概要
イングランド北東部の薬屋ジョン・ウォーカーが、調合中の棒の先が炉の縁に擦れて発火するのに気づいた。塩素酸カリウムと硫化アンチモンを練り、木の軸に付ける。紙やすりで擦れば、一瞬で燃える。彼は特許を取らず、作り方を隠さなかった。数年で各地が真似をし、白リンを使った安価な版が広まる。数分かかった作業が一秒になり、火は保つものから、要るときに作るものになった。ただし白リンは猛毒で、その代償は作る側が払うことになる。
場所
54.57°N -1.32°E · イギリス・イングランド
本文
**薬屋**。
(——**ジョン・ウォーカー**(1781〜1859年)。
〈**——**イングランド北東部、**ストックトン・オン・ティーズ**。
**——**外科医の見習いから、**薬種商**になった**。
**〈——手術の場面に、**耐えられなかった**と伝えられる。〉**
**——**そして、**化学が、好きだった**。〉
**——**1826年**。
〈**——**発火する調合を、**探していた**。
**——**混ぜたものを、**棒で、練っていた**。
**——**そして、**その先が、**炉の縁に、擦れた**。
**——**燃えた**。〉)
**中身**。
(**(1)**塩素酸カリウム**。
〈**——**酸素を、**内側に、持っている**。
**——**外の空気を、**待たない**。〉
**(2)**そして、**硫化アンチモン**。
〈**——**燃える側**。〉
**(3)さらに、**アラビアゴム**。
〈**——**練り合わせて、**軸の先に、留める**ためのもの。〉
**(4)そして、**軸**。
〈**——**厚紙**、あるいは、**木片**。
**——**長さは、**七センチほど**。〉
**——**擦る相手**。
〈**——**折り畳んだ、**紙やすり**。
**——**間に挟んで、**引き抜く**。〉)
**売り方**。
(——**1827年4月、**最初の販売の記録が、彼の帳簿に残っている**。
〈**——**「Sulphurata Hyperoxygenata Frict.」**。
**——**そして、**百本で、一シリング**。
**——**やすり付き**。〉
**——**名前**。
〈**——**「コングリーヴ」**(Congreves)とも呼ばれた**。
**——**ロケット弾を作った**ウィリアム・コングリーヴ**にちなむ**。
**——**ウォーカー自身は、**「フリクション・ライト」**と呼んでいた**。〉
**——**そして、**特許を、取らなかった**。
〈**——**取るように、**勧められている**。
**——**ファラデー**が、勧めたという話が伝わる**。
**——**断った**。
**〈——理由は、はっきりしない。**
**——「人々の役に立つものだから」と言ったとされる。〉**
**——**結果として、**すぐに、真似された**。
**〈——1829年、ロンドンのサミュエル・ジョーンズが、**同じものを、売り出した**。〉〉)**
**白リン**。
(**1830年ごろ**。
〈**——**フランスの**ソーリア**、そして、**ドイツの**カンマラー**が、
**——**塩素酸カリウムの代わりに、**白リン**を使った**。〉
**——**利点**。
〈**(1)**どこで擦っても、**点く**。
**〈——壁でも、**靴の裏でも、**歯でも**。〉**
**(2)**そして、**安い**。
**(3)さらに、**確実である**。〉
**——**そして、**猛毒である**。
〈**——**致死量は、**数十ミリグラム**。
**——**マッチの頭、**数個ぶん**。
**——**十九世紀には、**自殺と、殺人**に、繰り返し使われた**。〉
**——**さらに、**作る側が、**慢性の中毒になる**。
〈**——**蒸気を、**吸い続ける**。
**——**顎の骨が、**腐る**。
**——**[[matchgirls-strike]]。〉
**——**自然に、**発火することもあった**。
〈**——**摩擦で。
**——**あるいは、**暑い日に、**箱の中で**。
**——**ポケットの中で燃えた、**という記録が、いくつも残っている**。〉)
**安全マッチ**。
(**1844年**。
〈**——**スウェーデンの**グスタフ・パッシュ**が、**思いついた**。
**——**発火に要るものを、**二つに、分ける**。〉
**——**やり方**。
〈**(1)**頭薬には、**塩素酸カリウム**などを、置く**。
**(2)**そして、**箱の側面に、**赤リン**を、塗る**。
**〈——赤リンは、**白リンと、同じ元素の、別の形**。**
**——毒性が、**遥かに低い**。〉**
**(3)さらに、**その面で擦ったときだけ、**点く**。〉
**——**1855年**。
〈**——**ヨハン・エドヴァルド・ルンドストレーム**が、**実用にした**。
**——**イェンチェピング**(スウェーデン)。
**——**パリ万博で、**賞を得る**。〉
**——**それでも、**白リンは、消えなかった**。
〈**——**安全マッチは、**箱が要る**。
**——**そして、**高い**。
**——**「どこでも点く」ほうが、**売れ続けた**。〉
**——**禁止**。
〈**——**1906年、**ベルン条約**。
**——**白リンマッチの、**製造と輸入を、禁じる**国際条約**。
**——**イギリスは、**1908年に、法を通した**。
**——**アメリカは、**条約に加わらず、**1912年に、重い税をかけて、事実上、消した**。〉)
**何が、変わったか**。
(——**時間**。
〈**——**[[tinderbox]]で、**数分**。
**——**マッチで、**一秒**。〉
**——**場所**。
〈**——**火は、**炉に、縛られていた**。
**——**そして、**ポケットに、入った**。
**〈——だから、**煙草**が、変わる。**
**——街角で、**火を借りる**必要が、無くなった。〉〉**
**——**そして、**態度**。
〈**——**火は、**絶やさないもの**から、
**——**要るときに、**作って、捨てるもの**になった**。
**——**[[vestal-fire]]が、**千年やっていたこと**が、
**——**技術としては、**意味を、失った**。〉
**——**数**。
〈**——**十九世紀の終わりには、**世界で、年に、数千億本**が、作られていた**。
**——**安く、**小さく、**そして、**一度きり**。
**——**使い捨ての工業製品として、**早い例である**。〉)
**残ること**。
(——**ウォーカーは、**貧しくはならなかった**。
〈**——**薬屋として、**穏やかに、暮らした**。
**——**そして、**七十八歳で、死んだ**。
**——**墓は、**同じ町にある**。〉
**——**特許を取らなかったことについて**。
〈**——**惜しまなかったのか、**分からない**。
**——**だが、**取っていれば、**普及は、遅れた**だろう**。
**——**そして、**白リンの版が、**先に、広まった**。
**〈——彼の調合は、**毒ではなかった**。**
**——安くする過程で、**毒になった**。〉〉)**