概要
1194年の火災の後、四半世紀ほどで再建された大聖堂に、176の窓が入った。中世の窓としては、これほどまとまって残っている例が他に無い。ガラスは溶かす段階で金属を混ぜて色を付ける。青はコバルト、赤は銅である。とりわけ12世紀の青は、後の時代に再現できなかった。文字を読めない者に聖書を見せる絵だと説明されるが、高い窓の細部は地上から見えない。窓の下部には、寄進した同業組合の職人が働く姿が描かれている。
場所
48.45°N 1.49°E · フランス
本文
**火事**。
**1194年6月10日**。
(——**シャルトルの町と、大聖堂が、燃えた**。
**残ったのは、**西正面(王の扉口)と、二つの塔、そして地下聖堂**である**。
〈**火事の三日後、**焼け跡から、聖遺物が無事に発見された**、と伝えられる**。
**「聖母の衣」**(Sancta Camisia)——**マリアがキリストを産んだときに着ていたとされる布**。
**——それが、寄進を、爆発的に集めた**。
〈**「聖母が、より立派な家を望んでおられる」**と解釈された。〉〉)
**再建**。
(**1194年から、およそ1220〜1230年**。
——**約三十年**。
**中世の大聖堂としては、**異例に速い**。
〈**多くの大聖堂は、**百年、二百年かかる**。
**だから、**様式が、途中で変わる**。
**——シャルトルは、**ほぼ一つの様式で、統一されている**。〉)
**窓**。
**176の窓**。
**面積——約2,600平方メートル**。
(——**12世紀から13世紀の窓が、**これほどまとまって残っている例は、他に無い**。
〈**ほとんどの大聖堂は、**宗教改革、革命、そして戦争で、窓を失った**。
**シャルトルは、**残った**。
——**そして、**第一次大戦と第二次大戦の際には、**窓を外して、疎開させた**。
〈**1939年、**職員と町の人々が、**すべての窓を外して、番号を付け、地下と各地に隠した**。
**戦後、**元の位置に戻した**。〉〉)
**色**。
**ガラスに、色を付ける方法**。
(——**塗るのではない**。
**溶けたガラスに、**金属の化合物を混ぜる**。
**——色が、**ガラスそのものの中にある**。
**だから、**褪せない**。
〈**表面に描くのは、**輪郭と陰影の線だけ**である**(グリザイユ)。
**それを、**焼き付ける**。〉)
**青——コバルト**。
**赤——銅**(あるいは金)。
**黄——鉄、あるいは硫黄**。
**緑——銅と鉄**。
**紫——マンガン**。
**「シャルトルの青」**。
(——**特に、**12世紀の窓**(西正面の三つの窓、そして「美しき絵ガラスの聖母」)の青が、有名である**。
〈**深く、そして、光を通すと、**紫がかった、独特の色になる**。〉
**そして——**後の時代に、再現できなかった**。
**理由の推定**。
**(1)**原料の組成**。
〈**ソーダ灰ではなく、**木灰(カリ)**を使った時期がある**。
**そして、**混じっていた不純物**が、色に効いた可能性がある**。〉
**(2)**ガラスの厚みと、気泡**。
〈**中世のガラスは、**均一ではない**。
**厚みが場所によって違い、**気泡と筋が入っている**。
——**そのために、**光が散乱し、色が揺らぐ**。
**均質な現代のガラスでは、**そうならない**。〉
**(3)そして、**八百年の風化**。
〈**表面が、**微細に腐食している**。
——**それが、**光の入り方を変えている**。
**つまり——**作られた当時の色は、いまとは違った**可能性がある**。〉)
**赤**。
(——**赤は、**極端に濃くなる**。
**そのままでは、**黒くしか見えない**。
**だから、**「フラッシュ・ガラス」**にする**。
〈**透明なガラスの上に、**ごく薄い赤の層を、重ねる**。
——**吹く段階で、二層にする**。〉)
**鉛**。
(**ガラスの破片を、**鉛の桟(ケイム)**でつなぐ**。
——**鉛は、柔らかい**。**曲げられる**。
**そして、**その黒い線そのものが、絵の輪郭になる**。
〈**近くで見ると、**線が太すぎる**。
**遠くから見ると、**それが、形を作っている**。〉)
**主題**。
(**旧約と新約の物語**。**聖人伝**。**そして——**エッサイの樹**(キリストの系図)。
**「美しき絵ガラスの聖母」**(Notre-Dame de la Belle-Verrière)——**12世紀の窓の一部が、13世紀の窓に組み込まれている**。〉)
**「貧者の聖書」**。
(——**「文字を読めない人々のために、絵で聖書を見せた」**という説明が、よくされる**。
〈**13世紀の神学者ギヨーム・デュランドが、そう書いている**。〉
**しかし——**問題がある**。
**(1)**高い窓の細部は、地上から見えない**。
〈**上部の窓は、**20メートル以上**の高さにある**。
**——人物の顔も、持ち物も、識別できない**。〉
**(2)**図像の意味は、教育を受けていなければ読めない**。
〈**「これは誰か」を知るには、**持ち物の約束事**を知っていなければならない**。〉
**(3)そして、**色ガラスは、暗い**。
〈**中世の大聖堂の内部は、**現代人が想像するより、はるかに暗い**。〉
**——だから、近年の研究では、**「読ませるため」より、「光そのものを、神の顕現として見せるため」**という理解が、有力である**。
〈**シュジェール**(サン=ドニ修道院長、ゴシックの先駆者)**が、そう書いている**。
**「物質的な光を通して、非物質の光へ、心が高められる」**という趣旨のことを。〉)
**寄進者**。
(——**窓の下の部分に、**小さな絵**がある**。
**そこに、**寄進した人々が、描かれている**。
**そして、その多くが、**同業組合**である**。
〈**パン屋、肉屋、毛皮商、両替商、車大工、桶屋、石工、酒屋、水運び、そして——**織物商**。
——**彼らが、**自分たちが働いている姿**を、描かせた**。
**パンをこねる。樽を作る。布を測る。魚を売る**。〉
**——これが、**極めて貴重な史料になった**。
〈**13世紀の職人の、**道具と、服装と、作業の姿**が、そこに描かれている**。
**文字の記録には、残らないものである**。〉
**ただし——**「その組合が寄進した証拠」として、これをどこまで読めるかは、議論がある**。
〈**近年の研究では、**寄進者を示すというより、社会の秩序を描いた図像**として読むべきだ、という説もある**。〉)
**そして、いま**。
(**2009年から、**大規模な洗浄と修復**が行われている**。
——**内部の壁を、**中世の状態(白い塗装)に戻す**という方針が、採られた**。
**そして、**論争になった**。
〈**「八百年の時が作った雰囲気を、壊している」**という批判がある**。
**「元の姿に戻しているだけである」**という反論がある**。
——**修復とは何か、という問いが、そこにある**。〉
**窓は、**世界遺産である**(1979年、大聖堂として登録)。)