概要
黒死病で人が減り、労働力が不足した。賃金が上がりそうになる。イングランドは労働者勅令を出し、疫病前の賃金を超えて払うことも受け取ることも禁じ、健康な者が働かずに施しを受けることを罪とした。以後、浮浪はたびたび厳罰化される。1547年の法は、三日以上働かない者を二年間の奴隷とし、胸にVの烙印を押すと定めた。過酷すぎて二年で廃止されている。移動する貧しい者を罰する法は、その後も形を変えて長く残った。
場所
51.51°N -0.13°E · イギリス・イングランド
本文
**きっかけ**。
(——**黒死病**。
〈**——**1348年から1350年**。
**——**イングランドの人口の、**三分の一から、半分**が、死んだ、と推定される**。〉
**——**そして、**労働力が、**足りなくなった**。
〈**——**生き残った農民が、**より良い条件を、求めて、動き始めた**。
**——**「隣の荘園が、**倍、払うと言っている」**。
**——**そして、**領主が、**慌てた**。〉)
**1349年**。
(——**労働者勅令**(Ordinance of Labourers)。
〈**——**そして、**1351年、**労働者法**(Statute of Labourers)として、議会で、確認された**。〉
**内容**。
〈**(1)**六十歳未満で、**健康で、**土地を持たない者**は、
**——**求められれば、**働かなければならない**。
**(2)**賃金は、**疫病前(1346年)の水準を、超えてはならない**。
**——**そして、**払うほうも、**罰される**。
**(3)**そして、**健康な物乞いに、**施しを、与えてはならない**。
**〈——「彼らが、働かなくなるから」。**
**——ここで、**「働けるのに、働かない者」**という区分が、法に、入った。〉**
**(4)さらに、**雇い主の許しなく、**土地を離れてはならない**。〉
**——**結果**。
〈**——**守られなかった**。
**——**そして、**訴追が、大量に、行われた**。
**〈——1350年代、イングランドの裁判の記録の、**相当部分**が、この法の違反である。〉**
**——**そして、**賃金は、**それでも、上がった**。
**——**さらに、**1381年、**ワット・タイラーの乱**。
**〈——人頭税が、直接の引き金である。**
**——そして、この法への、蓄積した反発が、背景にある。〉**〉)
**1547年**。
(——**そして、**最も、過酷なもの**。
〈**——**エドワード6世**の下での、**浮浪者法**(Vagabonds Act)。〉
**内容**。
〈**——**「三日間、働かずにいた者」**は、
**——**告発した者の、**奴隷**とされる**。
**——**期間、**二年**。
**——**そして、**胸に、**「V」の焼き印**を、押す**。
**〈——vagabond の V。〉**
**——**逃げれば、**終身の奴隷**とし、**額か頬に、「S」の焼き印**。
**〈——slave の S。〉**
**——**さらに、逃げれば、**死刑**。
**——**そして、**その子どもは、**取り上げて、**徒弟として、働かせてよい**。〉
**——**そして、**二年で、廃止された**(1549年)。
〈**——**理由**。
**——**「過酷すぎて、**誰も、執行しなかった」**。
**〈——治安判事が、**適用を、拒んだ**。**
**——そして、地域の共同体が、**告発しなかった**。〉**
**——**それでも、**この法が、**実際に、書かれた**ことは、記録に残っている**。〉)
**その後**。
(**(1)**1601年、**エリザベス救貧法**。
〈**——**そして、**区別が、明確になった**。
**〈——**「働けない貧民」**(impotent poor)——**老人、病人、障害のある人、そして孤児。**
**——救済する。**
**——**「働ける貧民」**(able-bodied poor)——**仕事を、与える。**
**——**「働こうとしない者」**(idle poor)——**懲治院(house of correction)へ。〉**
**——**そして、**救済の責任を、**教区**が、負う**。
**——**財源は、**救貧税**である**。〉
**(2)**そして、**「定住法」**(1662年)。
〈**——**「その教区に、**属していない貧民**は、**送り返してよい」**。
**——**つまり、**貧しい者の、移動の自由が、**極端に、制限された**。
**〈——アダム・スミスが、**これを、厳しく批判している**。**
**「四十歳の男が、**自分の教区から、他へ移ることが、これほど困難であるとは**……」(要旨)。〉**〉
**(3)**1834年、**新救貧法**。
〈**——**「劣等処遇」**(less eligibility)の原則**。
**——**「救済を受ける者の暮らしは、**最も貧しい労働者より、**悪くなければならない」**。
**——**そして、**ワークハウス**。
**〈——家族を、**男女、子どもで、分ける**。**
**——制服。**
**——そして、無意味に近い労働(麻をほぐす、骨を砕く)。**
**——ディケンズが、**『オリヴァー・ツイスト』**で、それを、描いた。〉**〉
**(4)そして、**1824年、**浮浪者法**(Vagrancy Act)。
〈**——**「屋外で、**寝ること」**、そして**「物乞いをすること」**が、**罪である**。
**——**そして、**イングランドとウェールズで、**2024年まで、有効だった**。
**〈——2022年に廃止が決まり、**施行が、繰り返し延期された**。**
**——そして、2024年、**新しい法に、置き換えられる**方針が、示された。**
**——「屋外で寝ることを、罪とすること」をめぐって、**二百年、議論が、続いた**。〉**〉)
**そして**。
(——**この系譜が、**繰り返し、現れる**。
〈**(1)**アメリカ**。
**——**南北戦争後の南部で、**「浮浪法」**が、**解放された黒人を、標的にした**。
**〈——「職を持っていることを、証明できなければ、**逮捕する**」。**
**——そして、**囚人を、農園に、貸し出す**。**
**——「囚人貸出制」。**
**——事実上の、**奴隷制の、再現である**、と論じられている。〉**
**(2)**そして、**現代**。
**——**「敵対的な設計」**。
**〈——横になれないベンチ。**
**——そして、地面の突起。〉**
**——**さらに、**多くの都市で、**公共の場所での野宿を、条例で、禁じている**。
**〈——2024年、アメリカ最高裁が、**「野宿を罰する条例は、憲法に違反しない」**と、判断した。**
**——グランツ・パス対ジョンソン。**
**——判断は、割れた。〉**〉
**——**六百七十年前と、**同じ問いが、続いている**。
〈**——**「屋外で寝ることは、**罪か、**それとも、**行き場が無いことの、結果か」**。〉)