概要
シカゴ万国博覧会の桟橋に、環状の動く歩道が掛けられた。二重になっていて、外側は立ったまま、内側は腰を掛けたまま運ばれる。船着き場から会場までの数百メートルを歩かせないための仕掛けで、乗客を運んだというより、来場者に未来を見せる展示だった。七年後のパリ万博では三重の速度差を持つ版が現れ、乗り移りながら加速する。歩く速さを機械が肩代わりするという発想は、ここから空港や地下通路へ移り、いまでは長い乗り換え通路の標準になっている。
場所
41.88°N -87.63°E · アメリカ・イリノイ州
本文
**1893年**。
(——**シカゴ**。
〈**——**コロンブス万国博覧会**。
**——**アメリカ大陸到達から、**四百年**を記念する(一年遅れた)。
**——**そして、**「ホワイト・シティ」**と呼ばれた、白い会場**。〉
**——**問題は、**桟橋である**。
〈**——**湖から来る船が、**着く場所**。
**——**そこから、**会場までが、遠い**。
**——**数百メートル**を、歩かせることになる**。〉)
**掛けられたもの**。
(——**「移動歩道」**(moving sidewalk)。
〈**——**環状**である**。
**——**桟橋の上を、**行って、戻る**。
**——**そして、**二重になっていた**。
**〈——外側の帯は、**立ったまま**乗る。**
**——内側の帯は、**腰掛け**が付いている。**
**——速さが、違う。〉**
**——**乗り移りながら、**段階的に、速くなる**。
**〈——止まっている地面から、**いきなり、速い帯には、乗れない**。**
**——だから、**遅い帯を、間に挟む**。〉〉**
**——**運賃は、**五セント**と伝わる**。
〈**——**そして、**人気があった**。
**——**火事で、**一部が焼けている**。〉)
**何だったのか**。
(——**輸送機関としては、**小さい**。
〈**——**桟橋の上だけ**。
**——**会期の間だけ**。
**——**そして、**万博が終わると、**無くなった**。〉
**——**だが、**展示としては、**大きかった**。
〈**——**同じ万博には、**観覧車**が、初めて置かれている**。
**〈——フェリスの輪。**
**——エッフェル塔に対抗するために作られた。〉**
**——**そして、**電気による照明**が、会場を、埋めていた**。
**——**つまり**。
**〈——「未来は、こう動く」**という展示の一つ**として、**
**——動く歩道は、置かれた。〉**〉)
**パリ**。
(**1900年**。
〈**——**万国博覧会**。
**——**「動く歩道」**(trottoir roulant)が、**会場を、環状に、囲んだ**。
**——**全長、**三キロ以上**。
**——**そして、**高架である**。〉
**——**三段**になっていた**。
〈**(1)**止まっている、**乗り場**。
**(2)**そして、**遅い帯**(時速およそ四キロ)。
**(3)さらに、**速い帯**(時速およそ八キロ)。
**〈——歩く速さの、二倍。〉**
**——**掴まるための、**柱が、立っていた**。〉
**——**乗った人の記録が、**残っている**。
〈**——**乗り移るときが、**難しい**。
**——**そして、**転ぶ人がいた**。
**——**それでも、**会期中に、**数千万人**が乗ったと言われる**。〉)
**その後**。
(——**都市の交通としては、**広まらなかった**。
〈**——**理由**。
**〈(1)**速い帯に、**安全に、乗り移れない**。**
**——それを解く仕組みが、**当時、無かった**。**
**(2)**そして、**屋外では、**雨と雪と落ち葉**に、弱い**。**
**(3)さらに、**距離あたりの費用が、**軌道より、高い**。〉〉**
**——**代わりに、**残った場所**。
〈**(1)**空港**。
**〈——ターミナルが、**長くなりすぎた**。**
**——1958年、ダラス。**
**——そして、いま、どこにでもある。〉**
**(2)**そして、**地下の乗り換え通路**。
**〈——駅と駅の間が、**数百メートル**あるところ。〉**
**(3)さらに、**大きな展示場と、**斜めのもの**。
**〈——買い物かごを載せたまま、階を移れる。〉〉**
**——**そして、**速い版**の試みは、**続いている**。
〈**——**パリの地下鉄で、**時速九キロの版**が、**2002年に、試された**。
**——**故障が多く、**2011年に、撤去された**。
**——**百年前と、**同じ壁**に、当たっている**。〉)
**残ること**。
(——**歩く速さを、**機械が、肩代わりする**。
〈**——**それは、**歩けない人のためではなく、**
**——**歩かせたくない場所のために、**作られた**。
**〈——桟橋から、会場まで。**
**——搭乗口から、搭乗口まで。〉**
**——**建物が、**大きくなりすぎたとき**に、**現れる**。〉
**——**そして、**面白いこと**。
〈**——**動く歩道の上で、**人は、歩く**。
**——**設計者は、**立ったままを、想定していた**。
**——**だが、**急ぐ人は、その上を、歩く**。
**〈——だから、**「歩く側」と「立つ側」**が、自然に、分かれる。**
**——[[escalator]]の、**片側を空ける習慣**と、同じことが、ここでも起きた。〉**〉)