概要
初期の電話は、交換台に繋ぎ替える人が要る。最初に雇われたのは電信の少年たちだった。乱暴な口をきき、客と喧嘩し、勝手に線を抜いた。ボストンの交換局が、エマ・ナットという女性を雇う。評判が良く、以後、交換手は女性の職業になった。声の質、忍耐、そして低い賃金が理由に挙げられている。数十万人がこの職に就き、そして自動交換機が、それを消していった。応答の速さと丁寧さは、機械が引き継がなかったものである。
場所
42.36°N -71.06°E · アメリカ・マサチューセッツ州
本文
**必要**。
(——**初期の電話には、**ダイヤルが無い**。
**受話器を上げると、**交換局に、つながる**。
**そして、**「〇〇さんをお願いします」**と言う**。
**——**交換手が、**コードを差し替えて、つなぐ**。
〈**——**なぜ、それが要るか**。
**——**「誰でも、誰にでも、かけられる」ようにするには、**全員を、全員につなぐ線**が要る**。
**n人なら、**n(n-1)/2 本**。
**〈100人で、4,950本。**
**1,000人で、約50万本。〉**
**——**不可能である**。
**だから、**中央に、一つの点を置く**。
**——**全員が、そこにつながる**。
**そして、**そこで、つなぎ替える**。〉)
**最初——少年**。
(——**1877年から78年、**最初の交換局**。
**雇われたのは、**十代の少年**である**。
〈**——**理由**。
**(1)**電信の配達少年**が、既にいた**。
**——**同じ仕事の延長として、扱われた**。
**(2)そして、**賃金が、安い**。〉
**——**そして、**うまくいかなかった**。
〈**記録に残る、苦情**。
**——**乱暴な口をきく**。
**〈客に、**罵倒を返した**。〉**
**——**悪戯をする**。
**〈勝手に線を抜く。**
**——別の人に、つないでしまう。〉**
**——**そして、**局の中で、取っ組み合いの喧嘩をする**。
**〈——当時の記録に、**「彼らは、絶えず動き回り、叫び、そして、レスリングをしていた」**という趣旨の記述がある。〉**
**——**そして、**辞める**。〉)
**エマ・ナット**。
**1878年9月1日**。
(——**ボストン電話配送会社**。
**——**アレクサンダー・グラハム・ベル**が、彼女を雇った**、と伝えられる**。
**〈直接、面接したかどうかは、確かでない。〉**
**年齢——**十七歳**。
〈**——**世界で最初の、女性の電話交換手**とされる**。
**そして、**数時間後に、**妹のステラも、雇われた**。〉
**評判**。
〈**——**極めて、良かった**。
**理由として、当時、挙げられたもの**。
**(1)**声**。
**——**「落ち着いていて、聞き取りやすい」**。
**〈——女性の声のほうが、**当時の電話の音質で、聞き取りやすかった**、という説明もある。
**——技術的な根拠は、はっきりしない。〉**
**(2)**忍耐**。
**——**「同じことを、何百回、繰り返しても、苛立たない」**。
**(3)そして、**礼儀**。
**——**「ありがとうございます」を、言う**。〉
**——**そして、**もう一つの、決定的な理由**。
〈**——**賃金が、少年の、**半分から三分の二**で済んだ**。
**〈当時の記録に、それが、明確に書かれている。〉**〉)
**そして、女性の職業になった**。
(——**1880年代から、**急速に**。
**1900年頃には、**アメリカの交換手の、**ほぼ全員が女性**である**。
**規模**。
〈**——**1920年代のアメリカで、**約20万人**。
**そして、**AT&Tは、**当時、アメリカ最大の女性の雇用主**だった**。〉)
**仕事**。
(——**過酷である**。
〈**(1)**姿勢**。
**——**一日、八時間から十時間、**同じ椅子に、まっすぐ座る**。
**そして、**重いヘッドセット**。
**(2)**速度**。
**——**「三秒以内に応答」**が、規則だった時期がある**。
**そして、**一人が、**一時間に、二百回以上の接続**を扱う**。
**(3)**監視**。
**——**監督者が、後ろを歩く**。
**そして、**通話を、聞くことができる**。
**〈「規則どおりの応答をしているか」。〉**
**(4)**規則**。
**——**私語の禁止**。**決まった言い回し以外を、使ってはいけない**。
**そして、**「番号を、お願いします」**。
**(5)そして、**結婚したら、辞める**。
**〈——多くの会社で、**既婚女性を、雇わない、あるいは、結婚した時点で解雇する**規定があった。**
**——「マリッジ・バー」。**
**アメリカでは、1950年代まで、広く残った。〉**〉
**そして、**電気の衝撃**。
〈**——**落雷や、線の障害で、**耳に、強い音が来る**。
**——**「音響性外傷」**の記録がある**。〉)
**そして、彼女たちがしたこと**。
(——**規則の外で**。
〈**——**火事と、事故のときに、**手当たり次第に、電話をかけて、知らせた**。
**〈記録に残る例が、多数ある。**
**——1888年、バーモント州の洪水。**
**1938年、ニューイングランドのハリケーン。**
**——交換手が、局に残って、警報を伝え続けた。〉**
**そして、**「この番号は、いま留守です」「あの人なら、隣にいます」**と、教えた**。
**——**小さな町では、**交換手が、町の全部を、知っていた**。
**〈これは、**私生活への侵入**でもある。〉**〉)
**争議**。
(——**1919年、**ボストンの交換手のストライキ**。
〈**——**「ハロー・ガールズ」**と呼ばれた彼女たちが、**六日間、線を止めた**。
**そして、**勝った**(賃上げと、組合の承認)。〉
**そして、**第一次大戦**。
〈**——**アメリカ陸軍が、**フランスの前線に、**女性の交換手を、送った**。
**「ハロー・ガールズ」**。
**——**約230人**。
**そして、**軍服を着て、宣誓し、軍規に従った**。
**——**戦後、**「彼女たちは、軍人ではない」**とされ、**除隊手当も、恩給も、与えられなかった**。
**〈認められたのは、**1977年**である。**
**——そのとき、生きていたのは、数十人だった。〉**〉)
**消滅**。
(——**自動交換機**。
〈**1891年、**アルモン・ストロージャー**が、**ステップ・バイ・ステップ交換機**の特許を取った**。
**——**彼は、**葬儀屋**である**。
**〈——競争相手の葬儀屋の妻が、交換手だった。**
**そして、彼への電話を、そちらへ回している、と疑った。**
**——「人間の交換手を、なくしてやる」。**
**この逸話は、繰り返し語られる。**
**——本人が語ったものであり、**裏づけは、限定的である**。〉**〉
**そして、**ダイヤルが、電話機に付いた**。
**——**利用者が、自分で、番号を回す**。
**普及**。
〈**——**アメリカで、**1920年代から、少しずつ**。
**そして、**長距離の自動化は、1950年代から**。
**——**1983年、AT&Tの最後の手動交換局が、閉じた**(メイン州)。
**日本では、**1979年**に、全国の自動化が完了した**。〉)
**残らなかったもの**。
(——**機械は、**速く、安く、そして、間違えない**。
**そして——**
〈**「あの人なら、隣にいます」**とは、**言わない**。
**火事のときに、**手当たり次第に、かけて回る**こともない**。
**——**それは、**仕様に、書かれていなかった**。〉)