概要
明治のはじめ、東京府が三人の男に人力車の営業を許した。駕籠を担ぐ代わりに、二輪の車を人が引く。担ぐより軽く、速く、値段も安い。数年で東京だけで数万台に増え、駕籠は姿を消した。やがて中国、インド、東南アジアへ輸出され、それぞれの都市の風景になる。動力はやはり人だが、車輪を入れたことで運べる距離が伸びた。道の舗装が進み、車輪のほうが有利になった時期と、ちょうど重なっている。後の輪タクとタクシーは、この形の延長にある。
場所
35.68°N 139.77°E · 日本・東京都
本文
**1870年**。
(——**明治三年**。
〈**——**東京府が、**三人の男**に、**営業を許した**。
**——**和泉要助、**高山幸助、**そして、**鈴木徳次郎**。
**——**「人力車」**という名で、**製造と営業の願いが、聞き届けられた**。〉
**——**誰が考えたか**。
〈**——**この三人だと、**日本では、長く言われてきた**。
**——**別に、**アメリカ人宣教師**が考えたという説もある**。
**——**そして、**確定していない**。
**〈——同じ時期に、**似たものが、複数、現れた**と見るのが、無難である。〉**
**——**確かなのは、**東京府の許可が、1870年に出た**ことである**。〉)
**形**。
(——**二輪**。
〈**——**人が、**前で、引く**。
**——**客は、**一人、あるいは、二人**。
**——**そして、**幌が付く**。〉
**——**[[palanquin]]**と、比べる**。
〈**(1)**担ぐのではなく、**引く**。
**〈——重さの大半を、**車輪が、受ける**。〉**
**(2)**そして、**一人で、足りる**。
**〈——駕籠は、**二人**が要った。**
**——だから、**人件費が、半分になる**。〉**
**(3)さらに、**速い**。
**〈——長い距離を、**同じ体力で、運べる**。〉**
**(4)そして、**安い**。
**〈——駕籠より、**運賃が、下がった**。〉〉)
**広がり方**。
(——**速かった**。
〈**——**1872年には、**東京で、四万台**を超えたと言われる**。
**——**数年で、**駕籠は、町から、消えた**。
**——**そして、**担ぎ手が、**引き手に、移った**。〉
**——**なぜ、これほど速かったのか**。
〈**(1)**道の改修が、**同時に進んだ**。
**〈——車輪が、通れる道になった。**
**——舗装と、橋。〉**
**(2)**そして、**身分の規制が、消えた**。
**〈——「誰が乗ってよいか」が、**無くなった**。**
**——払える者は、乗れる。〉**
**(3)さらに、**作るのが、簡単だった**。
**〈——木と、鉄の輪。**
**——町の職人が、作れる。**
**——後に、**ゴムのタイヤ**が付く。〉〉)
**輸出**。
(——**日本から、外へ出た、数少ない乗り物である**。
〈**(1)**上海**。
**〈——1874年ごろ。**
**——「東洋車」と呼ばれた。〉**
**(2)**そして、**インド**。
**〈——カルカッタ。**
**——中国人の商人が、持ち込んだと言われる。〉**
**(3)さらに、**東南アジア**。
**〈——シンガポール、バンコク、ラングーン。〉**
**(4)そして、**アフリカ**。
**〈——ダーバン。**
**——いまも、装飾を付けた版が、観光に使われている。〉〉**
**——**「リクシャ」**という語**。
〈**——**「人力車」の、**中国語読みに近い音**が、各地の言語に入った**。
**——**英語のrickshaw。
**——**そして、**ヒンディー語のリクシャー**。
**〈——後に、**サイクル・リクシャー**(自転車)、**
**——オート・リクシャー**(三輪自動車)**になる。**
**——名前だけが、動力を替えながら、残った。〉**〉)
**引く側**。
(——**楽な仕事ではない**。
〈**(1)**一日、**数十キロを走る**。
**〈——心臓と、肺への負担。**
**——引き手の、**平均寿命は、短かった**と、当時から言われている。〉**
**(2)**そして、**多くが、地方から出てきた者だった**。
**(3)さらに、**車は、**借り物であることが多い**。
**〈——車宿から、**日ごとに借りる**。**
**——稼ぎの一部が、**借り賃で消える**。〉〉**
**——**中国では**。
〈**——**老舎の『駱駝祥子』**(1936年)が、**北京の引き手を、書いている**。
**——**車を、**自分のものにする**という願いと、
**——**それが、**三度、壊される**話である**。〉
**——**そして、**多くの土地で**。
〈**——**人が人を引くこと**への批判が、**繰り返し起きた**。
**——**規制され、**あるいは、禁じられた**。
**——**インドのいくつかの都市では、**近年まで、争点であり続けた**。〉)
**消えた理由**。
(**(1)**自動車**。
〈**——**タクシー。
**——**そして、**円タク**(1920年代の東京)。〉
**(2)**そして、**路面電車**。
**〈——一度に、**大勢を運ぶ**。〉**
**(3)さらに、**自転車**。
**〈——同じ人力でも、**効率が、桁違いに良い**。**
**——輪タク(三輪自転車)へ、置き換わった。〉〉**
**——**日本では**。
〈**——**1930年代には、**ほぼ、姿を消した**。
**——**いまは、**浅草と、京都と、鎌倉に、**観光のために、残っている**。
**——**引き手は、**案内人でもある**。〉)
**残ること**。
(——**車輪を、**人の脚に、繋いだ**。
〈**——**動力は、**変わっていない**。
**——**変わったのは、**伝え方だけ**である**。
**——**そして、**それだけで、**運べる距離が、数倍になった**。〉
**——**道が、**先にあった**。
〈**——**車輪が有利になるには、**平らな道が要る**。
**——**明治の道路改修と、**人力車の普及は、**同じ出来事の、二つの面である**。〉
**——**そして、**次の段は、**人を、動力から、外すこと**だった**。
〈**——**[[omnibus]]は、**馬に**。
**——**そして、**[[escalator]]と[[moving-walkway]]は、**機械に、任せた**。〉)