概要
合衆国憲法は、下院の議席と直接税を人口で割り振ると定め、そのために十年ごとに数えることを義務づけた。国家が、自分の民を定期的に数える最初の仕組みである。連邦保安官が戸別に回った。記録したのは世帯主の名と、六つの区分だけ。十六歳以上の自由白人男性、十六歳未満の自由白人男性、自由白人女性、その他の自由人、そして奴隷。総数 3,929,214人、うち奴隷 697,681人。奴隷は議席の計算では五分の三として数えられた。
場所
40.71°N -74.01°E · アメリカ合衆国
本文
**条文**。
**合衆国憲法、第1条第2節第3項**。
**「下院議員の数と直接税は、……各州の人口に応じて配分される**。
**人口は、年季契約労働者を含む自由人の総数に、課税されないインディアンを除き、その他のすべての者の五分の三を加えて算定する**。
**実際の人口調査は、第一回合衆国議会の最初の会期から三年以内に、その後は十年ごとに、法律の定める方法で行う」**。
(——**世界で初めて、憲法が、定期的な人口調査を義務づけた**。
**そして、その目的が、はっきり書かれている**。
**議席と、税である**。
〈**「国民の福祉のため」ではない**。
——**権力を、どう配るか**。それを決めるために、数える。〉)
**「その他のすべての者」**。
(——**奴隷である**。
**憲法は、その語を、避けた**。
**そして、五分の三として数えた**。
〈**三分の五条項**(Three-Fifths Compromise)。
**制憲会議での取引である**。
**南部——「奴隷を、人口に数えろ」**(議席が増える)。
**北部——「財産を人口に数えるのか」**。
——**そして、五分の三になった**。
〈**この妥協が、南部に、人口以上の議席と、大統領選挙人を与えた**。
**建国から南北戦争まで、大統領の多くが、奴隷所有者の南部人だった**。
**その一因が、この条項である、と論じられている。**〉
**1868年、修正第14条が、これを廃止した**。〉)
**実施**。
**1790年3月1日、法が成立**。
**調査の基準日——1790年8月2日**。
**誰が、数えたか**。
**連邦保安官**(U.S. marshals)と、**その助手**。
(——**専門の職員は、いない**。
**650人ほどが、戸別に回った**。
〈**紙も、支給されなかった**。
**保安官が、自分で紙を用意し、罫を引き、書式を作った**。
——**だから、書式が、地域によって違う**。〉
**そして、集計した表を、**教会と公共の場所に、掲示することが義務づけられた**。
**——誰かが、間違いを見つけられるように**。〉)
**項目**。
**六つだけ**。
**(1)世帯主の氏名**。
**(2)16歳以上の、自由白人男性**。
**(3)16歳未満の、自由白人男性**。
**(4)自由白人女性**(年齢の区分なし)。
**(5)その他の自由人**。
**(6)奴隷**。
(——**なぜ、男性だけ、16歳で分けたか**。
**兵役に就ける者と、就けない者を、知るためである**。
〈**軍事と、産業の潜在力**。
**ジェファソンとハミルトンが、それを知りたがった**。〉
**そして——女性は、年齢で分けられていない**。
**自由な黒人と、先住民は、「その他の自由人」に一括された**。
**奴隷には、名が無い**。**数だけである**。
〈**この点が、後に、系譜をたどる人々にとって、決定的な障壁になった**。
**——1870年より前の合衆国の記録に、多くの黒人の名が、無い**。〉)
**結果**。
**総人口——3,929,214人**。
(**うち、奴隷——697,681人**(約17.8%)。
**自由な黒人——59,527人**。
**先住民は、大部分が、数えられていない**(「課税されないインディアン」)。)
**最大の州——ヴァージニア(747,610人)**。
**都市——フィラデルフィア、ニューヨーク、ボストン、チャールストン、ボルティモア**。
(——**人口5,000人以上の場所に住む者は、全体の5%に満たない**。
**圧倒的に、農村である**。)
**反応**。
**ワシントンとジェファソンは、**少なすぎる**と考えた**。
(**ジェファソンの手紙**——「**われわれは、実際より少なく数えられたと信じる**」。
**理由の推測**——
**(1)辺境の住民が、税を恐れて、申告を避けた**。
**(2)宗教的な理由**。
〈**旧約聖書、サムエル記下24章**。
**ダビデが、民を数えた**。**そして、神が疫病を下した**。
——**「数えられること」を、罪と結びつける観念が、あった**。〉
**(3)そして、単純に、届かない場所があった**。)
**その後**。
**十年ごとに、続いている**。
(——**一度も、途切れていない**。
**南北戦争の最中も、二つの世界大戦の最中も、行われた**。
**2020年まで、23回**。)
**項目は、増え続けた**。
(**1850年——初めて、世帯全員の名前を記録した**。
〈**奴隷は除く**。奴隷は、別の「奴隷表」に、年齢・性別・肌の色だけで記載された。**名は、無い**。〉
**1890年——電気式の集計機**。
〈**ハーマン・ホレリスのパンチカード**。
**手作業なら十年かかると言われた集計が、二年半で終わった**。
——**そして、彼の会社が、後にIBMになった**。〉
**1940年——標本調査(抽出)を導入**。
**2020年——初めて、オンラインでの回答を主とした**。)
**失われた記録**。
(**1790年から1820年の記録の一部**——**1812年戦争のとき、ワシントンが焼かれた際などに失われた**、とされる。
**そして——1890年の記録**。
**1921年1月10日、商務省の建物の地下で、火災**。
**——水と煙で、大半が損傷した**。
**1935年、議会の承認を得て、残りが廃棄された**。
〈**復元は、不可能である**。
**1890年に生きていた人々の、ほとんどの記録が、無い**。
——**系譜研究における、最大の空白**と呼ばれる。〉)
**そして、いま**。
**数えることは、政治である**。
(**議席の再配分**(reapportionment)。
**そして、選挙区の線引き**(redistricting)。
——**どこに、誰が、何人いるか**。それが、議席を決める。
**だから、「誰を数えるか」が、争われ続けている**。
〈**2019年、トランプ政権が、国勢調査に市民権の質問を加えようとした**。
**最高裁が、示された理由が「作り事のように見える」として、差し止めた**。
——**質問があれば、移民の世帯が回答を避け、その地域が過少に数えられる、という懸念があった**。
**そして、それは、議席と、連邦の予算配分に、直接効く**。〉
**——数えることは、中立ではない**。
**1790年の憲法が、それを、正直に書いていた**。
**議席と、税のため、と**。)