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Event / できごと

グラースと香水

Grasse and perfume
AD1750年頃
重要度 4
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このできごとには、まだ自由に使える図版が見つかっていません。 代わりに、このデータベースが持っているAD1750年頃の版図を描いています(25勢力)

概要

南フランスの丘の町。もとは皮なめしの産地だった。なめした革は臭う。16世紀、革手袋に香りを付けることが流行し、この町が香料の栽培と加工に転じた。ジャスミン、バラ、チュベローズ、ラベンダー、オレンジの花。花は摘んですぐ処理しなければ香りが失われるので、畑と工房が隣り合う必要がある。冷浸法で油脂に香りを移し、アルコールで抽出する。19世紀、合成香料が現れ、天然にない香りが作れるようになった。

場所

グラース
43.66°N 6.92°E · フランス・アルプ=マリティーム県

本文

**革の町**。

**グラース**。南フランス、ニースの北の丘の町。

中世から、**皮なめし**の産地だった。

(近くに水があり、なめしに使うタンニンを含む植物があった。)

**問題**。

**なめした革は、臭う**。

(当時のなめしには、**動物の糞尿**と、**尿**が使われた。脱毛と、繊維の軟化のためである。

そして、その臭いが、完成した革にも残る。)

**16世紀**。

**革手袋**が、貴族の間で流行した。

そして——**香りを付けた手袋**が、さらに流行した。

(カトリーヌ・ド・メディシスが、イタリアからこの風習を持ち込んだ、とされる。

彼女の香水師**レナート・ビアンコ**〈フランス名ルネ・ル・フロランタン〉が、パリで店を開いた。

——彼は、**毒殺の疑い**をかけられた人物でもある。香水と毒は、同じ技術の産物である。)

グラースの職人は、既に手袋を作っていた。そこに、周囲の丘で採れる花の香りを付けた。

**1614年**、国王が「**手袋商・香水商**」の同業組合を認可した。

**転換**。

17世紀後半、**手袋への課税**が重くなり、そして流行も去った。

グラースは、**香料そのものへ**転じた。

**なぜ、この町か**。

**(1)気候**。

地中海性気候。冬が温暖で、夏が乾く。丘の斜面で、日当たりがよい。

**(2)花が育つ**。

- **ジャスミン**(グランディフローラム種)——最も高価。 - **センティフォリア・ローズ**(キャベツ・ローズ、五月薔薇)。 - **チュベローズ**。 - **ラベンダー**、**ミモザ**、**オレンジの花**(ネロリ)、**スミレ**。

**(3)そして、決定的な理由**。

**花は、摘んだ瞬間から、香りが失われていく**。

ジャスミンは、**夜明け前に、手で摘む**(日が昇ると、香りが飛ぶ)。

そして、**数時間以内に、処理しなければならない**。

**だから、畑と、工房が、隣り合っていなければならない**。

(香料の産地が、花の産地でなければならない理由が、これである。輸送できない。)

**方法**。

**(1)水蒸気蒸留**。

熱に強い花(ラベンダー、ローズ)に使う。

蒸気を通し、精油を含む蒸気を冷やして、油と水を分ける。

(副産物として、**フローラル・ウォーター**〈ローズウォーター、オレンジフラワーウォーター〉が得られる。中東と地中海の菓子に、いまも使われる。)

**(2)アンフルラージュ**(冷浸法)。

**熱に弱い花**——ジャスミン、チュベローズ——に使う。

- ガラスの板に、**精製した無臭の獣脂**(牛と豚の脂を混ぜたもの)を、薄く塗る。 - その上に、**花を並べる**。 - 木枠に挟んで、積み上げる。 - **24〜72時間**置く。 - 花を取り除き、**新しい花を並べる**。 - これを、**20〜30回、繰り返す**。

(脂が、香りを吸う。)

- 香りで飽和した脂(**ポマード**)を、**アルコール**に溶かす。 - アルコールを飛ばすと、**アブソリュート**(純粋な香料)が残る。

**極めて手間がかかる**。

(1kgのジャスミンのアブソリュートを得るのに、**約700万〜800万個の花**が必要とされる。

——だから、値段が、金より高くなる。)

(この方法は、20世紀後半、**溶剤抽出**(ヘキサンなどを使う)に、ほぼ置き換えられた。安く、効率がよい。

アンフルラージュは、いまも、ごく一部で行われている。)

**19世紀の転換**。

**合成香料**。

- **1868年**、**ウィリアム・パーキン**(モーヴの人)が、**クマリン**を合成した。

(新しく刈った干し草の香り。天然にはトンカ豆などに含まれる。)

- **1874年**、**バニリン**の合成(ハールマンとティーマン)。

(バニラの主成分。バニラの莢は、当時、極めて高価だった。手で受粉させ、長い発酵の工程を要する。

——合成バニリンは、その値段を、桁違いに下げた。)

- **1888年**、**ムスク・バウア**(合成ムスク)。

(天然の麝香は、**ジャコウジカの雄の腺**から採る。一頭から数十グラム。そのために、鹿が殺された。

合成品が現れて、この殺戮が減った。〈完全には、なくなっていない。〉)

- **1898年**、**イオノン**(スミレの香り)。

(スミレの花からの抽出は、収率が極端に低く、非現実的だった。合成品が、それを可能にした。)

**そして、1921年**。

**シャネルNo.5**。

**エルネスト・ボー**(調香師。ロシア生まれ)が、ココ・シャネルのために作った。

**革新**——**アルデヒド**を、大量に使った。

(脂肪族アルデヒド。天然の花にはない、抽象的で、金属的で、そして石鹸のような清潔感のある香り。

——それまでの香水は、「**薔薇の香り**」「**スミレの香り**」——自然にあるものを模倣した。

No.5は、**自然界のどこにもない香り**だった。「花の香りではなく、女性の香り」とシャネルは言った。)

(有名な逸話——助手が、アルデヒドの量を桁違いに間違えて入れた、とされる。

**これは、後の脚色である**可能性が高い。ボーは、意図的に使ったと考えられている。)

**現在**。

グラースは、いまも「**香水の都**」を名乗っている。

ただし——

- 花の栽培面積は、20世紀に**激減した**。

(土地の値段が上がり、宅地になった。そして、より安い産地〈エジプト、インド、モロッコ、ブルガリア〉から輸入するほうが安い。)

- 現在、グラースで作られているものの中心は、**花そのものではなく、調合と、技術と、そして「香料産業の本社機能」**である。

(**ジボダン**、**フィルメニッヒ**、**IFF**、**シムライズ**——世界の香料の大半を作る数社が、この地域に拠点を持つ。

そして、彼らが作るのは、香水だけではない。**洗剤、シャンプー、柔軟剤、食品の香料**——その市場のほうが、はるかに大きい。)

- 一方、**シャネル**が、グラースの農家と長期の契約を結び、ジャスミンとローズの畑を維持している。

(No.5のために、この土地の花を使い続けるという方針である。)

**2018年**、**グラースの香水の技術**が、ユネスコの**無形文化遺産**に登録された。

登録されたのは、三つの技能である。

**香料の原料の栽培**、**天然の原料の知識と加工**、そして——**香りを調合する技術**。

**調香師**。

フランス語で **nez**(**鼻**)。

(訓練に、**10年前後**を要するとされる。数千の香料の素材を、嗅ぎ分け、名を言い、そして頭の中で組み合わせられるようになるまで。

世界に、数百人しかいない、と言われる。)

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