人物

イマニュエル・ウォーラーステイン

Immanuel Wallerstein
AD1930年9月28日 – AD2019年8月31日(享年88)
アメリカ合衆国重要度 3

概要

アフリカ研究から出発し、国を単位に発展を語ることをやめた。中心と周辺からなる一つの世界経済として、16世紀以降を書き直す。

所属

アメリカ合衆国

本文

イマニュエル・ウォーラーステインは1930年9月28日、ニューヨークに生まれた。両親はヨーロッパから移ってきたユダヤ系の家庭で、家では政治や国際情勢がよく話題になったという。地元のコロンビア大学で学士から博士までを取り、そのまま同大学で社会学を教えはじめた。

ウォーラーステインが用いた中心・周辺モデル
ウォーラーステインが用いた中心・周辺モデルWikimedia Commons Mirkyton · CC0

若いウォーラーステインが最初に打ち込んだのは、アフリカだった。1950年代、アフリカの植民地は次々に独立へ向かっていた。彼は西アフリカのイギリス領ゴールドコースト(のちのガーナ)とフランス領コートジボワールを訪れ、両地域の独立運動を比べる研究で博士号を取った。アフリカ研究者として本を書き、アフリカ研究の学会の会長も務めている。

研究を続けるうちに、ウォーラーステインは行き詰まりを感じた。新しく独立した国々は、なぜ豊かになれないのか。当時の主流の考え方では、どの国も伝統から近代へと同じ段階を順に上っていくはずで、遅れているのは国の中に原因があるとされた。だがアフリカの国々をいくら内側から調べても、答えは出ない。ラテンアメリカの研究者たちが唱えていた従属論は、貧しい国の貧しさは豊かな国との関係から生まれる、と論じていた。ウォーラーステインはその考えに学び、さらに進めた。問いの立て方そのものが間違っているのではないか。国を単位に発展を考えるのをやめ、もっと大きな単位で見るべきではないか。

1968年、コロンビア大学では学生たちが校舎を占拠し、ウォーラーステインは大学と学生のあいだに立って調停にあたった。この経験も、既存の学問への疑いを深めたとされる。やがてカナダのマギル大学に移り、ヨーロッパの近世史を読みあさった。

そして1974年、『近代世界システム』の第1巻を出した。舞台は16世紀である。この頃、ヨーロッパを中心に一つの「世界経済」が生まれた。それは一つの帝国ではなく、多くの国家にまたがる分業の仕組みだった。北西ヨーロッパは工業と商業と金融を握る「中核」になり、東ヨーロッパやアメリカ大陸は穀物や砂糖、銀を差し出す「周辺」に組み込まれた。周辺では農奴制や奴隷制のような強制労働が広がり(ポトシ銀山の開発)、中核では賃金労働と強い国家が育った。その中間には「半周辺」がある。周辺の貧しさと中核の豊かさは、一つの仕組みの表と裏だ、とウォーラーステインは論じた。

この見方には、フランスの歴史家フェルナン・ブローデルの影響が色濃い。ブローデルは、国の政治史ではなく、地中海という広い舞台で、何世紀もかけて動く経済や地理を描いてみせた(『地中海』の刊行)。1976年、ウォーラーステインはニューヨーク州立大学ビンガムトン校に移り、フェルナン・ブローデル・センターを作って、世界システムの研究の拠点とした。市場を社会の中に置き直して見るカール・ポランニーの議論からも多くを汲んでいる。

『近代世界システム』は、その後も書き継がれた。第2巻(1980年)はオランダの覇権と17世紀の停滞を、第3巻(1989年)は世界経済の拡大と大西洋の革命を、第4巻(2011年)は19世紀の自由主義を扱った。最初の巻から最後の巻まで、40年近くが過ぎていた。20世紀を扱う予定の巻は、完成しなかった。

世界システム論は、社会学だけでなく歴史学、政治学、人類学に大きな影響を与えた。一方で、経済の仕組みばかりを重く見て文化や政治を軽んじている、ヨーロッパの中心性を強調しすぎてアジアの経済の大きさを見落としている、といった批判も多く寄せられた。ウォーラーステイン自身は、こうした議論を歓迎し、論争を通じて理論を広げていった。1994年から98年までは国際社会学会の会長を務め、社会科学の学問の区切りそのものを見直すよう訴えた。

晩年のウォーラーステインは、いまの世界システムは長い危機と移行の時代に入っており、数十年のうちに別の何かに変わる、だがそれが何になるかは決まっていない、とくり返し書いた。1998年からは月に2回、時事の論評をネットで発表し続けた。2019年8月31日、コネティカット州で死んだ。88歳だった(物語「『近代世界システム』で読む歴史」)。

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