概要
コニーアイランドの遊園地に、傾いた板が環になって回り続ける乗り物が置かれた。乗る人は横向きに座り、坂を運ばれる。遊具として作られたそれが、まもなく段の付いた形になり、デパートの階段脇に置かれる。止まらずに流れ続けるので、待ち行列ができない。エレベーターが一度に運ぶ人数で限られるのに対し、こちらは人の流れそのものを上下させる。売り場を上の階まで見せたい商業建築と相性がよく、地下鉄の深い駅を実用にしたのも、この仕組みだった。
場所
40.71°N -74.01°E · アメリカ合衆国
本文
**1896年**。
(——**コニーアイランド**。
〈**——**ニューヨークの、**海辺の遊園地**。
**——**そこに、**傾いた板が、環になって、回り続ける乗り物**が、置かれた**。〉
**——**作ったのは**。
〈**——**ジェシー・リノ**(1861〜1934年)。
**——**「傾斜昇降機」**(inclined elevator)と呼んだ**。
**——**傾きは、**二十五度**ほど**。
**——**そして、**段が、無い**。
**〈——ただの、滑らかな帯。**
**——乗る人は、**横向きに、立つ**。**
**——高さは、**七メートルほど**。〉**
**——**二週間で、**七万五千人**が乗ったと伝わる**。
**——**乗り物として、**面白かったのである**。〉)
**もう一人**。
(——**チャールズ・シーバーガー**。
〈**——**別の設計を、**買い取って、改良した**。
**——**こちらには、**平らな段**が付く**。
**——**そして、**オーチス社**と、組んだ**。
**〈——エレベーターの会社である。〉**
**——**1900年、**パリ万博**に出して、**一等を取った**。〉
**——**名前**。
〈**——**「エスカレーター」**は、**シーバーガーが作った造語**である**。
**〈——ラテン語のscala(階段)と、elevatorを、混ぜた。〉**
**——**そして、**オーチス社の、**商標だった**。
**——**1950年、**アメリカで、**商標が、失われる**。
**〈——普通名詞になりすぎた、と判断された。**
**——会社自身が、広告で、**小文字で使っていた**ことが、根拠にされた。〉**
**——**エスカレーター、アスピリン、セロファンは、**同じ道を辿った語**である**。〉)
**エレベーターと、どう違うか**。
(**(1)**待たない**。
〈**——**エレベーターは、**箱が来るまで、待つ**。
**——**エスカレーターは、**流れ続けている**。
**——**そして、**行列ができない**。〉
**(2)**そして、**運べる人数**。
〈**——**エレベーターは、**箱の大きさで、決まる**。
**——**エスカレーターは、**時間あたりの流量**で、決まる**。
**〈——一時間に、**数千人**。**
**——同じ人数を運ぶのに、エレベーターなら、何台も要る。〉〉**
**(3)さらに、**止まっても、階段になる**。
〈**——**電気が切れても、**歩いて、上れる**。
**——**エレベーターは、**箱の中に、閉じ込められる**。〉
**(4)そして、**見える**。
〈**——**乗っている間、**周りが、見えている**。
**——**これが、**商業建築にとって、**決定的だった**。〉)
**デパート**。
(——**すぐに、**売り場に、入った**。
〈**——**ロンドンの**ハロッズ**が、1898年に、**リノ式のものを、入れている**。
**〈——降りてきた客に、**気付けのブランデー**を出したと伝わる。〉**
**——**そして、**日本では、**1914年の三越**が、最初と言われる**。〉
**——**なぜ、商売に、効いたのか**。
〈**(1)**上の階が、**売り場になる**。
**〈——それまで、**二階より上は、客が来ない**。**
**——「上げる」ことが、**床面積を、増やすことだった**。〉**
**(2)**そして、**客が、**通り過ぎながら、売り場を見る**。
**〈——「見せながら、運ぶ」。**
**——エレベーターの箱には、それができない。〉**
**(3)さらに、**流れが、**途切れない**。
**〈——買う気を、**待ち時間で、冷まさない**。〉〉)
**地下鉄**。
(——**もう一つの、大きな用途**。
〈**——**深い駅**。
**——**ロンドンの地下鉄は、**地下深くを掘っている**。
**——**そして、**階段では、**上がれない**。〉
**——**1911年、**アールズ・コート駅**。
〈**——**ロンドンで、最初の常設のもの**。
**——**伝説がある**。
**〈——片脚の男を雇って、乗り降りさせ、**安全であることを示した**、という話。**
**——「バンパー」ハリスの逸話。**
**——当時の新聞に記事はあるが、**会社の記録には無い**。〉〉**
**——**そして、**片側を空ける習慣**。
〈**——**急ぐ人が、**歩いて追い抜く**。
**——**ロンドンは、**右に立ち、左を空ける**。
**——**東京は、**左に立つ**。大阪は、**右に立つ**。
**〈——理由については、諸説あり、**確定していない**。〉**
**——**近年、**「両側に立つほうが、多く運べる」**という試験が、**繰り返し行われている**。
**〈——ロンドンの駅での試験では、**流量が増えた**。**
**——だが、**習慣は、変わりにくい**。〉〉)
**危ないこと**。
(——**動いている機械に、**人が、直に、乗る**。
〈**(1)**櫛の歯**(コム)に、**靴や、指が、挟まる**。
**〈——子どもの、柔らかい靴。〉**
**(2)**そして、**手すりと、**壁の間**。
**(3)さらに、**逆走**。
**〈——2008年、東京。**
**——上りが、**満員のまま、逆に流れた**。〉〉**
**——**だから**。
〈**——**段の縁に、**黄色い線が引かれ**、
**——**櫛の歯が、**細かくなり**、
**——**そして、**非常停止のボタンが、**下と上に、置かれた**。〉)
**残ること**。
(——**人を、**流れとして、扱う**。
〈**——**一人ずつ運ぶのではなく、**列を、そのまま、移す**。
**——**そして、**待ち時間を、無くす**。
**——**[[moving-walkway]]と、**同じ発想**である**。
**〈——片方は、水平に。**
**——もう片方は、垂直に。〉〉**
**——**遊園地の乗り物として、**始まった**。
〈**——**面白いから、**人が乗った**。
**——**そして、**面白くなくなったころには、**無いと困るもの**になっていた**。〉)