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Event / できごと

唐辛子の伝播

The spread of the chili pepper
AD1550年頃
重要度 4

概要

中南米原産。コロンブスが胡椒だと思って持ち帰り、pimiento(胡椒)の名を与えた。ヨーロッパでは当初、観賞用と薬だった。広めたのはポルトガル船である。1500年代、インドのゴアへ、東南アジアへ、そして中国と朝鮮へ。日本には16世紀に伝わった(南蛮胡椒、高麗胡椒)。安く、育てやすく、暑い土地でよく実る。100年ほどで、四川、湖南、タイ、韓国、ハンガリーの食が塗り替えられた。伝統に見えるものの多くは新しい。

場所

長崎
32.75°N 129.88°E · 長崎県

本文

**原産地**。中南米。ボリビア南部からブラジル南西部にかけての地域が、野生種の起源とされる。栽培化は、メキシコで9000年前まで遡る。

マヤとアステカの食に、深く入っていた。ナワトル語で **chīlli**。トウガラシは、貢納の品目であり、薬であり、拷問の道具でもあった(子どもを煙で罰する記録が『メンドサ絵文書』にある)。

**1493年**。

コロンブスが、二度目の航海の記録に書いた。カリブの人々が「アヒ」と呼ぶ実を食べている。「彼らの胡椒(pimienta)である。……胡椒より優れており、誰も、これなしでは食べようとしない。きわめて健康によい」。

彼は、香辛料を求めて航海していた。**黒胡椒**の代わりを見つけたと思った。

だから、スペイン語で **pimiento**(胡椒)、英語で **pepper** と呼ばれることになった。植物学的には、黒胡椒(コショウ科)とはまったく別の、ナス科の植物である。

**ヨーロッパでの受容**。

冷たかった。

スペインとポルトガルの修道院の庭で栽培され、薬草として扱われた。北ヨーロッパでは、観賞用の鉢植えだった。

理由。ヨーロッパの気候では実が小さく、そして——**高価な香辛料の商売を、安い代替品が壊す**ことを、香辛料商人は望まなかった。

(例外は、後のハンガリーである。オスマン帝国経由で入り、パプリカとして根づいた。)

**ポルトガルが運んだ**。

広めたのは、スペインではなくポルトガルである。

彼らの航路。リスボン → 西アフリカ → 喜望峰 → ゴア(1510年占領)→ マラッカ(1511年)→ マカオ(1557年)→ 長崎。

この線に沿って、唐辛子が撒かれた。

- **アフリカ**。西アフリカと東アフリカ。ピリピリ、ベルベレ(エチオピア)。 - **インド**。1498年のガマの到達から数十年。ゴアから内陸へ。16世紀後半には南インドに定着。いま、インドは世界最大の唐辛子生産国である。 - **東南アジア**。タイ、インドネシア、フィリピン。 - **中国**。16世紀末、明の万暦年間の文献(1591年『遵生八箋』)に「番椒」として現れる。最初は観賞用と記されている。 - **朝鮮**。16世紀末〜17世紀初。文献の初出は1614年の『芝峰類説』で、「倭芥子」——日本から来た——とある。 - **日本**。16世紀。「南蛮胡椒」「高麗胡椒」。伝来の経路と時期には諸説あり、ポルトガル人が持ち込んだ説と、文禄・慶長の役の際の往来による説がある。

(韓国と日本で、互いに「相手から来た」と呼んでいるのが面白い。)

**なぜ速く広まったか**。

(1)**安い**。種を蒔けば育つ。誰でも作れる。高価な胡椒に手が届かない人が使えた。 (2)**暑い土地でよく育つ**。熱帯・亜熱帯で年中実る。 (3)**保存が利く**。乾かせば長く持つ。 (4)**塩の代わり**になる面がある。塩が高価な内陸で、味を付ける手段になった。 (5)**発汗**。暑い地方で、辛いものを食べると汗が出て、体温が下がる。 (6)**殺菌**。冷蔵のない時代、香辛料には食品の腐敗を遅らせる作用がある。暑い地方ほど香辛料を多用する、という統計的な傾向が報告されている。

**辛さの正体**。

**カプサイシン**。哺乳類の口の中の、熱を感じる受容体(TRPV1)に結合する。だから、実際には熱くないのに「熱い」と感じる。

なぜ植物がこれを作るのか。**哺乳類に食べさせないため**である。哺乳類は種を噛み砕く。鳥は丸呑みして、種をそのまま遠くへ運ぶ。鳥にはTRPV1のこの反応がない。だから、鳥は辛さを感じない。

(人間は、その防御を「おいしい」と感じるようになった、唯一の哺乳類である。心理学者ポール・ロジンは、これを「良性のマゾヒズム」と呼んだ。危険の信号を、安全だと知りながら楽しむ。)

**辛さの単位**。1912年、ウィルバー・スコヴィルが考案した**スコヴィル値**。もとは、辛味を感じなくなるまで砂糖水で希釈した倍率を、人間の味見で測るものだった(いまは化学分析で換算する)。

ピーマン0。ハラペーニョ2500〜8000。ハバネロ10万〜35万。現在の最高記録の品種は200万を超える。純粋なカプサイシンは1600万。

**食の書き換え**。

いま「その土地の伝統」と見えるものの多くが、500年に満たない。

- **四川の麻辣**。花椒(在来)と唐辛子(新来)の組み合わせ。唐辛子が四川に定着したのは18世紀とされる。 - **湖南の辣**。 - **韓国のキムチの赤**。もともとのキムチは白かった。赤くなるのは18世紀以降。 - **タイのグリーンカレー**。 - **ハンガリーのグヤーシュ**。パプリカが入るのは19世紀。 - **インドのヴィンダルー**。ポルトガル語の「vinha d'alhos(ワインとにんにく)」が語源で、ゴアで生まれた。

食文化は、思うより新しく、思うより移動している。

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