概要
中国の紙の札が起源とされる。マムルーク朝エジプトの札が、現存する最古のまとまった一組で(トプカプ宮殿蔵)、剣・棒・杯・貨幣の4組に、王と副官と第二副官の絵札が付く。人物は描かれない。偶像を禁じる規範による。これがイタリアとスペインへ渡り、4組の記号がそれぞれの土地で変わった。フランスがハート・スペード・ダイヤ・クラブに単純化し、型紙で刷れるようにしたので、安く大量に作れた。それが英語圏へ渡り、いまの標準になった。
場所
30.04°N 31.24°E · エジプト
本文
**起源**。
**中国**とされる。
紙と、印刷がある場所でなければ、札は作れない。
(唐代〜宋代の文献に、「葉子戯」という紙の遊びの記述がある。ただし、それが現在のカードと直接つながるかは、確定していない。
11世紀の中国で、**紙幣そのもの**が遊びの道具に使われた、という説明もある。)
**現存する最古の一組**。
**マムルーク朝エジプト**のもの。
イスタンブールの**トプカプ宮殿**に、**52枚**(完全な一組ではないが、大部分)が保存されている。
年代——15世紀とされる(13世紀に遡る断片もある)。
**構成**。
**4つの組(スート)**。
- **剣**(sayf) - **棒/ポロのスティック**(jawkān) - **杯**(ṭūmān) - **貨幣**(darāhim)
各組に、**1から10の数札**と、**3枚の絵札**。
絵札——**マリク**(王)、**ナーイブ・マリク**(副王/代理)、**サーニー・ナーイブ**(第二の副王)。
**52枚**。
(現在のトランプと、同じ枚数である。)
**そして——人物が、描かれていない**。
絵札には、**装飾的な文様と、階級を示す文字**だけがある。
理由——イスラームの、**偶像の禁止**。
(絵札に、その職名が書かれている。「王」「副王」。人の姿は、ない。)
**ヨーロッパへ**。
**1370年代**、突然、ヨーロッパ中の記録に、カードが現れる。
- 1371年、カタルーニャの文書に naip(後のスペイン語 naipe)。 - 1377年、フィレンツェとバーゼルとパリで、カード遊びを禁じる条例。 - 1377年、バーゼルの修道士ヨハネス・フォン・ラインフェルデンが、カードについて詳しく書いた(52枚、4組、そして絵札3枚——マムルークの構成と一致する)。
(つまり、**10年ほどの間に、地中海の交易路を通って、一斉に広がった**。)
**なぜ、これほど速く広まったか**。
- **軽い**。持ち運べる。 - **安い**(後に、印刷ができるようになると、さらに)。 - **多様な遊びができる**。一組で、何十種類ものゲームができる。 - そして——**賭けられる**。
(だから、繰り返し**禁止**された。教会が、都市が、そして領主が。禁令が繰り返し出るということは、守られていないということである。)
**組の変化**。
各地で、4つの組の記号が変わった。
| 地域 | 4つの組 | |---|---| | **マムルーク** | 剣・棒・杯・貨幣 | | **イタリア/スペイン** | 剣・棍棒・聖杯・貨幣(ほぼそのまま) | | **ドイツ** | 団栗・葉・心臓・鈴 | | **スイス** | 団栗・楯・薔薇・鈴 | | **フランス** | **スペード・クラブ・ハート・ダイヤ** |
**フランスの単純化**(15世紀後半)。
フランスの札は、記号を**単純な形**にした。
**♠ ♣ ♥ ♦**。
(pique〈槍〉、trèfle〈クローバー〉、cœur〈心臓〉、carreau〈菱形の敷石〉。
英語の spade は、イタリア語 spade〈剣〉から。club は、イタリア語 bastoni〈棍棒〉の訳。つまり、**形はフランス、名はイタリア**という、ねじれがある。)
**なぜ、これが決定的だったか**。
**単純な形は、型紙(ステンシル)で刷れる**。
(ドイツとイタリアの複雑な図柄は、一枚ずつ、木版で刷って、手で彩色する必要があった。)
フランス式は、**黒と赤の二色**、単純な幾何学的な形。
**大量に、安く作れる**。
だから、フランス式が、ヨーロッパの大半と、そしてイギリス、さらに世界へ広がった。
**絵札**。
フランスの絵札には、**歴史上・伝説上の人物の名**が与えられた(16世紀以降、パリの規格)。
- **スペードの王**——ダビデ(旧約の王) - **ハートの王**——シャルルマーニュ - **ダイヤの王**——カエサル - **クラブの王**——アレクサンドロス大王
(クイーンとジャックにも名がある。ハートのクイーンはユディト、スペードのクイーンはパラス〈アテナ〉。)
**イギリス**。
フランスから輸入され、そして——**印刷の様式が固定した**。
(18世紀のイギリスの札の図柄が、そのまま現在の標準になった。だから、いまのトランプの絵札は、**16世紀フランスの意匠の、18世紀イギリス版**である。)
**「片目のジャック」**——スペードとハートのジャックは、横顔で、片目しか見えない。
(元の図柄では、彼らは武器を持っていた。印刷の簡略化の過程で、その武器が消え、奇妙な姿になった。「**自殺する王**」——ハートの王が、剣を自分の頭に突き刺しているように見える——も、同じ経緯である。もとは、斧を振り上げていた。)
**ジョーカー**。
**アメリカの発明**(1860年代)。
**ユーカー**(Euchre)というゲームで、最強の切り札として使うために加えられた。
(ドイツ語 Juker が訛った、という説がある。)
**税**。
イギリスは、カードに**課税した**。
1711年から、**スペードのエース**に、納税の証明の印を押すことになった。
(だから、スペードのエースだけが、他と違って**装飾的**である。いまも、多くのメーカーが、スペードのエースに社名と凝った意匠を入れる。その名残である。)
そして、**偽造は死罪だった**。
1805年、ロンドンの印刷業者**リチャード・ハーディング**が、カードの印紙を偽造した罪で、**絞首刑になった**。
**タロット**。
(よく混同される。)
**タロットは、占いのために作られたのではない**。
15世紀のイタリアで、**トリック・テイキング・ゲーム**のために作られた札である(**タロッキ**)。通常の4組に加えて、**切り札**として使う22枚の絵札(愚者、女教皇、皇帝、恋人、車、死神、塔、星、月、太陽……)を加えたもの。
(イタリアと、フランスと、中欧で、いまも**カードゲーム**として遊ばれている。フランスの「タロット」は、人気のあるトランプゲームである。)
**占いに使われるようになったのは、18世紀末のフランス**である。
(1781年、**アントワーヌ・クール・ド・ジェブラン**が、タロットは古代エジプトの秘儀の書であると主張した。**根拠はない**。彼はエジプトの象形文字が読めない時代の人である〈ロゼッタの解読は40年後〉。
にもかかわらず、この説が広まり、19世紀のオカルティズムの中で、体系が作られた。1909年の**ライダー=ウェイト版**が、現在の標準的な図像を確立した。)
**日本**。
16世紀、**ポルトガル人**が持ち込んだ。
(「カルタ」は、ポルトガル語 carta。ゲームの名も残った——「**うんすんかるた**」の「うん」は um〈1〉、「すん」は sumo〈最高〉から。)
日本で独自の発展をした。
- **天正かるた**(16世紀末)——ポルトガル式の48枚。 - 賭博に使われ、**禁止された**。 - 禁止されるたびに、**図柄を変えて**作り直された。 - そして、最終的に、**花札**(12か月の草花の図柄。数字も記号も書かれていない)に至った。
(絵が抽象的で、賭博の道具と分かりにくくするため、という説明がある。)
**1889年**、京都で、**山内房治郎**が花札の製造を始めた。
店の名は、**任天堂**。
(1902年、日本で最初のトランプ〈西洋式カード〉を製造した。1960年代、トランプ市場が飽和したため、玩具に手を広げた。1970年代、電子ゲームへ。)
**現在**。
52枚の一組で、可能な並べ方は **52の階乗**。
約 **8 × 10の67乗** 通り。
(よく引かれる比較——きちんとシャッフルされた一組の並びは、**人類の歴史上、一度も現れたことがない**可能性が、圧倒的に高い。)