概要
グラスゴーのジョゼフ・ブラックは、氷に火をあてても、溶けきるまで温度が上がらないことに引っかかった。熱は入っている。温度計は動かない。では入った熱はどこへ行ったのか。彼は、熱が氷を水に変えることそのものに使われていると考え、これを潜んだ熱と呼んだ。沸騰する湯も同じで、湯気になるまで温度は上がらない。同じ重さの物でも、温めるのに要る熱の量が違うことも測った。温度計が指す数と、出入りする熱の量は別物である。この区別が、蒸気機関の効率を考える土台になった。
場所
55.86°N -4.25°E · イギリス・スコットランド
本文
**溶けるまで**。
(——**氷に、**火を、あてる**。
〈**(1)**温度計を、**差しておく**。
**(2)**そして、**待つ**。
**(3)さらに、**氷は、**だんだん、**水になっていく**。
**(4)そして、**温度計は、**動かない**。〉
**——**溶けきるまで、**零度のまま**である**。
〈**——**熱は、**入っている**。
**——**炭は、**燃えている**。
**——**それなのに、**数字は、**変わらない**。〉
**——**どこへ、**行ったのか**。〉
**ブラック**。
(——**ジョゼフ・ブラック**(1728〜1799年)。
〈**(1)**ボルドーの生まれ**。
**〈——父は、**ワインを商う、**スコットランド系の商人**。〉**
**(2)**そして、**グラスゴー大学**で、**教えた**(1756〜1766年)。
**(3)さらに、**エディンバラへ、**移った**。〉
**——**その前に、**別の仕事**を、している**。
〈**——**「固定された空気」**。
**——**石灰石を焼くと、**出てくる気体**である**。
**——**いまの、**二酸化炭素**。
**——**空気が、**一種類ではない**ことを、**秤で、示した**。〉)
**測る**。
(——**やり方は、**単純である**。
〈**(1)**同じ大きさの、**氷の塊**と、**零度の水**を、**並べる**。
**(2)**そして、**同じ部屋に、**置いておく**。
**(3)さらに、**水のほうは、**すぐに、**温まっていく**。
**(4)そして、**氷のほうは、**何時間も、**零度のまま**、**溶け続ける**。〉
**——**差を、**数にする**。
〈**——**氷を、**同じ重さの水に、変えるだけ**のために、
**——**その水を、**零度から、**八十度近くまで**温めるのと、**同じだけの熱**が、**要る**。〉
**——**沸騰も、**同じである**。
〈**——**百度に達したあと、**いくら焚いても、**湯の温度は、上がらない**。
**——**熱は、**湯を、**湯気に、変えるために、**使われている**。
**——**しかも、**こちらは、**もっと大きい**。〉
**——**ブラックは、**これを、**「潜んだ熱」**(latent heat)と、呼んだ**。
〈**——**温度計に、**現れない熱**である**。〉)
**もう一つ**。
(——**同じ重さ**の、**違う物**を、**同じだけ、温める**。
〈**——**水**。
**——**水銀**。
**——**鉄**。〉
**——**要る熱の量が、**違う**。
〈**——**水は、**温まりにくい**。
**——**そして、**冷めにくい**。
**——**水銀は、**すぐに、温まる**。〉
**——**これが、**「比熱」**である**。
〈**——**だから、**海のそばの土地**は、**冬も、**急には冷えない**。
**——**そして、**鍋より、**中の水のほうが、**熱を、多く抱え込む**。〉)
**ワット**。
(——**同じころ、**同じ大学に、**器械の修理をする男**がいた**。
〈**——**ジェームズ・ワット**。
**——**ブラックは、**彼に、金を貸してもいる**。〉
**——**ワットが、**直そうとしていた**のは、
〈**——**[[newcomen-engine]]**の、模型**である**。
**——**この機関は、**同じ筒**を、**蒸気で温め、**水で冷やし、**また温める**。〉
**——**なぜ、**石炭を、**あれほど食うのか**。
〈**(1)**筒を、**冷やす**たびに、**溜めた熱を、**捨てている**。
**(2)**そして、**次に、**蒸気を入れると、
**(3)さらに、**その蒸気は、**まず、**筒を温めるのに、**使われてしまう**。
**〈——湯気が、**水に戻る**ときに、**出す熱**。**
**——**潜んだ熱**が、**そこで、**無駄になっている**。〉〉
**——**1765年、**ワットは、**冷やす場所を、**筒の外に、**分けた**。
〈**——**[[watt-steam-engine]]**。
**——**筒は、**熱いまま、**保てる**。
**——**石炭の量は、**大きく、減った**。〉
**——**ブラックの考えが、**そのまま、**設計に、なったかどうかは、**議論がある**。
〈**——**ワット自身は、**ブラックから、**学んだ**と、言っている**。
**——**一方で、**機械をいじるなかで、**先に、気づいていた**とも、言われる**。〉)
**残ること**。
(——**温度**は、**熱くなり方**である**。
〈**——**熱**は、**量**である**。
**——**二つは、**別のもの**である**。〉
**——**この区別が、**無いと、**何が、困るか**。
〈**——**「何度まで上げるか」**しか、**考えられない**。
**——**「どれだけ入れて、**どれだけ捨てたか」**が、**数えられない**。
**——**効率**という言葉が、**使えない**。〉
**——**百年後、**熱の出入りを、**きちんと数える学問**が、できる**。
〈**——**熱力学**である**。
**——**その最初の一段が、**「温度計が、動かない時間」**に、**目を留めたこと**だった**。〉)