務づけた**。

(各家庭が「動かせる容器」——**dustbin**——にごみを入れ、自治体が週に一度、収集する。

**これが、現代の廃棄物処理の始まりである**。)

**つまり**。

**廃棄物の処理が、商売から、行政の仕事に変わった**。

利益を生むものだったのが、**費用のかかるもの**になった。

**そして、現代**。

同じ構造が、いまも働いている。

**リサイクルが成り立つのは、回収したものに値段が付くときだけである**。

- **アルミ缶**——値段が付く。だから、回収される。(新たに精錬するより、再生のほうが**エネルギーが95%少ない**。だから、確実に採算が合う。) - **鉄**——同様。 - **紙**——市況による。 - **ガラス**——重い。輸送費が、材料の価値を超えることがある。 - **プラスチック**——**種類が多すぎて、分別と再生の費用が、新品を作る費用を上回ることが多い**。

(2018年、**中国が、廃プラスチックの輸入を停止した**(国門利剣、そして「洋垃圾」の禁止)。

それまで、先進国の廃プラスチックの相当部分が、中国へ「リサイクル用」として輸出されていた。

停止によって、行き場を失った廃棄物が、東南アジアへ流れ、そして各国が次々に受け入れを制限した。

——**リサイクルされているつもりだったものが、実際には輸出されていた**という事実が、広く知られるようになった。)

19世紀のロンドンの灰の山を選り分けた女たちが働いていたのは、**そこに、金になるものがあったから**である。

その原理は、変わっていない。

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