概要
律令の国家が、田を格子に区切った。一辺が六町(約六百五十メートル)の里を並べ、その中をさらに一町ごとの坪に分ける。何条何里何坪と言えば、どの田かが特定できる。班田収授のためには、誰にどの田を与え、死ねば返させるかを台帳で管理しなければならず、そのためには土地に住所が要った。日本で最初に、地面そのものに番地を振った制度である。班田の仕組みは早くに崩れたが、格子は残った。奈良盆地や讃岐の平野の道と畦は、いまも千三百年前の線をなぞっている。
場所
34.69°N 135.79°E · 日本・奈良県
本文
**なぜ、要ったのか**。
(——**班田収授**。
〈**——**六年ごとに、**戸籍を作る**。
**——**六歳以上の男女に、**口分田を、与える**。
**〈——男に、**二段**。**
**——女に、その三分の二。〉**
**——**そして、**死ねば、**国に、返させる**。〉
**——**これを、**やろうとすると**。
〈**(1)**誰が、**どの田を、持っているか**を、書き留めなければならない**。
**(2)**そして、**その田が、**どこにあるか**を、**言葉で、指せなければならない**。
**(3)さらに、**六年ごとに、**入れ替える**。
**〈——毎回、現地へ行って、**杭を打ち直す**のでは、**追いつかない**。〉〉**
**——**つまり**。
〈**——**土地に、**住所**が、要る**。
**——**「あの川の向こうの、**大きな木のそばの田**」では、**台帳にならない**。〉)
**格子**。
(**(1)**六町四方**。
〈**——**一町は、**約百九メートル**。
**——**だから、**一辺、約六百五十メートル**。
**——**これを、**「里」**(り)と呼ぶ**。〉
**(2)**そして、**その中を、**一町ごとに、割る**。
〈**——**三十六の区画**。
**——**一つを、**「坪」**(つぼ)と呼ぶ**。
**——**一坪が、**一町歩**である**。〉
**(3)さらに、**里を、**東西と南北に、並べる**。
〈**——**一方向を、**「条」**(じょう)。
**——**もう一方を、**「里」**として、番号を振る**。〉
**——**呼び方**。
〈**——**「○○郡、**三条二里十五坪**」。
**——**これで、**一町歩の田が、**一つに、決まる**。〉
**——**坪の番号の振り方**。
〈**——**二通りある**。
**〈——「平行式」——各列を、同じ向きに、1から6まで。**
**——「千鳥式」——列ごとに、向きを、折り返す。〉**
**——**地方によって、**違う**。〉)
**いつからか**。
(——**確かなことは、**言いにくい**。
〈**(1)**大化の改新の詔**(646年)に、**それらしい規定がある**。
**〈——ただし、**『日本書紀』の記述**が、**後の制度を、遡らせて書いた**可能性が、指摘されている。〉**
**(2)**そして、**大宝律令**(701年)。
**(3)さらに、**発掘と、**木簡**。
**〈——各地の遺跡から、**条里の坪付けを記した木簡**が、出ている。**
**——八世紀のものが、多い。〉**
**(4)そして、**畿内から、**始まったと見られる**。
**〈——そして、**西日本に、広く**。**
**——東国では、**まばらである**。〉〉**
**——**全国一斉に、**引かれたのではない**。
〈**——**平野ごとに、**別々に、施工された**。
**——**だから、**格子の向きが、**地域で、少しずつ、違う**。
**〈——真北を向いているところと、**少し傾いているところ**がある。**
**——地形に、合わせたのだと、見られている。〉〉)**
**崩れる**。
(——**班田の制度は、**早く、行き詰まった**。
〈**(1)**人口が、増えた**。
**〈——与える田が、足りない。〉**
**(2)**そして、**723年、**三世一身法**。
**〈——開墾したら、**三代のあいだ、持ってよい**。〉**
**(3)さらに、**743年、**墾田永年私財法**。
**〈——開墾したら、**永久に、私有してよい**。**
**——公地公民の原則が、**ここで、実質的に、終わる**。〉**
**(4)そして、**荘園**が、広がっていく**。
**(5)さらに、**十世紀には、**班田は、行われなくなった**。〉
**——**制度は、**二百年ほどで、消えた**。〉)
**残ったもの**。
(——**線のほうが、**残った**。
〈**——**畦**(あぜ)。
**——**用水路**。
**——**そして、**道**。〉
**——**なぜか**。
〈**(1)**土地の区画は、**動かしにくい**。
**〈——一度、畦を作り、**水路を通せば**、**
**——それを引き直すのは、**大工事である**。〉**
**(2)**そして、**水**。
**〈——用水の流れが、**格子に、沿っている**。**
**——一枚の田を動かすと、**下流が、全部、狂う**。〉**
**(3)さらに、**境界の争いを、**避けられる**。
**〈——制度が消えても、**線は、便利だった**。〉〉**
**——**いま、**見えるところ**。
〈**——**奈良盆地**。
**——**讃岐平野**。
**——**近江**。
**——**筑紫平野**。
**——**そして、**「一の坪」「五条」「六条」**といった地名が、**各地に、残っている**。
**〈——京都の「三条」「四条」は、**都の条坊**であって、**条里とは、別のもの**である。**
**——ただし、**発想は、同じ**。〉〉**
**——**上空から見ると**。
〈**——**田の形が、**正方形に、揃っている**。
**——**そして、**道が、直角に、交わる**。
**——**千三百年前の線を、**アスファルトが、なぞっている**。〉)
**残ること**。
(——**測ってから、**配った**。
〈**——**そこに人が住み、**耕し、**そのうちに境ができた**のではない**。
**——**先に、**格子を引いた**。
**——**そして、**その升目に、**人を、割り当てた**。〉
**——**同じことが、**千年後に、**別の大陸で、行われる**。
〈**——**[[land-ordinance-1785]]**。
**——**六マイル四方**。
**——**目的も、**似ている**。
**〈——中央が、**現地を見ずに、**土地を、配る**ため。〉〉**
**——**そして**。
〈**——**制度は、**必ず、崩れる**。
**——**だが、**地面に刻んだ線は、**制度より、長く残る**。〉)