できごと

車輪の登場

Invention of the wheel
紀元前35世紀
年に諸説あり重要度 4
紀元前35世紀ウルク
このできごとには、まだ自由に使える図版が見つかっていません。 代わりに、このデータベースが持っている紀元前35世紀の版図を描いています。

概要

ろくろが先で、荷車は後だったとされる。この道具は独立に何度も発明されず、アメリカ大陸では運搬に使われなかった。

場所

ウルク
31.32°N 45.64°E · イラク・ムサンナー県

本文

車輪ほど当たり前の道具はない。だが人類が農耕を始めてから、車輪が現れるまでには5000年ほどかかっている。最初に回りはじめたのは荷車ではなく、陶器を作るための台だった。メソポタミアでは紀元前5千年紀から4千年紀にかけて、粘土を載せてゆっくり回す台が使われ、やがて勢いよく回して器を挽き上げるろくろになる。回転する円板という考え自体は、運ぶための車より先に、工房の中にあった。

荷車の車輪が現れるのは紀元前3500年前後からである。ここで不思議なことが起きる。ほぼ同じ数百年のうちに、車輪と車の証拠が、メソポタミア、黒海の北の草原、カフカス、中部ヨーロッパと、離れた土地にいっせいに現れるのである。ポーランドのブロノチツェで出た紀元前3500年ごろの壺には、四輪の車らしい絵が刻まれている。スロベニアのリュブリャナ近郊の湿地からは、紀元前3100年前後の木の車輪が車軸とともに出土した。メソポタミアの都市ウルク。都市というものの始まりの粘土板には、車輪の付いたそりのような絵文字が見える。

古い馬車の車輪。
古い馬車の車輪。Wikimedia Commons salvador pali from Hungary · CC BY 2.0

どこで最初に生まれたのかは決着していない。ただ、車輪と車軸の組み合わせは、ある時期に急に、ほぼ完成した形で広い地域に現れる。このため、一か所で生まれた技術が短い間に伝わったとみる研究者が多い。その道筋として、牛を使う草原の人々の移動を重く見る説もある。

難しかったのは円板そのものではない。回る車輪を、荷を載せた台にどうつなぐかである。軸が細ければ折れ、太ければこすれて回らない。車輪の穴と軸の太さが合っていなければ、すぐにがたつく。初期の車輪は、厚い板を3枚ほど組み合わせて円く削った重いもので、軸と一緒に回る作りと、軸は固定して車輪だけが回る作りがあった。どちらも、金属の刃物で木を精密に削る腕があってはじめて作れる。

原型的な車輪
原型的な車輪Wikimedia Commons John O'Neill, ( User:Jjron ) · CC0

引くのは牛だった。牛に引かせる重い車は、のろいが、それまで人が担いだり、そりで引きずったりしていた量の何倍もの荷を運べた。収穫物や薪、建材を運ぶ力は、農村と都市の結びつきを強めた。メソポタミアの南部では、紀元前2500年ごろの王墓から出た「ウルのスタンダード」に、ロバの仲間に引かせた四輪の戦車が描かれている。

車輪が軽く速くなるのは、紀元前2000年前後に、輻(スポーク)を持つ車輪が現れてからである。ウラル山脈の南の草原では、馬の家畜化と結びついた二輪の戦車の跡が見つかっている。馬に引かせた戦車はやがてオリエントから中国まで広がり、王たちの戦い方を変えた。のちにスキタイの騎馬遊牧が示すように、草原の人々は車と馬を手にしたことで、広い大地を移動しながら暮らせるようになった。

Bronocice potの図。ポーランドで出土、クラクフ考古学博物館蔵
Bronocice potの図。ポーランドで出土、クラクフ考古学博物館蔵Wikimedia Commons Ulamm · Public domain

それでも、車輪はどこでも使われたわけではない。車輪は平らで固い地面、つまり道があってはじめて役に立つ。山がちな土地や、ぬかるむ密林、砂の深い砂漠では、担いだり、家畜の背に載せたりするほうが早い。のちに西アジアや北アフリカでは、ローマ時代のあとに荷車がいったん廃れ、ラクダの背での運搬に取って代わられた地域がある。道を保つ費用まで考えれば、ラクダのほうが安かったとされる。

南北アメリカでは、車輪の原理は知られていた。メキシコ湾岸などメソアメリカの遺跡からは、小さな車輪の付いた土製の動物の像が出ている。だが荷車として使われることはなかった。牛や馬のような、車を引ける大きな家畜がいなかったことが大きいとされる。アンデスにはリャマがいたが、背に荷を載せることはできても、車を引くには小さすぎた。メソアメリカのような土地の起伏や、道の事情を挙げる見方もある。

車輪の歴史
車輪の歴史Wikimedia Commons KVDP · Public domain

車輪は、思いついた者がいれば広まる、という道具ではなかった。引く家畜、削る道具、走る道が揃ったところでだけ、車輪は回った。のちの肩で引くや蹄鉄のように、運ぶ力を引き出す工夫が後から積み重なってはじめて、車輪は本当の力を発揮する。一つの道具の陰には、それを使わせる環境ごとの物語がある。

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ウルク。都市というものの始まり紀元前35世紀
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