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Event / できごと

体臭を売る

Selling body odour
AD1919年
重要度 3
大英帝国カナダアメリカ合衆国アメリカ合衆国デンマークメキシコグレートブリテン及びアイルランド連合王国ニカラグアホンジュラスキューバグアテマラAD1919年シンシナティ
このできごとには、まだ自由に使える図版が見つかっていません。 代わりに、このデータベースが持っているAD1919年の版図を描いています(11勢力)

概要

シンシナティの外科医が、手が汗ばまないようにと作った塩化アルミニウムの液を、娘のエドナ・マーフィーが「オドロノ」の名で売り出した。売れない。広告代理店のジェイムズ・ウェッブ・ヤングが、女性向けの雑誌に一文を載せた。腕の内側の曲線に、恥ずべき匂いがある——それを本人だけが知らない、と。抗議が来て、購読を止めた読者もいたが、売上は跳ね上がった。存在しなかった不安を作り、それを解く商品を売る。広告というものの性格が、この一件で、はっきり見えた。

場所

シンシナティ
39.10°N -84.51°E · アメリカ・オハイオ州

本文

**汗**。

(——**汗そのものは、**ほとんど、匂わない**。

〈**(1)**エクリン腺**。

**〈——全身にある。**

**——出るのは、**ほぼ、水と塩**。**

**——体温を、下げるためのもの。〉**

**(2)**そして、**アポクリン腺**。

**〈——腋の下、乳輪、外耳道など。**

**——脂質とタンパク質を、含む。**

**——思春期から、働き始める。〉**

**——**そして、**匂いを作るのは、**皮膚の細菌である**。

**〈——分泌物を、分解する。**

**——できるのが、**短鎖脂肪酸**と、**チオアルコール**。**

**——後者が、**独特の匂いの、主犯**である。〉〉**

**——**つまり**。

〈**——**体臭は、**汗の匂いではなく、**細菌の代謝の匂い**である**。

**——**だから、**汗を止めるか、**細菌を減らすか**、二つの道がある**。

**〈——制汗剤(antiperspirant)と、**消臭剤(deodorant)**。**

**——別のものだが、**日本語でも英語でも、混同されている**。〉〉)**

**シンシナティ**。

(**1888年**。

〈**——**「マム」**(Mum)という商品が、**フィラデルフィアで、売り出された**。

**——**酸化亜鉛の、**クリーム**。

**——**細菌を、**抑える**。

**——**世界で最初の、**商業的な消臭剤**とされる**。〉

**——**そして、**もう一つ**。

〈**——**シンシナティの、**外科医**。

**——**エイブラハム・マーフィー**。

**——**手術中に、**手が汗ばむ**のを、嫌った**。

**——**そこで、**塩化アルミニウムの液**を、作った**。

**〈——汗腺の出口を、**一時的に、塞ぐ**。〉〉**

**——**娘が、**それを、売ろうとした**。

〈**——**エドナ・マーフィー**。

**——**1912年**、まだ十代である**。

**——**「オドロノ」**(Odo-Ro-No)と名付けた**。

**〈——「Odour? Oh no!」の、語呂合わせ。〉〉)**

**売れない**。

(**(1)**そもそも、**必要とされていなかった**。

〈**——**体臭は、**当たり前のもの**である**。

**——**気になるなら、**香水を、付ければよい**。〉

**(2)**そして、**評判が悪かった**。

〈**——**液が、**赤い**(塩化第二鉄を含んでいた)。

**——**服に、**染みが付く**。

**——**そして、**酸性で、**肌が、荒れる**。〉

**(3)さらに、**話題にしにくい**。

〈**——**腋の匂いについて、**人に、言えない**。

**——**そして、**広告に、書けない**。〉

**——**1913年の売上は、**赤字だった**。〉)

**1919年**。

(——**広告代理店**、**J・ウォルター・トンプソン**。

〈**——**担当したのは、**ジェイムズ・ウェッブ・ヤング**(1886〜1973年)。

**——**後に、**『アイデアのつくり方』**を書く人物である**。〉

**——**彼が、**女性誌『レディーズ・ホーム・ジャーナル』**に、**一頁の広告を出した**。

〈**——**見出し**。

**〈——「Within the Curve of a Woman's Arm」。**

**——女性の腕の、その曲線の内側に。〉**

**——**本文**。

**〈——「A frank discussion of a subject too often avoided」。**

**——避けられがちな話題を、率直に論じます。**

**——そして、こう続く。**

**——**多くの女性が、それに気づいていない。本人だけが、知らないのだ**、と。〉〉**

**——**起きたこと**。

〈**(1)**抗議が来た**。

**〈——雑誌の購読を、**止めた読者がいた**。**

**——ヤング自身の、**知人の女性が、口をきかなくなった**と伝えられる。〉**

**(2)**そして、**売上が、**跳ね上がった**。

**〈——翌年、**112パーセント**増えたと言われる。〉〉)**

**何が、起きたのか**。

(——**商品が、**問題を、解いたのではない**。

〈**——**広告が、**問題を、作った**。

**——**そして、**その問題の、解を、売った**。〉

**——**やり方**。

〈**(1)**読者に、**恥を、置く**。

**(2)**そして、**「本人には、分からない」**と言う**。

**〈——だから、**確かめようがない**。**

**——確かめようがない不安は、**消せない**。〉**

**(3)さらに、**社会的な帰結**を、示す**。

**〈——結婚できない。**

**——職を失う。**

**——1920年代から30年代の広告は、**この線を、露骨に進めた**。〉〉**

**——**そして、**男性向け**。

〈**——**しばらく、**手が付かなかった**。

**——**汗は、**男らしさの証**だと、されていた**。

**——**大恐慌の時期に、**「職を失う理由になる」**という広告が、現れる**。

**——**それでも、**普及は、女性より、二十年ほど、遅れた**。〉)

**その後**。

(**(1)**形**。

〈**——**液から、**クリーム**へ**。

**——**そして、**1952年、**ロールオン**。

**〈——ボールペンの機構を、応用した。〉**

**——**さらに、**1965年ごろから、**スプレー**。

**〈——1977年、**フロンの使用が、規制される**。**

**——スティック型に、戻っていく。〉〉**

**(2)**そして、**成分**。

〈**——**アルミニウム塩**が、主流になった**。

**——**発癌性や、**アルツハイマー病との関係**が、繰り返し疑われ、**

**——**そのたびに、**否定的な結果が、出ている**。

**〈——ただし、**議論は、続いている**。〉〉**

**(3)さらに、**土地による違い**。

〈**——**東アジアの多くの人は、**ABCC11という遺伝子**の型により、**アポクリン腺の分泌が、少ない**。

**〈——同じ遺伝子が、**耳垢が乾いているか**も、決めている。〉**

**——**だから、**体臭が、弱い**。

**——**それでも、**制汗剤の市場は、大きい**。

**〈——匂いの強さではなく、**匂いへの不安**が、市場を作っている。〉〉)**

**残ること**。

(——**広告の教科書に、**必ず出てくる一件である**。

〈**——**「需要を、創造する」**という言葉の、**最初の、明瞭な例**として**。

**——**そして、**倫理の教材としても、**引かれ続けている**。〉

**——**匂いを扱う技術の、**行き着いた先**。

〈**——**[[koudou]]は、**匂いを、味わうために、扱った**。

**——**[[eau-de-cologne]]は、**匂いを、纏うために、扱った**。

**——**そして、**これは、**匂いを、恥じるために、扱った**。〉

**——**そして、**その七十年後**。

〈**——**[[odorant-receptors]]が、**匂いという感覚の仕組みそのものを、明らかにする**。

**——**恥じる仕組みが、**先に、市場になっていた**。〉)

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