概要
柳の格子を蛇腹に広げて壁とし、放射状の垂木を輪で受けて屋根にする。羊毛を圧縮したフェルトで覆い、毛の縄で締める。釘も接着も使わない。二人で一時間ほどで組み、また畳める。頂の輪は煙を出し、光を入れ、そして時刻を測る目安になった。入口は必ず南を向く。内部の位置には決まりがあり、北が上座、西が男の側、東が女の側である。移動する家であると同時に、方位と序列を持つ小さな宇宙だった。
場所
47.20°N 102.83°E · モンゴル
本文
**構造**。
(**(1)**ハナ**(хана)——**壁**。
〈**——**柳の細い木を、**斜めに交差させ、**革紐で、留めた格子**。
**——**蛇腹のように、**畳める**。
**——**それを、**四枚から、八枚、輪に並べる**。
**〈——枚数で、大きさが、決まる。**
**——「四つ壁のゲル」「六つ壁のゲル」。〉**〉
**(2)**ウニ**(уни)——**垂木**。
〈**——**壁の上端から、**中央の輪へ、放射状に**。
**——**六十本から、**百本以上**。〉
**(3)**トーノ**(тооно)——**頂の、輪**。
〈**——**木の、円形の枠**。
**——**そして、**そこに、**垂木が、差し込まれる**。
**——**煙が、そこから、出る**。
**——**そして、**光が、そこから、入る**。〉
**(4)**エスギー**(эсгий)——**フェルト**。
〈**——**羊毛を、**湿らせ、**巻いて、**馬に引かせて、転がす**。
**——**繊維が、**絡み合って、**布になる**。
**〈——織らない。**
**——そして、**極めて、断熱性が、高い**。〉**
**——**それを、**二重、三重に、覆う**。〉
**(5)そして、**縄**。
〈**——**毛で、編む**。
**——**そして、**外から、締める**。
**——**釘も、**接着剤も、**使わない**。〉
**——**組み立て**。
〈**——**二人から三人で、**一時間から二時間**。
**——**そして、**畳めば、**ラクダか、荷車に、載る**。〉)
**内側の、決まり**。
(——**そして、**ここが、**単なる住居では、無い**理由である**。
〈**(1)**入口は、**必ず、南**を向く**。
**〈——理由。**
**——北風を、避ける。**
**——そして、**日の光が、頂の輪から、内部を、時計回りに、動く**。**
**——それが、**時刻の目安**になる。〉**
**(2)**北**が、**上座**である**(ホイモル)。
**〈——祭壇と、家の宝物が、置かれる。**
**——そして、客の中で、最も身分の高い者が、そこに座る。〉**
**(3)**西**(入って、左)が、**男の側**。
**〈——馬具、鞍、そして武器。〉**
**(4)**東**(入って、右)が、**女の側**。
**〈——炊事の道具。**
**——そして、寝床。〉**
**(5)**中央**に、**炉**。
**〈——そして、火は、**神聖である**。**
**——火に、水をかけてはならない。**
**——ごみを、投げ入れてはならない。〉**
**(6)そして、**敷居**を、**踏んではならない**。
**〈——極めて、強い禁忌である。**
**——モンゴル帝国の時代、**カアンの天幕の敷居を踏んだ使節が、殺された**、という記録がある。〉**〉
**——**つまり、**方位と、序列と、禁忌を持つ、**小さな宇宙**である**。〉)
**歴史**。
(——**起源は、**はっきりしない**。
〈**——**類似の構造が、**中央ユーラシアの、広い範囲**にある**。
**——**そして、**スキタイ**の記録に、**「車の上の家」**が、出てくる**。
**〈——ヘロドトス。**
**——「彼らは、家を、車に載せて、運ぶ」。〉**
**——**さらに、**匈奴と、突厥**。〉
**——**モンゴル帝国**。
〈**——**マルコ・ポーロと、**ルブルック**(フランチェスコ会の修道士、1253〜55年)が、**詳しく、記述している**。
**——**ルブルックの記述**(要旨)。
**「彼らは、家を、**柳の枝で、格子に組んで、作る**。……**
**……**それを、**白いフェルトで、覆う**。……**
**……**大きなものは、**幅が、三十フィートに及ぶ**。**
**……**そして、それを、**二十二頭の牛で引く車**に、載せて、運ぶのを、わたしは見た」**。
**〈——「載せて、運ぶ」ゲル。**
**——後に、**畳んで運ぶ**方式が、主流になった。〉**〉)
**そして、いま**。
(——**モンゴルで、**いまも、使われている**。
〈**——**人口の、**相当部分**が、**ゲルに住んでいる**、とされる**。
**——**そして、**ウランバートル**の、**「ゲル地区」**。
**〈——都市の周辺に、**ゲルが、密集している**。**
**——遊牧を離れた人々が、**土地を得て、そこに、ゲルを立てる**。**
**——市の人口の、**半数以上**が、そこに住む、とされる。**
**——問題。**
**〈——上下水道が、無い。**
**——そして、**冬の暖房**。**
**——石炭を、燃やす。**
**——ウランバートルの冬の大気汚染が、**世界で最も深刻な部類**になっている。**
**——「遊牧の家が、**都市に、定住した**とき、何が起きるか」。〉〉**〉
**——**そして、**外へ**。
〈**——**「ユルト」**(yurt、テュルク語系の呼称)**として、**欧米で、**流行している**。
**〈——グランピング。**
**——そして、代替的な住居。〉**
**——**そして、**モンゴルでは、**「ゲル」**である**。
**〈——「ユルト」は、**外からの呼び名**である。〉**〉)