概要
ニューヨーク州オーバーンの宝石商ウィラード・バンディが、従業員ごとの鍵を差し込むと、時刻が紙に打刻される装置を作った。それまで、出勤と退勤は監督者が帳面に書き留めていた。争いが絶えない。機械が押した数字は、争えない。労働が時間で測られ、時間で支払われるという形が、ここで完成する。彼の会社は合併を重ね、1924年にIBMという名になった。時計を作っていた会社が、後に計算機の会社になった。
場所
40.71°N -74.01°E · アメリカ合衆国
本文
**それまで**。
(——**出勤と、退勤を、**誰かが、帳面に、書く**。
〈**——**監督者**。**あるいは、**門番**。
**——**そして、**争いになる**。
**〈——「わたしは、七時に、来た」。**
**——「いや、七時十五分だ」。**
**——そして、**記録した者の、記憶と、機嫌**が、賃金を、左右する。〉**〉
**——**そして、**賃金が、**時間で、払われるようになっていた**。
〈**——**それ以前、**多くの仕事が、**出来高**である**。
**——**「何個、作ったか」**。
**——**工場が、**流れ作業になると、**個人の出来高が、測れなくなる**。
**——**だから、**時間で、払う**。
**——**すると、**時間を、正確に、測らなければならない**。〉)
**バンディ**。
(**ウィラード・ルグランド・バンディ**(1845〜1907年)。
〈**——**ニューヨーク州、オーバーン**の、**宝石商であり、時計職人**。
**——**そして、**発明家**である**。〉
**1888年11月20日、特許**。
〈**——**「労働者の時間記録器」**。
**構造**。
**〈(1)**従業員ごとに、**番号を刻んだ、金属の鍵**。**
**(2)**それを、**機械の穴に、差し込んで、回す**。**
**(3)**すると、**紙のテープに、**番号と、時刻**が、打刻される**。**
**——それだけである。〉**
**——**そして、**争えない**。
**〈——機械が、押した。**
**——人ではない。〉**〉
**——**弟**ハーロウ**とともに、**「バンディ製造会社」**を、興した**。〉)
**そして、IBMへ**。
(——**奇妙な系譜である**。
〈**(1)**1900年、**バンディ製造会社が、**「インターナショナル・タイム・レコーディング社」**(ITR)**に、統合された**。
**(2)**1911年、**それが、**「コンピューティング・タビュレーティング・レコーディング社」**(CTR)**の、一部になった**。
**——**同時に、統合されたもの**。
**〈——**タビュレーティング・マシン社**(ハーマン・ホレリスの、パンチカード集計機の会社)。**
**——そして、**計量器の会社**。〉**
**(3)**1914年、**トマス・J・ワトソン**が、**社長になった**。
**(4)そして、**1924年、**社名を、**「インターナショナル・ビジネス・マシンズ」**——**IBM**——に、変えた**。〉
**——**つまり**。
〈**——**タイムレコーダーと、**国勢調査の集計機**が、**同じ会社になり、**
**——**そして、**それが、**コンピュータの会社になった**。
**——**いずれも、**「人と物を、数えて、記録する」**という仕事である**。〉
**——**そして、**IBMは、**1958年まで、タイムレコーダーを、作り続けた**。〉)
**何が、変わったか**。
(**(1)**時間が、**賃金の単位になった**。
〈**——**「時給」**。
**——**そして、**「残業」**という概念が、**成立する**。
**〈——それまで、**「終わるまで、やる」**である。**
**——境目が、無い。〉**〉
**(2)**そして、**遅刻**。
〈**——**「一分、遅れた」**ことが、**記録され、**罰される**。
**——**それまで、**「だいたい、朝」**だった**。
**〈——工場の門が、時刻に、閉まる。**
**——そして、遅れた者は、**その日、入れない**(半日分の賃金を、失う)。**
**——19世紀の工場の記録に、その規則が、ある。〉**〉
**(3)**さらに、**「時間を、盗む」**という言い方**。
〈**——**雇う側から見れば、**遅刻と、私語と、休憩は、**「盗み」**である**。
**——**そして、**その言い方が、**いまも、使われている**。
**〈"time theft"。〉**〉
**(4)そして、**測られる側**。
〈**——**E・P・トムスン**の、有名な論文**(1967年)。
**「時間、労働規律、そして産業資本主義」**。
**——**要旨**。
**〈——農業と、家内工業の時間は、**仕事の性質が、決める**。**
**——「牛の乳を搾る時間」。「潮が引く時間」。「日が沈むまで」。**
**——それが、**時計の時間**に、置き換えられた。**
**——「何時から、何時まで」。**
**——そして、それは、**深い、文化の変化**である。**
**——工場主が、**労働者に、時間を、教え込んだ**。**
**〈——学校が、その一部を、担った。〉〉**〉)
**そして、いま**。
(——**打刻の機械は、**次第に、消えた**。
〈**——**磁気カード**。
**——**ICカード**。
**——**指紋と、顔**。
**——**そして、**パソコンのログイン**と、**スマートフォンの位置情報**。〉
**——**そして、**測られる範囲が、**広がった**。
〈**——**倉庫の作業員の、**手首に付けた端末**。
**——**配達員の、**車両の位置**。
**——**そして、**在宅勤務の、**画面の記録と、キーの打鍵数**。
**〈——「勤務監視ソフト」。**
**——2020年以降、急速に、広まった。**
**——そして、法的な争いが、各国で、起きている。〉**〉
**——**バンディの機械が、やったこと**は、**単純である**。
〈**——**「争えない記録を、残す」**。
**——**そして、それは、**両方に、働く**。
**〈——雇う側が、**労働者を、管理できる**。**
**——そして、労働者も、**「わたしは、確かに、来た」**と、示せる。**
**——未払いの賃金をめぐる裁判で、**打刻の記録が、証拠になる**。〉**〉)