概要
ボローニャの医学者ルカ・ギーニが、植物を紙の間で乾かし、貼り付けて綴じる方法を広めた。生きた植物は季節と場所に縛られるが、乾いた標本は運べて、何百年も残る。誰かが記した名と、実物とを、後から突き合わせられる。これが分類学の物質的な土台になった。世界の標本庫に、いま推定で三億九千万点以上が収蔵されている。近年は、その葉から古いDNAが読まれ、当時の大気の組成や病原体の痕跡まで調べられるようになった。
場所
44.49°N 11.34°E · イタリア
本文
**方法**。
(——**極めて、単純である**。
〈**(1)**植物を、**採る**。
**(2)**紙の間に、挟む**。
**(3)**重しを、載せる**。
**(4)**乾かす**。
**〈——数日から、数週間。**
**——そして、**途中で、紙を、換える**。**
**——湿ったままだと、黴びる。〉**
**(5)**そして、**台紙に、貼る**。
**(6)**採った場所と、日付と、名を、書き添える**。〉
**——**それだけである**。
**そして、**それが、**数百年、保つ**。〉)
**ギーニ**。
(**ルカ・ギーニ**(1490頃〜1556年)。
〈**——**イタリア、インペリア**の生まれ**。
**——**ボローニャ大学**で、**「単純薬物学」**(薬草学)を、教えた**(1527年から)。
**——**そして、**1544年、**ピサ**へ移り、**そこの植物園を、作った**。〉
**——**そして、**押し葉標本の方法を、**体系的に、教えた**、とされる**。
〈**——**彼が、**発明した**とは、言い切れない**。
**〈——それ以前の例が、いくつか指摘されている。〉**
**——**しかし、**彼の弟子たちが、**それを、ヨーロッパ中に、広めた**。
**〈——チェザルピーノ、アルドロヴァンディ、そしてトゥルネフォール**の系譜。**
**——さらに、**ウィリアム・ターナー**(イギリス)。〉〉**
**——**そして、**彼自身の標本は、**残っていない**。
〈**——**弟子の**ゲラルド・チボ**の標本集(1532年頃から)**が、**現存する最古級**のものである**。
**——**ローマの、アンジェリカ図書館**。〉)
**なぜ、決定的か**。
(**(1)**運べる**。
〈**——**生きた植物は、**その場所に、ある**。
**——**乾いた標本は、**手紙と一緒に、送れる**。
**——**そして、**遠くの学者と、**同じ物を、見ながら、議論できる**。〉
**(2)**残る**。
〈**——**四百年前の標本が、**いまも、読める**。〉
**(3)そして、**照合できる**。
〈**——**これが、**最も、重要である**。
**——**誰かが、**「この植物を、こう名づけた」**と、書いた**。
**——**では、**それは、どの植物か**。
**——**その人が、**実際に手に取った、その一本**が、**残っていれば、確かめられる**。
**〈——これが、後の**「タイプ標本」**という考え方になる。**
**——「学名は、**特定の、一つの標本に、結びつけられる**」。**
**——そして、その標本が、**その名の、基準である**。**
**——記述ではなく、**物**が、基準になる。〉**〉)
**規模**。
(——**世界の標本庫**(herbaria)。
〈**——**約3,000館**。
**——**そして、**収蔵点数、**推定で、3億9,000万点以上**。〉
**大きいもの**。
〈**——**パリ、フランス国立自然史博物館**——**約1,000万点**。
**——**ニューヨーク植物園**——**約780万点**。
**——**キュー**——**約700万点**。
**——**そして、**日本の、東京大学と国立科学博物館**。〉
**——**そして、**「インデックス・ヘルバリオルム」**という、**世界の標本庫の目録**がある**。
〈**——**それぞれに、**略号**が、与えられている**。
**〈——P(パリ)、K(キュー)、NY(ニューヨーク)、TI(東京大学)。〉**
**——**論文に、**「この標本は、Kにある」**と、書く**。〉)
**そして、いま**。
(——**新しい使い方が、次々に、出ている**。
〈**(1)**古いDNA**。
**——**数百年前の葉から、**DNAが、読める**ようになった**。
**〈——絶滅した種の、系統。**
**——そして、**栽培植物の、品種の来歴**。**
**——さらに、**ジャガイモ疫病菌**。**
**——1840年代のアイルランドの飢饉のとき、**実際にどの系統が病を起こしたか**が、**
**——当時の標本に残る病斑から、読み取られた(2013年)。〉**
**(2)**気孔**。
**——**葉の裏の、**気孔の密度**が、**大気の二酸化炭素の濃度に、応じて、変わる**。
**——**古い標本から、**過去の大気を、推定できる**。
**(3)**開花の時期**。
**——**「この標本は、**何月何日に、花が咲いていた」**。
**——**それを、**百年分、並べる**。
**——**そして、**温暖化に伴う、開花の前倒し**が、**測られている**。
**(4)そして、**分布**。
**——**「昔、ここに、生えていた」**。
**——**いま、無い**。〉
**——**つまり**。
〈**——**四百年前に、**薬草を、確かめるために**、押した葉が、
**——**いま、**気候の記録として、読まれている**。
**——**採った人が、**想像もしなかった使い方**である**。〉)
**危機**。
(——**そして、**標本庫が、**閉じられている**。
〈**——**2017年、**デューク大学**が、**閉鎖を、検討した**(撤回された)。
**——**そして、**2024年、**同大学が、**改めて、標本庫の移管を、発表した**。
**——**理由**——**維持の費用と、**場所**。
**〈——「デジタル化したから、実物は、要らないのではないか」。**
**——そして、**それは、違う**。**
**——写真からは、**DNAも、気孔も、化学成分も、取れない**。〉**〉
**——**そして、**火事**。
〈**——**2018年9月、**ブラジル国立博物館の火災**。
**——**約2,000万点**の収蔵品の、大部分が、失われた**。
**——**そのうち、**植物標本の一部が、別棟にあり、助かった**。
**——**しかし、**昆虫と、人類学の資料は、消えた**。
**〈——そして、**その多くが、二度と、集められない**。**
**——採集された場所が、**もう、無い**からである。〉**〉)