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Event / できごと

火口箱

The tinderbox
AD18世紀
重要度 3
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このできごとには、まだ自由に使える図版が見つかっていません。 代わりに、このデータベースが持っているAD18世紀の版図を描いています(23勢力)

概要

火を新しく起こすのは、長いあいだ、面倒な作業だった。鋼を火打ち石に打ちつけ、飛んだ火花を、焦がした布に受ける。そこに硫黄を塗った木片を当てて、ようやく炎になる。慣れた者でも数分、湿っていれば十分以上かかり、うまくいかないこともある。だから人は火を作るより、絶やさないようにした。灰に埋めた炭を朝まで持たせ、消えていれば隣家から火種を借りに行く。台所の火が家の中心にあったのは、暖かいからではなく、消すと取り戻せなかったからである。

場所

ロンドン
51.51°N -0.13°E · イギリス・イングランド

本文

**中身**。

(——**小さな金属の箱**。

〈**(1)**火打ち石**(flint)。

**〈——硬い石。**

**——燧石(すいせき)とも書く。〉**

**(2)**そして、**火打ち金**(steel)。

**〈——炭素を多く含む、鋼の輪、あるいは、帯。〉**

**(3)さらに、**火口**(tinder)。

**〈——焦がした布(char cloth)。**

**——麻や木綿を、空気を絶って、蒸し焼きにしたもの。**

**——あるいは、**ホクチタケ**という茸を、叩いて、なめしたもの。〉**

**(4)そして、**付け木**(match / spunk)。

**〈——薄い木片の先に、**硫黄**を塗ってある。**

**——火口の熾火を、**炎に、変える**ための道具。〉**

**(5)さらに、**蓋**。

**〈——押し付けて、**火口の火を、消す**ためのもの。〉〉**

**——**箱そのものが、**蝋燭立てを、兼ねている**ものが多い**。〉)

**やり方**。

(**(1)**火打ち金を、**石の縁に、鋭く、擦り下ろす**。

〈**——**削れるのは、**石ではなく、鋼のほう**である**。

**——**削り取られた、**微細な鉄の屑**が、

**——**摩擦の熱で、**空気中で、燃える**。

**〈——それが、火花である。**

**——「石から火が出る」のではない。〉〉**

**(2)**そして、**火花を、**火口に、落とす**。

〈**——**炎にはならない**。

**——**布の一点が、**赤く、熾る**だけ**。〉

**(3)さらに、**息を、**そっと、吹く**。

〈**——**強すぎれば、**飛ぶ**。

**——**弱ければ、**消える**。〉

**(4)そして、**付け木の先を、**その熾火に、当てる**。

〈**——**硫黄が、**低い温度で、燃える**。

**——**ようやく、**炎になる**。〉

**(5)さらに、**蝋燭に、移す**。〉)

**どれくらい、かかるか**。

(——**慣れた者で、**数分**。

〈**——**十九世紀の記録に、**「三分で点けば、上出来」**という言い方がある**。〉

**——**うまくいかない条件**。

〈**(1)**湿気**。

**〈——火口が湿っていれば、**まず、点かない**。**

**——だから、**箱は、密閉する**。〉**

**(2)**そして、**寒さ**。

**(3)さらに、**暗さ**。

**〈——夜中に、**手探りで、火花を、飛ばす**。**

**——目が眩んで、余計に、見えなくなる。〉**

**(4)そして、**焦り**。

**〈——うまくいかない日は、**何十回でも、失敗する**。〉〉**

**——**十七世紀の日記に、**火が点かないことへの、苛立ち**が、繰り返し出てくる**。

〈**——**それは、**日常の、小さな災難**だった**。〉)

**だから、保つ**。

(——**作るより、**絶やさないほうが、楽である**。

〈**(1)**埋み火**(うずみび)。

**〈——炭を、**灰の中に、埋める**。**

**——空気を、細く絞る。**

**——朝まで、**熾が、残る**。〉**

**(2)**そして、**火消壺**。

**〈——燃えている炭を入れ、**蓋をして、酸素を絶つ**。**

**——消し炭ができ、**次に、点きやすい**。〉**

**(3)さらに、**炉を、**絶やさない**。

**〈——ヨーロッパの農家でも、**泥炭の火を、何十年も、絶やさなかった**という話がある。〉〉**

**——**そして、**借りる**。

〈**——**消えてしまえば、**隣の家へ、火種を、もらいに行く**。

**——**小さな鍋か、**火挟みで、炭を、運ぶ**。

**——**「火を貸す」**という表現が、**多くの言語に、ある**。〉

**——**つまり**。

〈**——**火は、**個人が、作るもの**ではなく、

**——**共同体が、**持ち回りで、保つもの**だった**。

**——**[[vestal-fire]]は、**それを、国家の規模で、やっている**。〉)

**周りにあった、他の方法**。

(**(1)**火錐**(ひきり)。

〈**——**木を、**木に、擦る**。

**——**最も古い([[control-of-fire]])。

**——**だが、**火打ち石より、**さらに、手間がかかる**。

**——**儀礼の場面にだけ、**残った**。〉

**(2)**そして、**レンズ**。

〈**——**太陽が要る**。

**——**そして、**夜には、使えない**。〉

**(3)さらに、**火の付いた縄**。

〈**——**火縄**。

**——**ゆっくり燃え続ける。**

**——**銃に使い、**煙草に使い、**そして、**火種の保存にも、使った**。〉

**(4)そして、**十九世紀の初め**。

〈**——**化学の力を、**借りようとする試みが、続く**。

**——**1805年、**シャンセル**(フランス)。

**〈——塩素酸カリウムを塗った木片を、**硫酸に、浸ける**。**

**——点くが、**硫酸の瓶を、持ち歩くことになる**。〉**

**——**1823年、**デーベライナー**(ドイツ)。

**〈——水素を、**白金に、吹きかける**。**

**——触媒で、発火する。**

**——高価で、**装置が大きい**。〉**

**——**どれも、**箱の中に、収まらなかった**。〉)

**終わり**。

(——**1826年**。

〈**——**[[friction-match]]**。

**——**擦れば、**点く**。

**——**数分が、**一秒になった**。〉

**——**火口箱は、**急速に、消えた**。

〈**——**十九世紀の半ばには、**もう、骨董である**。

**——**そして、**「火を借りる」**という習慣も、**同時に、薄れた**。〉

**——**残った言葉**。

〈**——**英語の**tinderbox**は、**「一触即発の状態」**を指す語になった**。

**——**乾いた火口のように、**わずかな火花で、燃え上がる**。

**——**道具が消えても、**その手触りだけが、比喩として、残っている**。〉)

**残ること**。

(——**火を、**要るときに、作れる**か。

〈**——**それが、**できなかった**あいだ、

**——**家の中心には、**必ず、消えていない火**があった**。

**——**台所が、**家の中心だった**のは、**暖かいからではない**。

**——**そこにしか、**火が、無かった**からである**。〉

**——**そして**。

〈**——**マッチが、**その中心を、要らなくした**。

**——**火は、**場所から離れ、**ポケットに入った**。

**——**その代償を、**誰が払ったか**は、**[[matchgirls-strike]]**にある**。〉)

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