概要
航空会社の座席は、回転する棚のカードで管理されていた。電話を受けた係が棚を回し、空きを探し、鉛筆で書く。一件に数十分かかり、間違えれば二重に売る。アメリカン航空とIBMが、大型計算機を電話回線で結ぶ仕組みを作った。名はセイバー。全国の端末から同じ在庫を見て、その場で確定する。世界最大級の民間のオンライン処理系であり、後の予約と発券のほとんどが、この形を踏襲している。待つ側が、いつ乗れるかを、先に知れるようになった。
場所
40.71°N -74.01°E · アメリカ合衆国
本文
**それまで**。
(——**航空券の予約**。
〈**——**「リザーヴィセル」**(Reservisor)と呼ばれる、**回転する棚**。
**——**各便、各日について、**一枚のカード**。
**——**そこに、**残席が、書いてある**。〉
**手順**。
〈**(1)**客が、**電話をかける**。
**(2)**係が、**棚を、回して、該当のカードを、探す**。
**(3)**空きが、あれば、**鉛筆で、線を引く**。
**(4)**そして、**別の係が、**乗客の名を、名簿に、書く**。
**(5)さらに、**それを、**他の都市の営業所へ、電話か、電信で、伝える**。〉
**——**時間**。
〈**——**一件に、**平均で、**九十分**かかった、とされる**。
**——**そして、**十二人から、十五人**の手が、**一つの予約に、関わった**。〉
**——**そして、**間違える**。
〈**——**二重に、売る**。
**——**あるいは、**空席のまま、飛ばす**。
**〈——1950年代、アメリカン航空の推定で、**予約の約8%に、何らかの誤りがあった**。〉**〉)
**出会い**。
(**1953年**。
〈**——**アメリカン航空の社長**C・R・スミス**と、**IBMの営業員**R・ブレア・スミス**が、**
**——**同じ便に、隣り合って、座った**。
**〈——ロサンゼルス発、ニューヨーク行き。**
**——そして、二人とも、名が「スミス」である。**
**——この逸話は、**繰り返し、語られている**。〉**
**——**そして、**話し込んだ**。
**——**「計算機で、**座席を、管理できないか」**。〉
**背景**。
〈**——**IBMは、**軍の防空システム**を、作っていた**。
**〈——**SAGE**(Semi-Automatic Ground Environment)。**
**——レーダーの情報を、電話回線で、中央の計算機に、集める。**
**——そして、**リアルタイム**で、処理する。**
**——当時、**世界最大の、計算機の計画**である。〉**
**——**「同じことを、**座席で、やればよい」**。〉)
**セイバー**。
(——**SABRE**(Semi-Automatic Business Research Environment)。
〈**——**SAGE**を、**意図的に、もじった名である**。〉
**1957年、**共同開発の契約**。
**1960年、**最初の系が、稼働**。
**1964年、**全米で、稼働**。
〈**——**費用、**約4,000万ドル**。
**〈——当時の、**旅客機(ボーイング707)、数機分**に、相当する。〉**
**——**開発に、**約400人年**。〉
**構造**。
〈**——**IBM 7090**、**二台**(ニューヨーク州、ブライアークリフ・マナー)。
**〈——一台が、動く。**
**——もう一台が、**待機する**。**
**——止まってはいけない系だからである。〉**
**——**そして、**全米の、**約1,100の端末**が、**電話回線で、繋がる**。
**——**一日に、**約85,000の呼**を、処理した**。
**——**そして、**応答が、**三秒以内**。〉
**——**これが、**当時、**軍以外で、世界最大のオンライン処理系**である**。〉)
**何が、変わったか**。
(**(1)**在庫が、**一つになった**。
〈**——**それまで、**各都市の営業所が、**割り当てられた席を、持っていた**。
**——**「この便の、ニューヨークの分は、二十席」**。
**——**そして、**ニューヨークで売り切れても、**シカゴには、余っている**。
**——**それが、**融通できなかった**。
**——**中央に、**一つの在庫**を置けば、**全部を、使い切れる**。〉
**(2)**その場で、**確定する**。
〈**——**予約の処理時間が、**九十分から、数秒**へ**。〉
**(3)そして、**データが、**残る**。
〈**——**「誰が、いつ、どこへ、飛んだか」**。
**——**そして、**それが、**後の、**イールド・マネジメント**の、基礎になる**。
**〈——「同じ便の、同じ席が、**買う時期によって、値段が違う**」。**
**——空席のまま飛ばすより、**安く売ったほうが、良い**。**
**——そして、その計算を、**過去のデータから、行う**。**
**——1980年代、アメリカン航空が、それを、体系化した。〉**〉)
**その後**。
(——**そして、**この系が、**次第に、**航空会社そのものより、**力を持つようになった**。
〈**——**1976年から、**旅行代理店に、端末を、置き始めた**。
**——**そして、**代理店が、**そこで、あらゆる航空会社の便を、検索する**。
**——**問題**。
**〈——**画面の、上のほうに、アメリカン航空の便を、出す**。**
**——「スクリーン・バイアス」。**
**——代理店は、**最初の画面から、選ぶ**ことが、多い。**
**——そして、それが、**売上に、直結した**。〉**
**——**1984年、**アメリカ運輸省が、**それを、規制した**。
**〈——「中立に、表示せよ」。〉**
**——**そして、**アメリカン航空の会長**ロバート・クランドール**が、こう言ったと、伝えられる**。
**「もし、**航空会社を売るか、セイバーを売るか、選べと言われたら、**
**……**わたしは、**航空会社を、売る**」**(要旨)。
**〈——「セイバー効果」。**
**——予約システムのほうが、**航空事業より、利益率が高い**時期が、あった。〉**〉
**——**2000年、**セイバーが、**アメリカン航空から、分離された**。
〈**——**そして、**いまも、独立の会社である**。
**——**そして、**同種の系**。
**〈——アマデウス(ヨーロッパ)。**
**——トラベルポート。**
**——この三つが、**世界の航空券の流通の、大部分**を、扱っている。〉**〉)
**そして**。
(——**「待つ側が、**いつ乗れるかを、先に、知れる」**。
〈**——**それが、**予約という仕組みの、本質である**。
**——**そして、**それが、**あらゆるところへ、広がった**。
**〈——ホテル。**
**——レストラン。**
**——病院。**
**——そして、**行政の窓口**。〉**
**——**そして、**「予約が、取れない」**という、**別の待ち方**が、生まれた**。〉)