概要
ウチワサボテンに寄生する小さな虫の、雌の体を乾かして砕くと、鮮やかな深紅が採れる。メソアメリカでは千年以上前から栽培されていた。スペインが植民地の産物として送り出すと、ヨーロッパの染色が変わる。それまでの赤は茜と地衣で、くすんでいた。枢機卿の緋衣も、イギリス軍の赤い上着も、これである。原料が虫であることをスペインは長く伏せ、生産をオアハカに独占させた。銀に次ぐ輸出品になり、そして合成染料が、それを終わらせた。
場所
17.07°N -96.73°E · メキシコ
本文
**虫**。
(——**コチニールカイガラムシ**(*Dactylopius coccus*)。
〈**——**ウチワサボテン**(ノパル)に、寄生する**。
**——**体長、**約5ミリ**。
**——**白い、粉のようなものに、覆われている**。
**〈——蝋である。**
**——遠目には、**サボテンに、白い黴が生えているように見える**。〉**
**——**そして、**その下の体が、**濃い赤紫**である**。〉
**色素**。
〈**——**カルミン酸**。
**——**虫の、**乾燥重量の、約20%**を占める**。
**〈——極めて、高い含有率である。〉**
**——**そして、**捕食者に対する、防御である**、と考えられている**。〉
**量**。
〈**——**一ポンド(約450グラム)の染料に、**約7万匹**が要る**。
**〈——推定に、幅がある。**
**——一説に、10万匹。〉**〉)
**栽培**。
(——**野生ではなく、**栽培されていた**。
〈**——**メソアメリカで、**少なくとも二千年前から**、とされる**。
**——**そして、**家畜化されている**。
**〈——野生種と比べて、**体が大きく、蝋が多く、そして、飛べない**。**
**——雌は、**羽が無く、脚も、退化している**。**
**——人の手なしでは、**生きられない**。〉**〉
**作り方**。
〈**(1)**サボテンの畑(ノパレラ)を、作る**。
**(2)**そこに、**虫の付いた葉を、括りつける**。
**〈——あるいは、**巣を編んだ籠**を、吊るす。〉**
**(3)**三か月ほど、育てる**。
**(4)**そして、**雌を、**刷毛で、掻き落とす**。
**〈——雄は、小さく、羽があり、**色素が少ない**。**
**——そして、交尾の後、すぐ死ぬ。〉**
**(5)**殺して、乾かす**。
**〈——日に干す。**
**——あるいは、**熱湯**、**蒸気**、**あるいは、竈で焼く**。**
**——そして、**方法によって、色が、微妙に、変わる**。**
**——それが、**等級として、取引された**。〉**
**(6)そして、**砕く**。〉
**——**極めて、**手間がかかる**。
〈**——**そして、**気候に、弱い**。
**——**雨と、霜で、**全滅する**。〉)
**それまでのヨーロッパの赤**。
(〈**(1)**茜**(マダー)。
**——**煉瓦色に近い、**くすんだ赤**。
**(2)**ケルメス**。
**——**地中海のカシに付く、**別のカイガラムシ**。
**——**そして、**コチニールより、**色素が、はるかに少ない**。
**〈——十倍以上の量が、要る。〉**
**(3)**ブラジルウッド**(蘇芳)。
**——**色が、**褪せる**。
**(4)そして、**ポーランド・コチニール**。
**——**東欧の、草の根に付く虫**。〉
**——**いずれも、**「本当に、鮮やかで、褪せない赤」**では、なかった**。〉)
**征服**。
(**1519年から**。
〈**——**コルテスが、**メキシコの市場で、**それを、見た**。
**——**そして、**1523年、カルロス1世が、**「新大陸から、送るべきもの」**の一つとして、指定した**。〉
**——**そして、**ヨーロッパで、**衝撃を、与えた**。
〈**——**染めてみたら、**極めて、鮮やかで、**そして、褪せない**。
**——**媒染剤(明礬、錫)を、変えると、**緋色から、深紅、そして紫まで、出せる**。
**〈——特に、**錫を使うと、**燃えるような緋色**になる。**
**——1630年頃、オランダの**コルネリス・ドレベル**が、その方法を、見出した。**
**——「ドレベルの緋色」。〉**〉)
**独占**。
(——**スペインは、**それを、隠した**。
〈**(1)**原料が、**虫であること**を、伏せた**。
**——**「植物の種である」**と、思われていた時期がある**。
**〈——顕微鏡で、**確かめられた**のは、18世紀である。**
**——ルーヴェンフックが、それを、見た。〉**
**(2)**そして、**生きた虫の、輸出を、禁じた**。
**(3)**さらに、**生産を、**オアハカに、集中させた**。
**〈——先住民の共同体が、育てた。**
**——そして、**レパルティミエント**という制度で、**
**——スペイン人の代官が、**前貸しをして、買い叩いた**。**
**——虫の代金は、**しばしば、支払われなかった**。〉〉**
**規模**。
〈**——**16世紀後半から、**銀に次ぐ、メキシコの輸出品**である**。
**——**年に、**数十万ポンド**。
**——**そして、**アムステルダムの取引所で、**先物が、取引された**。〉)
**着たもの**。
(〈**——**枢機卿の緋衣**。
**〈——「カーディナル・レッド」。〉**
**——**イギリス軍の、赤い上着**。
**〈——「レッドコート」。**
**——ただし、**兵卒のものは、より安い茜染め**である。**
**——将校のものが、コチニールだった。〉**
**——**そして、**ゴブラン織り**と、**ペルシアとトルコの絨毯**。
**——**さらに、**ベラスケスと、レンブラントと、ターナー**の絵の、赤**。
**〈——顔料(レーキ)として、使われた。**
**——そして、**この顔料は、光で、褪せる**。**
**——だから、**当時の絵の赤が、いま、失われている**ことがある。〉**〉)
**終わり**。
(**(1)**1777年、**フランスの博物学者**ティエリ・ド・メノンヴィル**が、**
**——**オアハカから、**虫と、サボテンを、盗み出した**。
〈**——**そして、**ハイチで、栽培しようとした**。
**——**失敗した**。〉
**(2)**19世紀、**カナリア諸島とグアテマラ**で、**栽培が、広がった**。
**(3)そして、**1856年以降、**合成染料**。
〈**——**モーヴ、そして、**アリザリン**(1868年、茜の色素の合成)、そして**アゾ染料**。
**——**桁違いに、安い**。
**——**そして、**均一である**。
**——**十九世紀末には、**コチニールの市場が、崩れた**。〉)
**そして、いま**。
(——**戻ってきた**。
〈**——**食品と、化粧品の、着色料**として**。
**〈——「カルミン」「コチニール抽出物」「E120」。**
**——ハム、ソーセージ、菓子、ヨーグルト、そして口紅。〉**
**——**理由**。
**〈——合成の赤色色素(特にタール系)への、**安全性の懸念**。**
**——そして、「天然」への、志向。〉**
**——**そして、**問題**。
〈**(1)**アレルギー**。
**——**稀に、**重いものが、報告されている**。
**(2)**そして、**「虫である」**こと**。
**——**菜食主義者と、いくつかの宗教で、**問題になる**。
**〈——2012年、**スターバックスが、いちごのソースに使っていたことが、問題になり、**
**——切り替えた。〉**
**——**そのため、**表示が、義務づけられている国がある**。〉
**——**そして、**ペルー**が、**いま、世界の生産の大部分**を、占めている**。〉)